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123話 マカオン星系破壊計画

 報告者の正気を疑う、信じがたい第一報が届いてから半月が経った。

 ケルビエル要塞からは、既に第四報が届けられている。


『ヘラクレス星系が、アンドロメダ銀河に跳ばされた』

『邪霊と組む先進異星文明と遭遇、攻略作戦を中止する』

『邪霊と争う先進異星文明と接触して、先進技術を得る』

『マカオン星系を破壊して、天都とアンドロメダを領域化する』


 4度の報告が届けられたのは、全て精霊帝ミラが座すアポロン星系であった。

 そのため後方司令部は、第二報で攻略作戦の中止を伝えられても、アポロン星系から撤収できなかった。

 そして第四報が届いてからは、ハルトに伝えられた天都星系侵攻のために、ヘラクレス星系侵攻作戦と同様に後方司令部として再稼働していた。


「再侵攻の準備を急げ。ヘラクレス侵攻作戦で揃えたものに、可能な限り近づけるのだ」


 ヘラクレス侵攻作戦のような規模の戦闘艇を揃えるのが厳しい事は、政府と軍部も承知していた。

 それでも可能な限りの準備を整えるべく、他の7星系から大規模な動員が行われ、アポロン星系に注ぎ込まれている。

 K型主系列星で、普段は薄暗い光で照らされているアポロン星系だったが、第二次ヘラクレス侵攻作戦の発動前からは、王国が展開させた数多の巨大人工物が、尽きない光で星系を輝かせていた。

 なおハルトから一方的に届けられた報告に関しては、女王ユーナが全てを承認している。


「司令長官アマカワ元帥の提案を全て認めます。これは国家の存亡、そして遥か未来まで続く、王国民の人生に直結します。政府、諸将、諸侯、全王国民は、直ちに実行なさい」


 ユーナの命令には、マカオン星系に移した太陽系民の再移住も含まれる。

 戦時における女王や司令長官の役割の1つが、議会で議論をしていては間に合わない緊急事態に決断を下す事だ。

 王国は女王と司令長官の両者に、そのための立場と権限を与えている。

 司令長官アマカワ元帥が申請して、女王ユーナが許可した作戦は、王国の社会制度上の正当な行為なのだ。

 そして敵星系である天都を領域化するために、既に王国民が居住していないマカオン星系を使い潰すのであれば、議会で問われても、堂々と説明できるほどには明確に必要な行為だった。


 マカオン星系は、太陽系民を移民させて4ヵ月しか経っていない。

 やっと新天地に慣れてきたところであって、さらに居住地を変えさせられるのは一般的に好ましくは無いだろう。だが、女王と司令長官が判断した結論は、元太陽系民の心証よりも、王国民の安全だった。

 明確な方針を示された政府、諸将、諸侯、そして王国民は、素直に従った。

 ヘラクレス侵攻作戦において、前線基地を作るべく2つの転移門を往復していた貴族達のうち、門が閉じたタイミングでアポロン星系に居た貴族達は、アポロン星系からマカオン星系に向かって、大型移民船団を発進させていった。


「火星と同様に、精霊王2体を誕生させる必要があるわ。一度の命令で従わない人間は、乗せなくて良いわよ」


 後方司令部の責任者を務める副司令長官のコレットは、諸侯を送り出す際に、責任者としての立場で明言した。

 部下や徴用貴族に忖度させるのでは無く、ユーナの名を傷つける事もせず、コレットが責任を負う形を取ったのだ。元々優秀なコレットは、ハルトが居なくても、そのくらいの判断は行えた。


 そして大型移民船団が発進した頃には、帰還途上にあったヘラクレス侵攻軍の残存部隊とも、通信が繋がっていた。

 ヘラクレス侵攻軍は、投入した戦闘艇3億4413万艇が殆ど壊滅した一方で、ケルビエル要塞の後ろで前線基地を作っていた部隊は無事だった。

 無事だったのは、ハルトが戦闘艇同士の潰し合いに巻き込ませるのが惜しいとして後方に下げた、王国軍と貴族の艦隊である。そのため将官や王侯貴族達も、粗方は無事だった。


「邪霊帝が、目標をケルビエル要塞に定めていたからでしょうね」


 御前会議と諸侯会議を同時開催した席上、どちらの出席資格も持つコレットは、損害に関して自らの見解を述べた。

 流石に言葉は選んで、「ケルビエル要塞の他は、歯牙にも掛けなかったからだ」とは言わない。

 邪霊帝にとって王国民は、邪霊帝に対抗できる精霊帝と組むハルトと、邪霊帝にとって全く脅威とならない集団構成員の2種類でしかない。

 だから邪霊帝が目標をケルビエル要塞に定めた結果、その範囲の外側に居た『どうでも良いその他の集団』は無事だった。最初から相手にされていなかったのだ。

 そのおかげで王国は、大型戦闘艇や戦略衛星を失った他には、それほど大きな損害を受けずに済んでいる。

 参謀長官のリーネルト上級大将は、損害を早期に回復できると判断した。


「二種類存在する大型戦闘艇のうちスルトは、人員補充が王国民の枠外にある、元フロージ共和国民を動員して稼働させている。二度目の志願兵募集で、同数は集められるだろう。戦略衛星も問題ない」


 王国に避難した元フロージ共和国民は、約80億人だ。

 そのうち1億6413万人が志願して、その家族など約12億人が限定的な王国籍を得てヘカテー侯爵領に移住している。

 つまりアルテミス星系には、未だ66億人が残っているのだ。

 先にヘカテー侯爵領に移った人々が得られた住居や財産、新領地での新生活などを伝えて二次募集を行えば、再び1億6413万人は集められるだろう。

 それどころか、王国軍におけるスルトの比率を上げる覚悟さえすれば、失ったイスラフェル1億8000万艇分もスルトで補充可能となる。

 また戦略衛星は、深城星系に数多ある天体を牽引すれば、新たに建造可能である。

 ヘラクレス星域会戦で戦略衛星は使い切ったが、1ヵ月もあれば、魔素機関を取り付けて流体金属で覆う程度の作業は出来る。そして王国は、当然ながら再建造も進めさせていた。

 従ってリーネルトは参謀長官の立場として、損害の回復は早期に可能だと判断した。


「会戦の結果をどのように判断すべきか、総評に迷いますな」


 王国の副軍政長官で、様々な戦闘艇を導入してきたエルマー・シュミット大将は、各所に配慮して回りくどく発言した。

 女王から視線で発言を促されたシュミットは、補足説明を口にした。


「我々が、ヘラクレス星系を攻略出来たか、否かで考えれば、否となります。ですが、天の川銀河からは追い出しており、到達可能距離にある敵星系の排除という点では、目的を達成出来ております。故に会戦結果の総評には、迷います」


 説明を受けたユーナは、理解を示す意を込めて頷いた。

 ヘラクレス星系は、マクリール星系から250光年に存在していた。それは邪霊と契約した魔素機関の稼働者で、片道1ヵ月半の距離だ。

 それは至近であって、いつ王国に侵攻して来るのか、周辺宙域に進出されるのかも知れず、王国にとって大きな脅威となっていた。


 だがアンドロメダ銀河は、250万光年の彼方に存在する。邪霊と魔素機関があっても、片道1250年という長大な時間を要する距離だ。

 進撃中の艦船で技術発展できない敵艦隊は、到着時には1250年前の古い技術で作られた無力な集団になっている。

 そもそも1250年も経過すれば、相当数の世代交代が行われている。その間に「なぜ進撃し続けなければならないのか」と考えた世代が馬鹿馬鹿しくなって、行軍など止めてしまうだろう。

 従って、250万光年の彼方に跳ばされたヘラクレス星系は、転移門さえ塞いでしまえば、距離的に脅威では無くなるのだ。


「ようするに、天都さえ攻略すれば脅威が消える訳です。そして小官は、天都攻略に関しては、あまり心配しておりません」


 シュミットが不安を抱かない理由は、第四報を出したハルトが、アンドロメダ銀河から戻って、天都に進撃する予定を伝えていたからだ。

 天都に領域を展開しているのは邪霊王だ。他ならぬハルトが、大泉と本陽を相次いで攻略した後に天都へ進撃して、自身の精霊に確認させている。

 そのハルトが、攻略できると判断したのだ。

 ハルトが精霊帝を用いて、邪霊王を排除した実績は、アポロン星系で有る。それを再現するのであるから、同様の展開になるとシュミットは見なしたのだった。


 軍の対応に関して承認が出ると、次に政府の方針が話された。

 首相のスタンリーが言い難そうに、将来の難題を挙げた。


「天都星系と、アンドロメダ銀河の星系は、将来的に、どなたが管理を為さいますか。一時的には政府と軍で行うにしても、永遠には出来ません」


 それは女王を退位したいユーナが決めたくなくて、天都侵攻前で次王が確定していないベルナールとジョスランにも決められない内容だった。


 もしもユーナが決めるのであれば、大鉈を振るう。

 まずは、序列1位の侯爵であるカルネウスと、序列2位の侯爵であるアマカワに対して、公爵への陞爵を行う。

 次いで、タカアマノハラ大公家の領地を巨大な人口を持つ天都に移して、空いたマクリール星系をカルネウス公爵家に任せる。

 司令長官でもあるアマカワ公爵は、不可欠だが危険性も高いアンドロメダ銀河に据える。誰を据えるのかを考えれば、アマカワを据えるしか無い。

 ヘルメス星系に遷都予定だった王家は、情勢が不明瞭になったとして、精霊帝によって守りが万全なディーテ星系に残す。


 せっかく整えたマクリールから領地替えになる事も、アマカワを危険な地に据える事も、引き継ぎ中のカルネウスに負荷を掛ける事も、ユーナにとっては不満である。

 だがベルナールやジョスランが姉を追い出す提案をすれば、ユーナは心情的に不満を持つであろう。それだけでは済まず、第三者の諸侯や軍、王国民も、次王に対して非難囂々となる。

 だからユーナは、弟達の立場に慮り、自ら口にせざるを得なかった。


「今の領地替えに関する話は、あくまで案の1つです。現時点で敵国と、環境すら不明瞭なアンドロメダに対して、決定は行えません。まずは情勢が定まるまで待つことにします」

「流石は稀代の女王陛下であらせられますな」


 ユーナの滅私奉公にコースフェルト公爵が感心を示して、スタンリーの質問に対する一先ずの答えが出た。


「天華ヘラクレス同盟は、対等な協力体制を構築できたのでしょうか」

「出来るわけが無い。それほど優秀ならば、アンドロメダよりも遥かに交渉が容易な、同じ人類のディーテ王国を相手に、本質的には不利とならない条件で早々に終戦させている」


 スタンリーの疑問に、タクラーム公爵が口角を吊り上げながら皮肉げに嗤った。


「先に自陣営の全星系を領域化したのは、同盟側だ。そのタイミングであれば、王国4星系が領域化していなかった故に、王国星系を領域化する可能性を見せつつ折れてみせれば、終戦が出来ただろう。そして新星系に進出していけば、将来的に勝ち得た」


 タクラームが手順を語るのは、ジョスランが王位継承争いを殆ど確定させたからだろうか。

 状況が変化しすぎたが、天都の転移門を封じられるのであれば、天の川銀河側の安全は確立できる。その場合であれば、ユーナの退位には目処が付く。

 現段階に至っては、ジョスランの支援者であるタクラームも役に立つ事を示した方が、継承の可能性を高められる。


「邪霊を持たせても、指導者が愚か者であれば、脅威たり得ぬ。王国と天華では、王国が勝る所以だ」


 タクラームは皮肉っぽい表情を浮かべながらも、女王ユーナの統率力を認め始めた。

 それから先は、情報不足で大雑把にしか決められない話が続けられた。


 王国が遭遇したゴエティア族は、広大な版図を有する先進異星文明であり、高速演算できる量子思考体の種族だ。

 王国が技術を得て数万年の差を縮めても、相手が技術進歩する速度の方が早くて、現状では永遠に追い着けない。

 然るに、示せる方向性は次のようにならざるを得ない。


・王国は精霊を有するアドバンテージを活かしながら、より良い関係を構築する。

・天都の転移門を塞ぎ、精霊陣営だけが両銀河を行き来できる形にする。


 アンドロメダ銀河からハルトが戻ってきたのは、それらの暫定案が纏まった頃だった。


・あとがき


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 人違いで地獄に堕とされて、

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 高校生陰陽師の物語です。


 本作の経験を踏まえて、色々考えながら作りました。

 新作の方も応援、よろしくお願いします <(_ _)>

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― 新着の感想 ―
[良い点] タクラームの爺様も、無能って訳じゃねんだよな。 [気になる点] 何処の勢力も方針転換を是とするのはエエんやが、下が其れに適応っちゅうか、付いて行けてんのかいな。 [一言] 絶滅戦争っちゅう…
[気になる点] >「転生陰陽師・賀茂一樹」 > 人違いで地獄に堕とされて、莫大な陽気を与えられて輪廻転生した、高校生陰陽師の物語です。 続編かと思いきや一輝君とはパラレルな感じでしょうか
[一言] この物語も終わりが近いのかな。 ただ、俺たちの戦いはこれからだエンドになってしまいそうなところが残念です。
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