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114話 アンドロメダ銀河【4巻発売日のご報告】

・本作の4巻が発売されます。

 発売日は、2022年7月13日(水)です。

 是非、お買い上げ下さい。よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

 それら生命体の祖先は、ハイセアン惑星で誕生した。

 ハイセアン惑星(hycean planet)とは、水素のハイドロゲン(hydrogen)と、海洋のオーシャン(ocean)を混ぜた造語であり、水素に満ち溢れた大気の下に、全球的な海洋がある惑星を指す。

 地球よりも大きくて、大気の層が厚いハイセアン惑星のハビタブルゾーンは、恒星と潮汐ロックが掛かる近距離から、恒星光が殆ど届かない遠距離まで広範囲に及ぶ。

 ハイセアン惑星に生命が存在し得る可能性は、西暦2021年8月に、ケンブリッジ大学の研究チームによって指摘された。

 そしてアンドロメダ銀河に数多存在するハイセアン惑星の1つでは、確率論的に当然の帰結として、生命体が発生して進化した。


 幾億年という時を経て、高度な文明を築いたそれらは、人類から見た外見がクラゲに近い種族だった。

 クラゲとは身体がゼラチン質で、海などに浮遊して、触手を使って獲物を捕食する生物だ。

 それらの種族とクラゲとの違いは、電気信号を発して種族間の意思疎通を行い、海洋で養殖を行い、発展させた文明で外敵を排除し、やがて宇宙進出を果たした事だろう。

 海洋生物が行う宇宙進出は、陸上生物が行うよりも難易度が高い。

 だが人類よりも遥かに早く文明を築き、人類よりも効率的な意思疎通を行った結果として、それらは宇宙進出を成し遂げた。


『なぜ宇宙に進出するのか』


 それは惑星の果てにまで版図を広げた後、さらに繁栄するためには、未開の地が必要だからだ。

 もっとも恒星間移動には、容易に超え難い光速という速度と、老化による生体の寿命という、2つの大きな壁が立ちはだかる。星間進出に立ちはだかった問題を解決すべく、宇宙クラゲ達は身体を量子思考体に作り替えて、老化と寿命を克服した。

 かくして寿命を解決した宇宙クラゲ達は、時間を掛けて近隣星系に広がりながら、様々な技術を発展させていった。


 まずは、エネルギー技術が発展した。

 生み出されたのはダイソンスウォームの発展型で、恒星周辺に集光装置を無駄の少ない配置で大量に浮かべて、恒星のエネルギーを効率的に獲得するようになった。

 それによって恒星系内では、活動に要するエネルギーが不足する事は無くなった。


 次いで、縮退炉が作られた。

 それは人工ブラックホールを帯電させて、電磁気的に保持するものだ。エディントン限界で運転するブラックホールエンジンは、自動的に正に帯電するので、その保持が容易である。

 開発された縮退炉は、宇宙艦船の標準エンジンとなった。また縮退炉で発生させられる強烈な電磁波は、艦船の主砲に用いられるようになった。


 最後に、ゲート型ジャンプ航法が発明された。

 これは量子テレポーテーションの発展型で、量子化した物体をゲート先で再現するものだ。同一銀河系内で、移動元と移動先の双方にゲートを設置して、膨大なエネルギーと引き替えに光速を超える。

 恒星間の情報伝達速度と、移動速度が飛躍的に向上した宇宙クラゲ達は、やがて広大な宙域を跨ぐ、巨大星間文明を成立させた。


 最初の惑星引力圏脱出から、長大な歳月が過ぎ去った。

 アンドロメダ銀河の円盤部である直径26万光年の範囲で、およそ4分の1にまで進出を果たした宇宙クラゲ達は、現在5つの勢力に分かれていた。

 量子思考体と化した宇宙クラゲ達が、統一勢力を作れなかったのは、種族が異なったからだ。

 5勢力は、生物学的には近縁種であって、同一種ではなかった。

 分類大系の属までは同一だが、文明成立以前に枝分かれしている。種族的な関係性を人類で表すならば、ヒト属で100万年ほど前に分化した原人達に相当する。

 宇宙クラゲ達は、文明成立以前から長らく生存圏の競合関係や、もっと悪い捕食と被捕食の関係にあった。すなわち宇宙クラゲ達が争うのは、太古から続く自然の摂理である。

 ハイセアン惑星の海洋が広大で、なまじ種族が多くて牽制し合い、相手を滅ぼしきれずに星間文明まで至った宇宙クラゲ達は、身体を量子思考体に作り替えた時点で互いに交配する可能性も無くなり、種族として完全に分かれた。

 そして果てない宇宙進出と、生存競争を繰り広げていた……はずであった。


 ファーストコンタクトは、文明発祥のレメゲトン星系で、星域を支配していた勢力の身に起きた。


『身体を量子思考体に作り替えて、持っていた魔力を完全に失っちゃったんだね。あーあ、勿体ない。でも他の生命体を養殖すれば、瘴気の足しにはなるかなぁ』


 遥か彼方からの来訪者は、瞬く間に宇宙クラゲ達の意思伝達手段を分析すると、そのように宣った。

 アンドロメダ銀河の外から辿り着くという、隔絶した技術を有する存在に対して、5勢力の1角であるグレモリーは、最大限の慎重さを以てあたった。


「わたくし共に、何を求められますか」


 それは初手からの全面降伏だった。

 即座にこうべを垂れた王女に満足した邪霊王テイアは、寛大さを示した。


『未だ肉体を残す種族を家畜化して増産し、それらから瘴気を供しなさい。対価として、魔素を利用した高次元の移動が行えるようになります』

「貴女様の仰せに従います」


 全面的に服従して、決裂を避ける。

 そんなグレモリーの王女が行った選択は、新エネルギーと新技術の獲得という、望外の結果をもたらした。

 縮退炉は質量をエネルギーに変換しているが、宇宙に満ち溢れるダークエネルギーを用いれば、質量という燃料が不要となる。それどころか高次元空間を経由すれば、光速の壁すら超えられる。

 獲得した新技術は、ゲート型ジャンプ航法という既存の技術とも併用できた。

 2隻のゲート艦を配置して、魔素機関で情報を繋ぎ、確定させた物体を送り込む。これまで膨大なエネルギーと引き換えに遠方へ送っていた量子情報が、従来のエネルギーを消費しなくとも殆ど無制限で送れるようになったのだ。

 魔素機関を用いた技術は、情報伝達のみならず、攻撃や防御にも転用できた。

 圧倒的な力を得たグレモリーの王女イマミアは、やがて元老院を制圧して権力を一手に握ると、邪霊の力を以て侵略戦争を開始した。

 それは物理で戦っていた5勢力のうち1つだけが、攻撃魔法、防御魔法、転移魔法を併用するようになったが如き理不尽さだった。

 女王となったイマミアの侵略戦争は、残る4勢力のうち3勢力を3族連合の結成に走らせた。

 そして残り1勢力は、邪霊が遥か上位の文明だと理解して抵抗を断念し、グレモリーに従属した。


挿絵(By みてみん)


 現在の5勢力は、『グレモリー』が4割、従属した『シトリー』が1割。

 対抗する『クロケル』と『レラジェ』が2割、『ウェパル』が1割。

 勢力の天秤は、邪霊を得たグレモリーに日々傾きを増している。

 敗北を重ねた3勢力は、侵略者への対抗手段として、侵攻された星系の恒星を人工ブラックホールで破壊しながら、反対方向に進出する焦土作戦を採っている。

 侵略者の支配宙域が広がっても、何も得られなければ国力は増さない。そして空白地帯が生まれて互いの距離が開けば、多少なりとも時間を稼げる。

 もっともアンドロメダ銀河の円盤部は有限で、いずれは進出限界を迎えるだろう。現状を打開する見込みは、全く立っていなかった。




『オリアス星系、管理知能より、報告します。近接宙域に展開中のグレモリー軍が、当星系への進撃を開始しました。侵攻軍団長は、公爵級思考体、灰燼のアドレアナ。これまでの展開戦力は、当星系の防衛戦力と互角ですが、増援は継続して出現中。当星系の陥落は、4000時間から5000時間後と推定されます』


 他人事のように自身の消滅を予告する管理知能オリシスに対して、宙域総督である葬送のアルマロスは、不満を抱いた。

 だが管理知能の反抗は、設計的に有り得ない。それを理解するアルマロスは不満の表出を堪えて、沈黙と共に、両軍の潰し合いを見守る姿勢に入った。


 邪霊と組んだグレモリーの軍勢は、一定の距離を保ちながら味方を呼び続けて、戦力差で勝利が確定してから侵攻してくる。

 移動速度の絶望的な差から、グレモリーよりも早く救援を送り込む事は不可能だ。星系に取り付かれれば、敗北は必至である。

 対抗策は、可能な限り敵軍勢を減らして、恒星を使えないように潰してから撤退する事だ。

 後始末ばかりさせられたアルマロスは、敵味方の双方から『葬送』の2つ名まで付けられた。


「他銀河に逃げた方が、未来があるのではないでしょうか」


 副総督である鎮魂のディナが、アルマロスに最終手段を提案した。

 同じ局所銀河群にある天の川銀河などへ逃げる事は、技術的には不可能ではない。約250万光年を移動しなければならないが、アルマロス達の寿命が尽きる事は無い。

 逃げた先にあるのは、アンドロメダ銀河には無い可能性だ。

 アンドロメダ銀河には、宇宙クラゲであるゴエティアよりも発展した星間文明は、おそらく存在しない。アンドロメダ銀河の反対側に、同程度まで発展した星間文明が存在する可能性は残っているが、同程度の文明であればグレモリーには勝ち得ない。

 だが全宇宙の何処かには、ゴエティアよりも遥かに発展した文明が、確実に存在する。存在が確定したのは、グレモリーに力を貸す邪霊だけだが、邪霊の他に存在しないとはアルマロス達も考えていない。

 対抗文明と出会えば、アルマロス達の状況も改善する……というのがディナの主張である。


「高次元の存在である邪霊達は肉体を持たず、低次元に干渉するには、低次元の仲介者を必要とします。ですからグレモリーのような集団が力を貸さなければ、行動できないのです。そしてグレモリーだけを倒すのであれば、ゴエティアよりも発展した文明には可能です」


 アンドロメダ銀河全体に進出できる規模の文明であれば勝てる、と、ディナは考えている。

 残念ながら局所銀河群には、アンドロメダ銀河よりも大きな銀河は無い。だが、誕生した銀河から旅立ち始めた銀河間文明であれば、邪霊と組んだグレモリーであろうとも対抗できる。

 そんな可能性についてはアルマロスも否定しないが、実行するには別の問題があった。


「君の提案を否定はしない。数億光年を旅すれば、いつか見つかるだろう。だが数億年後にグレモリーは、さらに強大な勢力と化しているはずだ。逃げ続ける我々は発展できず、差が開く一方ではないか」

「ですが、滅亡は避けるべきです。降伏は有り得ません」

「無論だ。私は痛み分けを続けながら、臥薪嘗胆しているのだよ。だが銀河の果てに辿り着くまでに機会が訪れなければ、君は逃げてくれたまえ」


 アルマロスが銀河の果てに至るまでの想像を続ける間にも、彼の指揮下にあるクロケルの無人艦隊が、侵略者であるグレモリーの無人艦隊と戦い、対消滅を続けていった。

 宇宙に揺らめく青い炎と、赤い炎が、互いを浸食し合う。そのうち赤い炎が、強引に青い炎を押し込んでいく。


『オリアス星系、管理知能より、報告します』


 いつも通りの光景が、不意の報告で途切れた。


『侵攻軍団長、灰燼のアドレアナが、軍団の指揮を放棄し、オリシス星域から緊急離脱した模様。グレモリー軍の統制能力が、大幅に低下しました。グレモリー軍は進撃を中止して、陣形を縦深防御に変化させています』

「「…………はぁ?」」


 常に冷静な管理知能とは真逆に、宙域総督と副総督は唖然とした。

 直後、我に返ったアルマロスは、星域の全軍に命じた。


「全艦隊、直ちに全面攻勢に出ろ。本国、ウェパル、レラジェに対しては、この異常事態を緊急伝達せよ。そして可能な限り広域での反撃を求むと伝えろ」


 アルマロスの命令で青い炎が揺らめき、防御陣形に移行していく赤い炎に襲い掛かった。


『オリアス星系、管理知能より、宙域総督である侯爵級思考体アルマロスに確認します。本国を介さないウェパル、レラジェへの緊急伝達は、どのような理由に基づく判断ですか』

「勝利が確定していたグレモリーが、軍団を捨てて引くなど、邪霊王と契約する女王イマミアの危機でもなければ有り得ない。それほどの緊急事態が起きている。広域で反撃すれば、反応の差で、問題の規模と発生源を推定できる。逆に今調べなければ、分からなくなる。急げ!」


 相手を貫くほどに強い意志を放ったアルマロスの命令に続き、副責任者のディナが賛意を示した。


「副総督で伯爵のディナも、緊急事態と認めて全面的に肯定します。直ちに実行して下さい」

『緊急要項を満たしました。本国、ウェパル、レラジェに対して、緊急伝達を行います』


 その日アンドロメダ銀河には、邪霊に続く、2番目の旅人が訪れた。



・あとがき


書籍版4巻の予約、よろしくお願いします。

某公爵家の装置問題を解決させたり、色々しています。

書籍限定の書き下ろしも、入っております。

何卒、お取り寄せ下さいませ(o_ _)o))

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― 新着の感想 ―
[一言] 精霊が邪霊に反転するなら、邪霊も精霊に反転する条件があってもおかしくないような気はしなくもない
[良い点] 4巻予約しました。楽しみにしています!
[良い点] 4巻発売楽しみだ。 [気になる点] Amazon等で帯見ると完結とあるから書籍は4巻で終了か。 [一言] 二番目の旅人達によりクラゲ達がどうなるか楽しみだ。
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