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113話 ??????銀河【&3巻発売。告知漫画・第3弾公開】

本作のイラストレーター、芝石ひらめ先生が、

ご自身のTwitterに、告知漫画の第3弾を載せて下さいました!

(先生、すごく素晴らしい告知ありがとうございます!)


https://t.co/TbRcAzpIDy


告知漫画の4ページ目は、書籍版3巻に出てくる内容です。

ぜひぜひ、お買い上げくださいませ。

 邪霊帝が錫杖を振り上げて次元に穴を開けるのと、マヤが全ての戦略衛星をジルケの核に叩き込むのとは、殆ど同時だった。ルルがケルビエル要塞を強固に守った直後、割れた次元にヘラクレス星系の大部分が呑み込まれた。

 恒星ヘラクレスから、ケルビエル要塞が在った宙域までが、一瞬で白と黒の空間に吸い込まれて、押し流されていく。

 瞬時に恒星系外縁部の輝きを突き破り、その光が小さくなる事で、1光年の範囲を超えたのだとハルトは知覚した。

 それが10光年、50光年、100光年と遠ざかって、やがて置き去りにされたヘラクレス星系の恒星系外縁部が小さく見えなくなる。周囲に存在する数多の恒星も小さな光の粒となって、ハルトの視界から遠ざかっていく。

 ハルトが理解の範囲を超えた知覚を取り戻したのは、1万光年を超えた時だった。

 白と黒の空間に存在する白の密度が爆発的に高まり、天の川銀河の中心部に存在する恒星の密集地帯が見えた。そして10万光年を超えた時には、天の川銀河の全体像が鮮明に確認出来た。

 大マゼラン雲や小マゼラン雲、おおいぬ座矮小銀河などが小さく視界に映り、直ぐに判別できない小ささになっていく。こぐま座矮小銀河や、りゅう座矮小銀河らしき小粒の光も見えたが、確信に至る前に消えていった。

 白と黒の比率が、急激に黒で占められていく。

 一体何処まで流されるのか。そんな悪寒がハルトの全身を駆け巡った中、天の川銀河の大きさから手計算で確実に100万光年を超えた後、急速に白の比率が高まり始めた。


(吸い出されたヘラクレス星系が、何かに吸い寄せられている?)


 ハルトが直感した認識の正しさを確認する術など無いままに、ヘラクレス星系は白で満たされた光の中に押し込まれていった…………。




 大型スペースコロニーの中央司令センターに設けられた専用の座席で、ウンランは意識を取り戻した。吐き気と目眩が酷く、身体の中から不快感が込み上げてくる。

 それを浅い呼吸で耐えて、彼は周囲を見渡した。

 死屍累々……では無いものの、人間は軒並み倒れ伏しており、アンドロイド兵と救急カートが救護のために駆け回っている。

 何が起こったのかを振り返ったウンランは、ジルケが錫杖で虚空に穴を開けて、その中に全てを呑み込んでいく光景を思い浮かべた。

 一体何をしてくれたのだと抗議する事は容易いが、ウンラン達の状況では、そうせざるを得なかったと言い返されて終わるだろう。実際にウンラン達は、王国軍に負け掛けており、ジルケも42個の戦略衛星を投げ込まれていた。

 起死回生の一手を打ったのではないかと考えたウンランは、自らの契約邪霊である邪霊王マリエルに尋ねた。


『状況を教えてくれ』


 はたしてマリエルは、上機嫌で答えた。


『伝え方に迷うけれど、先ずは間に合わなくなる前に、あたしに直接契約を申し込んで欲しいな。セキチクという直接契約の言葉を含めて、あたしに契約しろと、言ってくれる?』

『分かった。直接契約してくれ、セキチク、これで良いか』

『うん、大丈夫。それじゃあ説明するね。ここはアンドロメダ銀河だよ。あたし達って、天の川銀河の人類だけが契約相手じゃ無いんだ。ここは、他の邪霊が居る銀河だね』


 一言ずつ、区切りながら説明したマリエルだったが、ウンランの理解は追い付かなかった。


『すまないが、もう一度言ってくれ』

『ここはアンドロメダ銀河。あたし達邪霊は、天の川銀河の外でも活動しています。この銀河には、星間文明に至った人類外の知的生命体や、それと契約する邪霊が居ます。分かった?』


 問われたウンランの回答は、現実を受け入れがたいというものだった。脳内で処理しようとして、思考がフリーズしたのだ。

 そしてウンランは、マリエルの説明に抗議した。


『情報を呑み込めていないところへ、新たな情報を増やさないでくれ』


 星間文明に至った人類外の知的生命体……という、強烈極まりない単語に、ウンランは常識の再構築を迫られた。

 そして順当な思考の末、一昼夜では済まない話を先送りする結論に至り、喫緊きっきんの問題を確認した。


『邪霊帝と精霊帝の戦いは、どうなった。それと戦況は分かるか』


 問われたマリエルは、中央司令センターのスクリーンにジルケが出現していた宙域の外部映像を映し出した。

 当該宙域では、ジルケが居たはずの謎の惑星が姿を消しており、砕けた無数の戦略衛星が浮遊していた。

 その映像にマリエルが手を伸ばすと、今までウンランが見えていなかった濃い灰色の惑星が現われる。灰色の惑星は、あたかも霊魂のように宇宙空間を漂いながら、ケルビエル要塞がある宙域に向かって流れていた。

 その現象についてマリエルは、口に出しては語らなかった。そしてウンランは、マリエルの表情を眺めて、邪霊帝の敗北を察したのであった。

 但し戦況に関しては、ウンランの予想は完全に外れた。


『ジルケ様の邪霊界を通過した時、中級精霊が耐え切れなくて、魔素機関が機能不全に陥った王国側の戦闘艇が、高次元空間に呑み込まれたんだよ。特異な精霊帝2体が守るケルビエル要塞は、流石に無事みたいだけれどね』

「何だと!?」


 ウンランは驚きのあまり、マリエルに伝えるのでは無く発声しながら、周囲の機器を操作して、中央司令センターのスクリーンに星系図を投影させた。

 星系図に、多次元魔素変換観測波の観測結果を重ね合わせるが、反応はケルビエル要塞のものしか見られない。

 そこへマリエルが手を伸ばすと、同盟の艦艇が次々と浮かび上がった。残存艦艇は2割ほどで、防戦宙域で静かに漂っている。その一方で、あれほど多かった王国の戦闘艇は、1艇も残っていなかった。分厚い雲のように宙域を覆い尽くしていた艦艇の爆発光も、全く見えなかった。

 ケルビエル要塞は無事らしくあるが、単独で2億艇もの戦闘艇を突破するのは不可能だ。ヘラクレス星域会戦は、同盟側が防衛に成功したと見なして良いだろう。

 もっとも現状は、会戦の勝利以外の問題が大きすぎたが。


『そろそろ、イシードルの邪霊王ニクセが動くと思うから、ちょっと離れるね』

『どういう事だ』

『イシードルはヘラクレス星人のために、支配者が居なくなったヘラクレス星系を再領域化しようとするはずだよね。そのタイミングが、一番都合が良いんだよ』


 そのように言い捨てたマリエルは、ウンランの目の前から姿を掻き消した。

 そして最初の異常現象は、大型スペースコロニーの真下にある惑星アルカイオスで発生した。

 惑星の地表近くの地下空間から、天都星系に領域を生み出した時と同様の空色の光が、一気に膨れ上がったのだ。そして恒星系に伸びようとした瞬間、スペースコロニーから発生した灰色の光が、空色の光に襲い掛かって捕縛した。

 それは蛸の触手が獲物に絡み付いて、取り押さえるような動きだった。

 空色の光は逃れようと藻掻いたが、灰色の光は光量を増しながら、高速で這い寄るように空色の光に迫って、瞬く間に侵食していった。藻掻き苦しむ空色の光の一部が、灰色の光に取り込まれて、削られてやせ細っていく。

 マリエルの侵食速度は加速度的に増していき、惑星アルカイオス全土に広がりながら、空色を塗り替えるように灰色の光で埋め尽くしていった。

 邪霊王のエネルギー量には、元々の差があった。

 フロージ共和国の3星系に侵攻した際、イシードルが有する邪霊3体に吸わせた瘴気が3分の2ずつで、残り3分の1ずつの合計1をマリエルが吸っている。

 マリエルとニクセでは、マリエルの保有エネルギー量の方が多い。さらに不意打ちまで仕掛けたマリエルが、ニクセに負けるはずが無い。

 やがて空色の光が残らず吸い取られると、灰色の光は恒星ヘラクレスへと向かって伸びていき、恒星と繋がった後に、恒星系全体へと広がっていった。


『マリエルの領域が広がったのか』


 マリエルと直接契約しているウンランには、ヘラクレス星系内にマリエルの領域が広がった感覚があった。領域は恒星系外縁部まで広がり、戦闘宙域に残っていた大量の魔素がマリエルに吸われていった。

 マリエルが広げた領域には、10億人近い屍が無残に浮かんでおり、それらと限定契約していた精霊と邪霊の複製体が残骸を漂わせていた。一つ一つが小さくとも、集めれば膨大な力になる。

 だが最も巨大で、密度も隔絶して高いであろう邪霊帝ジルケの光だけは、ケルビエル要塞側に吸い尽くされていった。

 一体どれだけの光を吸い続けただろうか。

 延々と流れ続ける光を見続けたウンランは、不意にマリエルの力が跳ね上がった知覚を得た。そして自身と契約する邪霊が昇格したと察した時、マリエルが狙って邪霊王を喰ったのだと理解した。

 最初から仲間意識の無かったマリエルは、邪霊王を背後から不意打ちして喰った事など気にも留めない様子で、ウンランに語り掛けた。


『お待たせ。でも後一つだけ、やらないといけない事があるの。ウンランが居た方が良いから、一緒に聞いてね』


 ウンランが頷いて了解の意を示すと、正面にあるスクリーンの一つの映像が乱れて、巨大なピンクのクラゲのような物体が投影された。


「うおっ!?」


 思わず声を上げて仰け反ったウンランの前で、ピンクのクラゲが三度点滅した後、瞬く間にピンクの巻き毛をした少女に姿を変えていった。

 そして笑顔でウンランに語り掛けた。


『あははっ、ごめんごめん、言語だけじゃなくて、姿も合せないとダメだったね。どうもー、マリエルちゃん……じゃなくて、マリエル様の契約者さん。わたしはテイアだよ。邪霊王テイア』

『テイア先生、お久し振りです。引っ張って下さって、ありがとうございました』


 意識を取り戻した時と同種の爆弾発言をされたウンランは、自己の立場に鑑みて意識を強く持つと、責任感から返答した。


『徐雲嵐だ』

『はい、どうもどうも、よろしくね』


 ピンクの巻き毛をした邪霊王を自称するテイアの軽い口調に、ウンランは反応に戸惑った。その混乱に構わず、マリエルは両者の顔合わせを終えたとばかりに、テイアに対して要請を出し始めた。


『早速ですが、こちらには複製邪霊を取り付けられる生命体が1000億体ほど有ります。あたしの契約者ウンランに属する56億体を除く全部を交渉材料に、ご協力をお願いします』

『それは凄く助かるけれど、貰ったら増やすから、取引が終わっちゃうよ。マリエル様も瘴気を集めて、邪霊込みの結晶体として出す方が、関係は長続きすると思うな』

『借りとか、色々と含まれているんですよ。でも先生のアドバイス通り、調整しますね』


 邪霊達の会話が、一体何を意味するのかを理解したウンランは、牧場に飼われる家畜を想像して怖気が走った。

 だが捕食者達の会話に、被捕食者であるウンランは迂闊に割り込めない。

 沈黙と共に見守るウンランの前で、マリエルが訴えた。


『天の川銀河、すごく不利なんです。あちらは、精霊帝と精霊王で10体くらい。こちらは5体で、残りはあたしと、お馬鹿な邪霊王1体だけです。ジルケ様は、最初から意欲なんて無かったのかもしれませんけれど』


 マリエルが無邪気に訴えると、テイアは穏やかな表情を浮かべながら頷いた。


『そっちの文明は、何光年くらいに広がっているのかな。こっちはアンドロメダ銀河の4分の1くらいだよ。身体を量子化して、魔力と瘴気を失っちゃったから、壁を越えられなくなっちゃった失敗文明だけど』

『あたしの方は、2000光年くらいです。魔力は、主要種族の一部が持っています』

『第二段階の初期文明で、1星系に1体なのかな?』

『そうですよ』


 目を見開いて驚いたテイアに対して、マリエルは可笑しそうに肯定した。


『それだけ魔力が濃い生命体だと、発祥惑星には、邪霊神様のエネルギー結晶体の欠片が在ったのかもしれないね。ほら、前の終末で、砕けて散らばったでしょう』

『人類が進化の過程で、結晶体の欠片に適応して、その力を取り込んだという事ですか。それなら世代ごとに継承魔力が下がる理由にも、説明が付くけれど、邪霊達が発祥惑星の地球に踏み入った時には、何の変化も無かったみたいですよ』


 マリエルが否定すると、テイアは首を傾げた。


『だったら邪霊が反応しないくらい、生命体が欠片を吸収し切った後なのかなぁ。そんな高濃度の生命体をエネルギーに変えられたなら、マリエル様はラッキーだったね』

『はい、とっても。先生にも分けますから、手伝って下さいね』


 マリエルと微笑み合ったテイアは、やがて表情を引き締めて宣言した。


『グレモリーに、先遣隊と作業船を送らせるよ』


 それは静かな海面が、急にうねり始めたような光景だった。

 ヘラクレス星系の一画に、灰色の魔素が、雷光のように強烈な輝きを放った。発生したそれは渦巻きながら、急速に拡大していき、周辺宙域に巨大な渦潮を発生させる。

 巨大な渦潮は、直径が2000キロメートルほどで、王国や同盟に見られる転移門と同程度の大きさだった。だが通常見られる転移門では無く、深城星系のような、特異なうねりを生み出していった。

 やがて渦潮の拡大が収まると、全長800メートル程の物体が数百個、全長5000メートル程の物体が8個、桃色の光に覆われながら、転移門から溢れ出してきた。

 出現した集団は、800メートル程の物体1個だけが魔素機関の反応を示した他は、未知の機関出力で星系内を移動し始めた。

 数百個の物体は、半数に分かれて、惑星アルカイオスとケルビエル要塞に向かう。魔素機関の反応を示した1個と、大きな物体8個は、共に恒星へ向かった。

 対するケルビエル要塞は、反転して急加速しながら、星系から離脱していった。


 西暦3746年4月。

 人類は別銀河で、先進異星文明と接触した。




挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)


★あとがき


Web版6巻をお読み頂き、ありがとうございました。


書籍版3巻は、本日(3月15日)より発売されます。

売り上げは、次巻の判断に凄く影響します。

ぜひお買い上げ下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ファ!?
[気になる点] ヘラクレス星系ごと別銀河に転移したのか。 王子二人、後方に下がってたけど無事かなぁ? 戦闘艇がほぼ壊滅で2億人くらい死んだのか。 天華はマリエルから邪霊結晶を得られるのか、そうでなけれ…
[一言] スケールがでかすぎて絶望感がすごい… 勝てるのか、そもそも生き残れるのか…
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