97話 次代侯爵
渦巻く転移門から、数百万の輝きが流星のように流れ落ちている。
それら光の洪水は、アポロン星系の転移門前に作り出された巨大宇宙港に向かって、真っ直ぐに流れ込んでいた。
そして巨大宇宙港からも、大量の物資を蓄えた同規模の洪水が、アポロン星系から6つ繋がる他星系へと、止め処なく流れ出している。
アポロン星系の惑星デルポイにあるカルネウス侯爵邸にて、ディナーの席上で中継映像を眺めていたハルトは、天空に輝く星々に評価を下した。
「並みの技量に達した操縦者が、それなりに増えてきたかな」
情緒的な表現が微塵も含まれない感想に、フィリーネはくすりと小さな笑みを零した。
数億人の戦闘艇操縦者は、操縦者の技術向上訓練と、王国経済の活性化を両立できる星系間の物資輸送を行っている。
マクリール、ディーテ、アテナ、深城、アポロン、アルテミス、ポダレイ。
王国が支配する9星系のうち、マカオン星系と太陽系を除いた7星系は、ハルトと直接契約する精霊帝ないし精霊王に領域化されており、転移門が繋がっているのだ。
旧連合であったマクリール星系や、旧天華であった深城との間に繋がれた転移門の存在は、物資の調達や操縦者の技量に寄与したのみならず、人類史上かつてない規模の絶大な経済効果を生み出していた。
そして転移門の利便性を実感するのは、各種の経済活動を行う民間人や、星系防衛を担う王国軍に留まらない。
侯爵位継承のために、先ごろ予備役に編入したカルネウス侯爵家令嬢フィリーネも、転移門の利便性を実感する一人だ。
「転移門のおかげで、引き継ぎが早く済みそうですわ」
フィリーネが侯爵位継承の引継ぎを始めたのは、アポロン星域会戦から1ヵ月が経過した7月からだ。
それまでの間に要塞駐留艦隊司令官の仕事は、同星系で一緒だったクラウディアに、引継ぎを終えた。なおフィリーネの予備役編入が契機になったのか、ユーナも同時期に予備役へと編入している。
転移門の存在は、様々な手続きや顔繋ぎに要する時間を大幅に短縮した。
今後のフィリーネは、祖父に付いて侯爵としての年中行事や役割、領地政府への指示の出し方、家同士の関係や取り決めなどを覚えて、徐々に侯爵の仕事を任せられて、最終的に爵位継承となるだろう。
説明を聞いたハルトは、引き継ぎに必要な期間を数年程度と見積もった。
「問題なく継承できるようになるのは、3年ほどか」
「一通り覚えるまでに、それくらいでしょうか。引き継ぎ期間が長いほど安心ですけれど、同じ事をしなければならない決まりもありませんし」
フィリーネの視線が、同席している祖父のカルネウス侯爵バスチアンに向かうと、バスチアンは首を縦に振って肯定した。
「その通りだ。侯爵の役目とは、王国から預かった星系と領民を守る事だ。私が伝えるのは現状と、それらを行う意味だ。目的を理解した上で、より効果的、あるいは効率的な改善を図るのであれば、自由にすれば良い」
爵位継承の一幕に立ち会ったハルトは、カルネウス侯爵家の要点を押さえた伝授に感銘を受けた。
ハルトも侯爵位を持つが、自身が初代のために、親から引継ぎは受けていない。次代へ引き継ぐ際には、今ほど耳にしたバスチアンの伝え方を参考にしようと、頭の片隅に留め置いた次第であった。
このように貴重な話を聞かせて貰えるのは、2代後のカルネウス侯爵が、ハルトの子供になると確定しているからだ。父親が無理解であるよりは、理解していた方がカルネウス侯爵家にとっても都合が良い訳である。
同席していたカルネウス侯爵夫人ブリジットは、圧力を掛けて来たが。
「ところでソン公爵、フィリーネとは、いつ子供を作るのですか?」
「うぐっ……」
不意打ちを受けたハルトは、食事を咽に詰まらせて噎せた。
フィリーネの前でありながら直球で聞けるのは、親では無く、祖母という立場故だろうか。食事時に出す話題では無いだろうと思ったハルトは、カルネウス一族の反応を窺うべく視線を巡らせた。
だがフィリーネは、何かを期待した表情をしていて、現役ではなくなった予備役大将は、援軍として役に立ちそうには無かった。
当主のバスチアンには良識を期待できるかと思ったハルトだったが、残念ながら二代後カルネウス侯爵の誕生は重要事項だったらしく、良識的な発言は出なかった。
ハルトとフィリーネは共に23歳で、平均寿命は300年の世代だ。
平均寿命が100年の世代に換算すれば、7歳から8歳……とは流石に強弁出来ないが、本来であれば次世代を考えるには早過ぎる。
世代交代のサイクルを24年とするならば、フィリーネは48歳で爵位を引き継いだ後、252年の余生を過ごさなければならない。
それを考えるならば、100年ごとの世代交代でも良いのだ。
平均寿命から考えれば、100歳は30代前半程度でしか無い。
但し、カルネウス侯爵家は、第二次ディーテ星域会戦においてフィリーネ以外の継承資格者を失っている。
アポロン星系が領域化されて安全圏になり、次代侯爵のフィリーネも予備役に編入して戦死の心配は無くなったが、相手であるハルトが未だ戦場に出ている状況に変わりは無い。
王国と深城を繋ぐ公爵にして、精霊を管理しているハルトは王国にとって重要人物であるため、既に直接戦場に出る立場では無いのだが、ハルトにしか出来ない事が多すぎて戦場に出ざるを得ないでいる。
ブリジットの行動は、将来を懸念するカルネウス侯爵夫人の立場としては、至極真っ当なものだった。
「ご懸念は分かりますが、女王陛下のお立場に慮れば、カルネウスだけ子供を作るという訳にもいきません。戦場に出る身ですから、万が一を考えて遺伝子は提供しておきますが、戦死する気もありません。暫しお待ち下さい」
「はよ作れ」
「げほっ、げほっ……」
ハルトは口に含んでいた食べ物を噴き出して、咳き込んだ。
すると壁際に控えていた給仕のアンドロイドが数体寄ってきて、ハルトにはテーブルナプキンを差し出し、汚れを素早く除去した。
明らかにマナー違反だが、ブリジットの発言も、序列1位の伝統ある侯爵家の正妻が口にする内容では無かった。侯爵家の品性に鑑みたフィリーネが、流石に口を挟む。
「お祖母様、侯爵夫人の言葉遣いではありませんわよ」
「何だって。最近耳が遠くてね。お迎えが来る前に、曾孫の顔でも見せておくれ」
太々しく開き直るブリジットの姿に、ハルトは不意にフィリーネの妹ドローテアを思い浮かべた。
権力を用いて無実のハルトに冤罪を着せようとしたドローテアは、整った人形のような容姿だが、性格は真夜中に動き出してナイフを片手に襲ってくる人形だった。
ハルトはブリジットに対する認識として、寿命150年の世代で100歳を超えたドローテアを当て嵌めた。
ブリジットは、此の親にして此の子ありの、祖母版であろうか。
歳月を経た分だけ老獪さを身に付けたらしく、ドローテアのような刑法と人道に反する強要は無かったが。
「私の考え方は、ご説明したとおりです。遺伝子提供の約束と、優先順位は理解しております。そうでもなければ、カルネウス侯爵家の邸宅を訪問して特別扱いしていると周知したりはしないでしょう」
「そもそもお祖母様、今は引き継ぎの時期で、子育ての時期ではありませんわよ。両親が子供と離れていると、当家の子孫に引き継がせる魔力が落ちますわ」
孫世代の男女から責められたブリジットは、やれやれといった体で愚痴を溢した。
「全く、困った事だね。ゼッキンゲン侯爵家なんて、子供が多すぎて揉めているってのに」
アポロン星系には、カルネウスとゼッキンゲンの侯爵2家が配されている。
旧連合との再戦前までは、王国6星系に対して14侯爵家があって、侯爵は1星系に2家から3家が配されていた。
侯爵の役割の1つに、1星系に1家しか存在しない公爵家が暴走しないための監視役というものがある。
8億人を治める侯爵家が複数で異議を唱えれば、12億人を治める公爵家の力を上回るために、公爵であろうと無視は出来ないのだ。
カルネウスとゼッキンゲンの両侯爵家は、アポロン星系に配されるコースフェルト公爵家が暴走しないための制御装置を兼ねている。
そのうちカルネウスが後継者不足に悩み、ゼッキンゲンが多すぎる後継者に悩むという両極端な事態に、ブリジットは足して2で割れと嘆いたのだった。
「ゼッキンゲン侯爵家の継承問題、どうなったのですか」
他星系の侯爵家継承問題に、なるべく関わらないようにしていたハルトは、未だに問題が解決していない事しか知らない。
侯爵位の継承には、魔力1万7280以上が必要と国法で定められている。
男性は魔力が下がらないが、女性は出産で魔力が下がるために、後継者への引き継ぎも踏まえた爵位継承を考えなければならない。
それら条件を満たすゼッキンゲン侯爵家の継承候補者は、9人が確認されていた。いずれもゼッキンゲン侯爵が宮内省に届け出ており、遺伝子検査でも確認されているので、後継者候補となる実子で間違いは無い。
結婚せずに愛人を作り続けて、最大限の魔力者を増やすべく精力的に活動していれば、次代の魔力者が何人になるのか。
その答えの1つが、現在のゼッキンゲン侯爵家であろう。そして伯爵程度の魔力者は、さらに多いはずである。
「会戦で武勲章でも受章していれば、後継者問題は起こらなかったのだがな」
同星系で同じ侯爵を担うバスチアンの残念そうな言葉に、ハルトは適任者が居ないのだと察した。
この件に関して、アポロン星系の主統治者であるコースフェルト公爵には纏め役を期待できない。
なぜならコースフェルト公爵は、自身を監視する侯爵家の当主を指名する事で、侯爵に期待される監視役という役割を形骸化させる事を性格的に厭う人物だ。
「アマカワ侯爵であれば実感していようが、8億人の命を預かる侯爵位は重い。先にアポロン星域会戦が起こり、領民を自身の星間船に乗せて、逃げ遅れた者を見捨てる決断も下さざるを得なかった時、私はそれを強く実感した」
バスチアンの述懐に、ハルトは無言で頷き返した。
「ゼッキンゲン侯爵が指名しておらぬ以上、次代のゼッキンゲン侯爵は、領民の大多数が納得できる選定でなければならない。その選択は、星系民の生命を左右するが故に」
先のアポロン星域会戦では、民間人6000万人が犠牲になった。
だがゼッキンゲン侯爵が各貴族を叩き出すように退避させていなければ、退避が遅れて、犠牲者は数億人に増えていただろう。
直接的な影響を受ける領民は無論、協調して危機に対処する星系貴族達も、相応しい人物を望むだろう。
ハルトは慎重な選定に納得しつつも、懸念を口にした。
「ですが選定に時間を掛ければ、その分だけ王国民が立派な選定を期待して、尚更決め難くなるのではありませんか」
先代を失った翌月に決めれば、「一番の年長者を選んだ。今は戦時で、侯爵位を長くは空席に出来ないために、人生経験の豊富な人物にしたのだ」程度の理由でも通るだろう。
だが1年後に選んだ場合、「1年も掛けてその程度の判断か。だったら早く決めれば良かったのだ」と呆れられる。もっとも10年も時間を費やせば、全く期待されなくなって、「ようやく決まったのか」と安堵されるだろうが。
バスチアンは、試すようにハルトに訊ねた。
「貴公が選定者であれば、どのような基準で決めるか」
この問題に関して、ハルトは公式見解を述べていない。
女王の婚約者という一蓮托生の立場上、女王自身が公式に述べられない意見の代弁者と見なされるためだ。そして実際に、代弁者の役割を担う事もある。
ハルトが口に出せば、それが強い影響力を持ってしまうのだ。
ゼッキンゲン侯爵家の次代について、公的な発言を避けているハルトだったが、今回はプライベートの食事会の席であり、自身であればどうするか想像を膨らませた。
「そうですね。まずは9人の配偶者を侯爵級だと仮定して、女性候補者の場合は継承率が0.8倍で子供が侯爵級以上にならなければ、候補から省きます。理由は、次代でも継承問題が起こると、今回の選定にケチを付けられるためです」
ハルトの条件を満たすためには、女性の場合は公爵級の魔力2万3040が必要になる。
その条件を満たせる女性は1人だったようで、ハルトが手元の端末に表示させた候補者が9人から、男性4人と女性1人に減った。
この魔力継承問題こそが、貴族家当主に男性が選ばれ易い所以である。
もっとも男性は、家を継ぐ1人を除いて貴族から落ちる。
一方で女性は、貴族から落ちない方法がいくつもある。
そのため継承時の女性側の不利は、身分保障で相殺されていると解せる。
残った5人の候補に対して、ハルトは追加の篩を掛けた。
「次は、アポロン星域会戦前までの従軍経験で線引きします。王国貴族を選ぶ訳ですから、従軍していない者が、従軍した者より優先される道理はありません」
これで何人に減ったかとハルトが確認すれば、残る候補者は4人であった。
年齢の順に、赤髪ロングで父親似の強面な男、センター分けの黒髪で頬が痩せた目付きの鋭い男、暗い金髪のふて腐れた男、アメジストのように暗い紫髪の女。
若天狗、カラス、獅子、紫水晶と、第一印象で勝手に特徴付けしたハルトは、個別の情報を引き出した。
4人は、47歳、40歳、29歳、27歳。
魔力は、1万8549、1万9298、1万9227、2万3325。
母親の出身家は、男爵家、男爵家、侯爵家、伯爵家。
経歴は、学士で侯爵領の代官、修士で地方議会の議員、学士で侯爵領の官僚、博士で中央政府の官僚。
若天狗は先代のゼッキンゲン侯爵と同様に漁色家で、未婚だが侯爵級魔力者の子供が居る。
カラスは正妻と子供が居て、子供は侯爵級魔力者では無い。
獅子は未婚で、婚約者も居ない。
紫水晶は、アテナ星系のオードラン侯爵家に、爵位の継承予定は無い婚約者が居る。相手の魔力は、1万9654だ。
「カラス……ではなく、正妻が居て子供が侯爵級魔力者ではないパトリック・ルヴァリエを候補から除きます」
候補者を3人に絞ったハルトは、そこで判断に迷った。
若天狗は最も低魔力で、母親の出身家も一般貴族で支援は弱い。だが侯爵級に届きそうな魔力者の子供が居るので、安定した爵位継承を見込める。また現役の代官であり、侯爵の仕事にも一定の期待が出来る。
獅子は母親の出身家が最も高いが、魔力は天狗と大差なく、アポロン星系の大学を出て侯爵領の官僚を務める敷かれたレールを進む人生だ。出自的に代官には成れたはずだが、昼の獅子のように怠惰であるらしかった。
紫水晶は最も高魔力だが、出産で魔力が下がる。だが王都で博士課程を終えた後、上級官僚として中央政府に入省して、27歳で国務省の主任になっている。意欲が低いようにも、政治が下手なようにも見えない。
ハルトは両親が侯爵家の獅子について、躊躇った後に候補から外した。
「選ぶなら、父親似の若天狗か、母親似であろう紫水晶でしょう」
2択まで絞ったハルトは、そこで躓いた。
領民が投票すれば、父親似で意外に人気の出そうな若天狗か、キャリア官僚でスーツ姿が似合いそうなスレンダーの長髪美女か、見た目の勝負になりそうだが、まさか容姿で侯爵を選ぶ訳にもいかない。
紫水晶は得がたい公爵級の高魔力だが、2回出産すると若天狗と同程度の魔力になる。但し、第一子の魔力は、2万程度が期待できる。
一方で若天狗は漁色家で、既に侯爵級に届くであろう高魔力の子供が居る。
「悩みどころですね。おそらく紫水晶は、自分がゼッキンゲン侯爵家を継承する事を考えていたのでしょうし」
「どうして、そう思うのだね」
断言したハルトにバスチアンは問うたが、それは理由が分からないから発した疑問ではなく、答え合わせを行うためのものだった。
「公爵級の魔力者でありながら、爵位貴族家の当主や後継者の妻に、ならなかったからです」
高魔力者を集める王国の魔法学院は、お見合い会場の側面がある。そして公爵級の魔力者ともなれば、伯爵家の正妻くらいであれば実現する立場だ。
それを拒んだ理由を常識的に想像すれば、伯爵家の正妻以上の立場を得られる可能性があったからだ。
ゼッキンゲン侯爵は、加齢停滞した寿命の半ばを過ぎて正統な後継者がおらず、遠くない未来に世代交代が必要だった。
それに失敗しても、アテナ星系のオードラン侯爵家の夫を持ち、子供が2万の高魔力者であれば、子供がオードラン侯爵家の当主になれる可能性はある。
強かな女性だとハルトは評価した。
非常によろしくない事に、若天狗を推した場合、紫水晶の子供がオードラン侯爵家を継承すれば、推した者がオードラン侯爵家当主の母親に恨まれる可能性もある。
伯爵以下では口を出せず、侯爵でも迂闊な事は言えない。関わりたくないというのがハルトの本音だった。
「同じアポロン系の侯爵として考えた場合、フィリーネは、どちらの候補者が連携しやすいと思う?」
ハルトと祖父母が見守る中、フィリーネは2人を見比べて即答した。
「若天狗、ガーランドさんの方ですね」
「即答した理由を聞いても良いか」
驚くハルトに、フィリーネが選定理由を説明する。
「ガーランドさんは実績がありますし、アポロン系貴族の集いにも参加されて、連携できます。ですがヴィオラさんは存じませんので、上手く行くか分かりません。200年のお付き合いになりますので、失敗すれば目も当てられません」
フィリーネが挙げた理由に、ハルトは深く納得した。
今は戦時であり、爆発的な経済発展の只中でもある。同じアポロン系貴族が動けないと、戦場では損害が増すし、他星系との競争にも出遅れる。
ハルトは不意に、賭け事が嫌いだと語ったコースフェルト公爵を思い浮かべた。
地元で繋がりを持つガーランドと、アテナ星系に繋がりを持つヴィオラとでは、前者が地元であるアポロン星系にとっての堅実策で、後者が振れ幅の大きい未来への投機となる。
今現在に出遅れられないアポロン星系は、前者を選ぶべき状況だ、と、ハルトは考えた。
「フィリーネに賛同します。あくまで私見ですが」
バスチアンからの問いにハルトが結論を出すと、カルネウス侯爵夫妻は視線を交わし合って、無言で頷いた。
その様子を見たハルトは、自身の発言が新ゼッキンゲン侯爵の選定に影響を及ぼした事を否が応でも察した。
アポロン系貴族のカルネウス侯爵が、内々とはいえ当事者ではない公爵にして、王国軍の最高責任者でもあるハルトと相談して出した意見だ。
自らの監視役を指名できないコースフェルト公爵も、カルネウス侯爵がハルトと相談して出した意見であれば、宮内省に意見の取り纏めとして伝達できる。
早々に空席の統治者を決定したい宮内省は、自分達が責任を取らずに済む提案に、これ幸いと乗るだろう。
結局のところ名前を使われてしまったハルトだが、放置していても決まりそうに無かったゼッキンゲン侯爵家の家督騒動には後押しも致し方が無しと思い直して、カルネウス侯爵家の動きを追認した。