10話 キラキラネーム爆誕
フロージ星系を離脱して6日、ハルト達は敵の追撃を完全に振り切った。
周辺宙域を探るレーダーには見る影もなく、通常は片道2ヵ月強を要する航路も3分の1を過ぎ去り、焦燥感に苛まれていた士官候補生達も安堵の色を見せている。
敵を振り切るためにハルトが行った事は2つ。
1つ目は、魔素機関の稼働者を3交代にした事。
駆逐艦を動かせる魔力者は、ハルトの他にも3人乗っている。1日を三分割して、ハルト、フィリーネ、ユーナとコレットの3交代で艦を休まず跳躍させ続けた。これによって移動速度が倍加した。
2つ目は、ワープの補助を精霊に行わせた事。
高次元空間は、人間にとっては入るたびに形を変える未知の森だ。対して精霊は、自分が住む庭のように森の位置を把握できる。精霊たちに案内役を任せた結果、こちらも移動速度が倍加した。
6日目にして敵艦隊を振り切ったと確信したハルトは、後回しにしていた捕虜の尋問を行う事にした。
本来は専門家に任せるべきだが、ハルトは敵の目的を最初から知っている。そして敵の目的に鑑みれば、対策の時間を与えるべきではなかった。
尋問にあたっては、後に追及されない名目を立てた。
それは『無事に本国へ帰還するために航行の安全を確認すべく、艦隊を待機させていた理由を確認して、必要とあらば航路を変更するため』という名目だ。
この際の尋問方法は、極めて単純だ。強力な自白剤を打って、精神が壊れる事を厭わずに、聞きたい事を聞くだけである。
捕虜にした142人のうち14人が戦傷で死亡したが、128人は生きている。そこから反抗的な連中を20人ほど選んで、艦の安全に支障を来しているという理由も添え、壊れてでも自白剤で情報を引き出す。
尋問は士官候補生たちではなく、正規の軍人である乗組員の下士官たちに任された。
同時にハルト自身はアンドロイドを経由して、捕縛したイケメン艦長こと自称ヒューム少佐に精霊結晶を接続済みの個人用の情報端末機を渡し、艦長室から密かに聴き取りを行った。
「本艦艦長のハルト・ヒイラギだ。アレクシス・ヒューム少佐。随分と待たせたが、これより聴取を行う」
「久々に睡眠を貪れたよ。身体は少し鈍ってしまったけどね。ヒイラギ艦長」
完全に情報を遮断されていた彼は、それにも関わらず和やかな表情で会話に応じた。
だが彼の微笑も、ハルトが次の言葉を発するまでだった。
「それは結構。さて、マルセリノ・サリナス准将。連合国民に分かり易い開戦理由を捏造する作戦は失敗したわけだが、まずは前線基地となっている恒星系ロキに集めている戦力について、話して頂こうか」
サリナスは一瞬で無表情となり、口を一の字に閉じてハルトの表情を観察した。そこから彼が見出したのは、ハルトが口にした情報を既に確信しているという事だった。
「随分と単刀直入だね、ヒイラギ艦長。年上として忠告するが、それでは女性にはモテないぞ」
軽口を叩いて様子を窺うサリナスに、ハルトは一切乗らなかった。
「フェンリル作戦に関しては、要塞運行者の一人として従軍予定だった准将に問うのが一番早いからな。偽りや沈黙を用いるならば、精神が壊れるまで自白剤を投与し続ける。何しろ首星ディロス壊滅の危機だ。では、まずは移動要塞の数についてお話し頂こう」
無表情だったサリナスの口元が、引き攣るように歪んだ。
作戦名どころか、作戦目標や要塞運行者の名前まで知られている。これではサリナスだけが抵抗しても無意味で、自分だけ自白剤で精神を壊されるだけだ。
王国駆逐艦は6日も休まずにワープを続けており、連合艦隊は追い付けそうにない。本国への帰還は不可能だ。
サリナスは捕虜の立場と今後の王国での扱いについて、考えざるを得なかった。
捕虜が思い悩む間、ハルトは自身の内側から湧き出してくる殺意を必死に抑え込んでいた。
サリナスは遺伝子操作されたハイスペックな能力と王族級の魔力を併せ持ち、味方を次々と追い詰めて殺し、状況次第ではヒロインのユーナまでバッドエンドに追い込む恐ろしい男だ。どのように理由を付ければ捕虜を殺せるだろうかと、思考が目まぐるしく計算を続ける。
一方でサリナスの捕虜としての価値は、極めて高い。
捕虜にした敵先行艦隊の司令官である連合軍准将からの侵攻情報となれば、他に捕らえた尉官以下の捕虜たちから聞き出した情報とは、その価値が雲泥の差となる。
そのためハルトは、素直に話せばマルセリノ・サリナス准将として扱い、話さなければアレクシス・ヒューム少佐として精霊を用いてでも事故死に見せかけて殺す決意を固めた。
サリナスの活躍を知るハルトは、感情的には後者を期待した。だがサリナスは、ハルトの希望とは逆の選択をした。
「全てを話すために、公式記録では殺された形にしての亡命を希望する。然もなくば、あちらで仮初めの家族が殺されてしまうからね」
「隔離中のヒューム少佐が死亡した形にする事は可能だが、本職には権限が無い。ディーテ星系までお連れし、サリナス准将のご要望を添えて総司令部へ引き渡す事になる」
亡命の実現可能性について、ハルトは判断をしかねた。
彼の境遇を政治宣伝に用いるのであれば、可能性はゼロではない。
生まれる前から連合に遺伝子改変され、子孫を残せなくなり、製造工場のような施設で育てられ、軍では魔素機関の部品扱いをされてきた。連合は悪逆非道な連中だ……という話は、王国にとって聞こえが良い。
ハルトの知る限りにおいて、サリナスは殊勝な性格ではないが。
うまく生き延びて、いつか機を見て敏に動きそうなサリナスに、やはり殺しておきたかったとハルトは未練を持った。だが協力するのであれば、生かして証言させると心に決めていた。
「分かった。それならば、准将に提案がある」
「どんな提案だい?」
「公式な記録を最初から撮り直すので、本職が自白剤で准将を脅した後、部下の身を案じた准将が、部下の安全と引き換えに自ら作戦内容を話した形を取りたい。そうすれば准将は協力の意思が高いと判断され、亡命の可能性も高まると判断される」
ハルトが考えたのは、ロキ星系に集結中の人類連合軍のフェンリル艦隊について、最初の証言者をサリナス准将にする事だった。
尋問した捕虜が証言後に死んだ事にしても良いが、セラフィーナに手伝ってもらっても記録の改ざんには手間が掛かる。ゲームで知ったと説明すれば、魔力を奪ったタクラーム公爵家に刺客を放たれる。
サリナスが自発的に話してくれた形が最善なのだ。
「それは何ともありがたい提案だけど、貴官のメリットは何かな」
「小官の責務は、王国を守る事だ。准将の協力を得て、連合の作戦をより詳細に知れるのであれば、それが最善の行いだと判断する」
士官学校の試験問題に対する模範解答のような言葉が述べられた。
「それならば、お互いに乗らない理由は無いね」
周囲を化かす腹黒狸たちが合意した結果、公式記録が撮り直された。
かくして最初の証言者を確保したハルトは、自白を基に連合軍の侵攻に関する報告書を作成した。
その後は他の捕虜からの尋問結果も集め、裏付けを継ぎ足していく。集められた情報をまとめると、大まかには次のような結論となった。
偽装艦で意図的に異常接近した理由は、大事故に繋がりかねない航行があったという名目で偽装艦と王国艦の双方を臨検する形を取り、王国艦の抵抗を先制攻撃として開戦の口実にする計画であった。
ディロス星系から110光年の距離にあるロキ星系において、大規模な物資集積地を完成させており、万単位の大艦隊と10を越える移動要塞を集めている。
ロキ星系に集結させた大艦隊と多数の移動要塞を以って、王国の首星があるディーテ星系を制圧すべく大規模な軍事侵攻を行う。
知り得た情報の重大さに、ハルトを除く全ての乗員が戦慄していた。
互いに数百億の人口と複数の居住星系を有し、惑星を破壊できる力を持ち、世代を超えて憎しみ合う相手との星間戦争が再開したのだ。
どちらか一方が継戦能力を失うまで終われない戦争は、互いに星間国家である以上、1つの恒星系が破壊されて数十億人が死んだところで終わらない。そして士官候補生ないし下士官である自分たちが生き残れるのかを考えたところで、誰しも先を考える思考を停止させたのである。
それから10日後。
必要な報告書を作り終えたハルトは、精霊の導きで駆逐艦の速度を上げ、王国までの航路を駆け抜けた。
最後のワープを終えて高次元空間から飛び出したハルトは、多次元魔素変換通信波を用いて、直ぐにディーテ星系の王国軍航宙管制センターに非常事態を宣言した。
「非常事態宣言。非常事態宣言。こちら駆逐艦DD422Vel-04319。艦長ハルト・ヒイラギ士官候補生。王国軍中央航宙管制センター、応答されたし。当艦は非常事態を宣言する。繰り返す、当艦は非常事態を宣言する……」
駆逐艦の戦闘指揮所には、ハルトの他に副長のフィリーネ、主計長のユーナ、航宙長のコレットらも揃い、固唾を呑んで応答を待った。
即座に返ってこない応答に焦れる心を抑えて1分ほど待つと、軍曹の階級が表示された20代の下士官が通信に現われた。
『こちらディロス中央軍航宙管制センター。駆逐艦DD422Vel-04319、状況を報告せよ。何かあったか』
若くて階級が低く、反応が遅い。そして口調に真剣さが足りない。
ハルトは事態の深刻さを理解して貰うために、危機的な状況を一気に告げた。
「本艦が所属する航宙実習船団47隻は、フロージ星系外縁部にて、人類連合軍の艦隊70隻から奇襲攻撃を受けた。本艦は友軍24隻が撃沈され、敵軍12隻が撃沈した段階で奇襲攻撃を受けた証拠を持って離脱するよう命令を受け、戦闘宙域より離脱した。本隊は包囲され、可能な限りの敵を道連れに玉砕すると伝えられている」
ハルトは通信相手が呆然と聞き続ける様子を見て、そのまま言い募った。
「本艦は連合軍との交戦記録を保持。また連合軍人128名を捕虜にしている。捕虜への尋問により、敵の行動が戦争の大義名分を得る偽装工作であった事、ロキ星系に少なくとも2万隻以上の大軍と多数の移動要塞が集結中である事、それらがディーテ星系への侵攻を企図している事の詳細情報も入手した。本艦が保持する情報は、王国の存亡に直結する。最優先で対応されたし。なお捕虜に、亡命を希望する極めて特殊な立場の者が居る。将官級の権限者より、入港前に通信を求む」
言い終えたハルトは、呆けたままの軍曹を怒鳴りつけるか迷った。
任官後であれば、遠慮しなかっただろう。だが士官候補生の立場である事を思い出し、代わりにフロージ星系で玉砕した教官から預かった通信記録を流すことにした。
「これより航宙実習船団の旗艦からの最後の通信を送る」
ディロス中央軍航宙管制センターの通信司令室に、生徒達の輸送艦や護衛艦を盾にしながら敵艦隊と戦う教官の凄惨な映像が流れ始めた。
生徒達から送られてくる悲痛な通信に歯を食いしばり、残存艦艇へ時間を稼げと冷酷に命じる教官達。接舷されれば自爆し、それが出来なければ自害せよと命じた彼らは、満身創痍になりながら迫る敵艦隊に最後まで砲撃を続けていた。
壮絶な記録の他にも、駆逐艦の戦闘記録や揚陸戦の記録、教官の艦と2艦分の航行記録、サリナス以外の捕虜尋問記録などを送り付けると、通信画面が下士官から、大佐の階級を持った白髪の管制センター司令官を中央に据えた司令本部全体に代わった。
司令官の背後では、非常事態を告げるレッドアラートが鳴り響き、センターの職員たちが叫びながら駆け廻っている。
司令官の隣からは、星系防衛軍への報告が飛んでいた。
『こちら中央軍航宙管制センター通信司令部。非常事態を宣言する。星系防衛軍司令部、至急応答されたし。連合軍との艦隊戦が勃発、数十隻の友軍が撃沈されている。連合による奇襲作戦の模様。味方駆逐艦一隻が、交戦記録を持って戦闘宙域より離脱。艦内には連合軍の捕虜128名。捕虜より2万隻以上の敵軍が集結しているとの情報あり。繰り返す、連合軍の攻撃で王国艦隊が多数撃沈された模様……』
通信司令部は、ハチの巣を突いた様な大騒ぎになっている。
ハルトは最初からそうしろと思いながら、もう一押しを加えた。
「こちら駆逐艦DD422Vel-04319。本艦は軽巡洋艦と揚陸戦を行い、400体近いアンドロイド兵を破壊され、艦体も一部損傷した。その後は10倍の敵に追われながら砲撃戦を行い、ワープ多用で離脱。艦体の損壊評価は出来ておらず、首星到達前に爆散の可能性が否定できず。また敵艦隊が未だに本艦を追っている可能性も否定できず。直ちに救援を請う」
ハルトの報告を聞かされた司令官の顔が引き攣り、瞬く間に血の気が引いていった。
青ざめた司令官は手元の通信端末を操作して、星系全域に緊急通信を飛ばした。
『発・中央軍航宙管制センター通信司令官。宛・星域航行中の全軍艦艇。王国軍と連合軍の艦隊が交戦。離脱した味方駆逐艦を敵艦隊が追撃中。付近を航行中の軍艦は、損傷した味方艦を直ちに救援されたし』
それはハルトが想像したよりも、遥かに大きな波紋を広げていった。
通信指令室ではなく、ディーテ星系全体が蜂の巣を棒切れで叩き割ったくらい慌ただしく動き出したのである。
『王国軍総司令部より、ディーテ星域の全軍に第二種戦闘配備を命じる。敵は人類連合艦隊。既に味方艦が多数撃沈されている。各艦は発進準備出来次第、戦闘態勢で直ちに出港せよ』
命令が飛んだ軍事宇宙港と宇宙要塞からは、軍艦、戦闘艇、制圧機の大部隊が止め処なく溢れ出した。星系内の軌道衛星群も次々と戦闘稼働していき、星系の全惑星には戦時警報が発令された。
民間船は軍艦に航路を譲るために次々と退避を命じられ、王国民には地下シェルターまでの避難路を確認するように通達を受ける。
軍港から飛び出した数千隻の艦隊は、魔素機関を戦闘稼働させて巨大な光を次々と生み出しながら、瞬く間に駆逐艦の後方宙域へと突き進んでいった。同時に数百の光がハルトの駆逐艦に群がってきて、敵と差し違えても守らんとばかりに分厚く取り囲む。
『ヒイラギ艦長、第三宇宙港へ入港せよ。民間船には周辺宙域への接近を禁じ、制限ブロック内には2個軍団と医療部隊を配備、他は全て退去させた。進路上に障害物は無い。魔素機関の出力を落とし、そのまま直進せよ』
これら大騒動の発生源は、少し脅し過ぎただろうかと発言を振り返った。
だが少なくとも嘘は吐いていない。
それに国家が全力で対処すべき事態に変わり無く、人々に危機感を持たせる事が出来た。首星が攻撃を受ける場合に備えた訓練にもなって、犠牲者が減るかも知れない。
そのようにプラス思考で考えたハルトは、ついカッとなってやった事を、全く反省しなかった。
それから瞬く間に、1週間が過ぎ去った。
ハルトが帰還した時点で、敵の作戦目的や前線基地まで詳細に書かれた報告書が完成済みだった。
捕虜から引き出した情報には矛盾がなく、航行記録は教官の軽巡洋艦から送られてきたものを含めて複数存在し、ハルトの攻撃の根拠となる航宙法と教官の回答記録も添えてある。そして捕虜の中で最上位の階級を持つサリナス准将も協力的だ。
そのためハルトの事情聴取は4日で終了し、王国は別の確認作業に移った。そしてハルトは、ひたすら待機させられたのである。
あまりに暇な時間が多かったため、待機時間にカリキュラムでも行えないかと確認したところ、余計な真似をして記憶を上塗りするなと一蹴された。
その後は再びベッド上で、ゴロゴロ転がって妄想する生活に戻された。
暇な時間が増えると、妄想の頻度が高くなる。
例えば今回の襲撃で、重戦艦科は180名中176名の未帰還者を出した。
ハルトが強行接舷したように、敵側も同じ事をするだろう。捕虜は確実に出るはずで、すると捕らわれた連中は一体どうなるのだろうかと。
想像した結末が暗かったため、次は別の事を考える。重戦艦科は4名となったが、今後の授業は4名で受けることになるのだろうかと。
生還した4名は、女子3名が一等要塞艦を操艦できる公爵級の高魔力者で、ハルト自身は巨大要塞を動かせる前代未聞の高魔力者だ。生徒4名であろうと費用対効果が高いため、全ての教育が予定通り行われる可能性が高い。
どんな苦手教科であろうと、在籍科でトップ4の成績に入るのが確定である。
そのように取り留めのない妄想を繰り返しながら過ごしていると、ようやく王国が確認作業を終えた。
結論としてハルトは、戦争再開にあたっての連合による大義名分の捏造を証明し、首星への侵攻計画を入手して奇襲攻撃を阻止した事によって、王国の危機を救った功労者だと評価されて、国家への貢献が絶大だと認定された。
「ヒイラギ士官候補生。此度の王国への功労と献身、誠に見事であった。王国は汝の功績に対して、新たな子爵に叙して貴族に列し、栄誉を讃えるものである」
「有り難き幸せ。これからも王国に忠誠と微力を尽くします」
男爵の外孫でしか無かったハルトは、本来準貴族になるところを叙爵され、一足飛びに新たな子爵家を興す事が認められた。
領地を持つ伯爵以上の上級貴族位は、それなりの家臣団を持つ貴族か、実家が上級貴族で支援を受けられる立場でなければ担うのが難しい。家臣団どころか一族すら居ない士官候補生のハルトには不可能である。
そのため今回の叙勲は、現在のハルトに与えられる中で最上の貴族位となる。
国王自らが叙爵式を執り行い、謁見の間に集った王族や上級貴族たちの前で讃えるという名誉ある叙勲式となった。
そんな王国貴族には、権利と義務が付いてくる。
権利は、血統が守られる制度や非課税特権などの各種権利。
義務は、人類連合との戦いで様々に協力すること。
今回の叙勲は、目覚ましい功績への評価のみならず、高魔力者でありながら動員義務を課されない士爵家のハルトに対し、貴族の義務を課したい王国側の思惑があった。
義務を課される事はハルトにも分かっていたが、協力しなければ首星壊滅のバッドエンドが待っている。どうせやらなければならない以上、国家が権利をくれて財産も守ってくれるのであれば、応じない理由は無い。
そう考えたハルトは、予定調和に従って爵位を受け入れた。
「ヒイラギは、汝の祖父が持つ家名である。故に汝は、今後新たな家名を名乗れ」
「はっ。それでは畏れながら、今後は『アマカワ』と名乗りたく存じます」
「認めよう。今後、汝はアマカワ子爵である」
彼が事前に希望した家名のアマカワは、ルーツである日本の漢字で『天川』と書く。
銀河系の名前である『天の川銀河』が、新たな家名の由来だ。
ハルトの名前の漢字である『遥音』と合わせて、なんとなく響きが良くて気に入ったという、大して深くない理由で選択した。
天川遥音。
まるで銀河に輝く星々のような、キラキラとした輝かしい氏名であった。