プロローグ
星空商店街。夜空に輝く満天の星星が良く見える小さな商店街。と、いう訳ではなく。なんでもこの商店街のオーナーが大の星好きでこの名前にしたのだとか。当時は商店街のコンセプト(卓逸した何かを一つは作ろう)に沿わないと反対する者も多かったようだが、逆に商店街の名前に沿って星を題材にした商品を扱う店が多くなり、結果コンセプトを外れたものでは無くなった今では異論を唱える者はいなくなったらしい。星を題材にしたユニーク且つシンプルな商品たちは、この星空商店街の名物として今ではそこそこ有名になっているくらいだ。占い等にも使われる星は主に女性客の関心を集めているようで、いつの間にか恋愛成就の噂が立った蟹座の形をしたネックレスや、健康や開運に良いと獅子座をモチーフにしたパン等が人気を集めているようだった。そんな星空商店街に住んでいる俺、犬塚冬彦もまた、星を題材にした店を構えている。
『カフェ-ステラスナグル-』
それが店の名前だ。俺を含めた2人の店員で成り立っている、純喫茶を意識した小さなカフェである。カウンター席が4つ、2人席が2つ、4人席が2つあり、全席禁煙。檜を基調とした店内は小音量でジャズが流れており、全体的に薄暗い。だが、開放感のある吹き抜けの天井が薄暗さを幾分か緩和させてくれているだろう。骨董品や輸入品の小物を多く置き、少しばかりヨーロッパの下町にありそうな雰囲気も演出している。
そんなこだわり抜いた店だが、名物という名物は無い。いや、強いて言うなら、日替わりメニューだろうか。説明しておくと、俺は同じものを作れない人間だ。レシピや計量器具を信用していないし、その日の気温や湿度によって作るものの味は変わってしまう。だから、店にはメニューを置いていない。客が望むものを作るし、おまかせと言うならおまかせされたものを作る。そこに少々、星座を混ぜ込むのだ。
そして今日もまた、そうとは知らず1人の客が迷い込んだ。
長々と商店街と店の説明をしたが、これは俺が星と対話する物語である。