七話 不安でたまらないが故に
「あら、間違った。これは難しいね。」
「まぁ、まだ始めたばかりだからな。」
裏返したトランプを順番に2枚ずつめくっていき同じ数字ならそれを得ることができ、最終的により多くカードを手にした方の勝ち。そう、神経衰弱である。
「最初はできるだけ多くのカードをめくって覚えなきゃな、っと外れだ。」
「そーかいそーかい、なるほどね。」
ペラ、ペラ、ペラ、ペラ。
いつの間にか交わされる言葉がなくなり、黙々とその遊びを続ける。ゲームに集中していたのかもしれない。あるいは、本当の友達となり得た二人にとって言葉とはこの場において不必要なのかもしれない。
先ほどとは違い、口を開いたのは時雨の方だった。
「ねぇ、聖。」
「何?」
されど手は止めない。ペラペラと、とめどなく。
「本で読んだんだ。友達とは、互いを深く理解しているものなのだと。」
「それで?」
「私のことをより知って欲しい。私がこれまで、病床に伏せる中、何を思い、何を考え、そして...、何を欲したのかを。」
それと同時に時雨がトランプをめくる。ようやく一組目が揃った。
「私の...生き様を。君の記憶にしかと刻んでくれたまえ。」
「...スペードとハートのキング、やるねぇ。」
できるだけ時雨の熱にあてられぬよう、その想いに潰されぬよう、無視スレスレの反応をした。
揃ったならばもう一度。彼女は笑みをこぼす。
「ほら、これとこれもそうだ。」
ドキッと心臓が激しく脈打つ。時雨はまるでそこにそれがあることを知っていたかのように、手に取る。
ダイヤとクラブのキング。
自慢げに四枚のカードを見せつける。
トランプのマークにはそれぞれ意味がある。ハートには愛が、ダイヤにはお金が、クラブには知識が。
そして、スペードには死が。
「頼むよ。私のことを...もっと知って。」
その四つの意味が、時雨には内在している。