六話 常識とは万人が持つ共通意識ではない
二日目入りました。どうぞよろしく。
ミーン、ミーン
目が覚めたとき、一番に耳に届いたのはそんな声だった。ああ、窓が開いている。なるほど、これなら蝉の声が聞こえるのも無理はない。閉まったままならろくに聞こえやしないから。冷房のような人口の風なんかより、窓から吹きこむ風がカーテンを揺らし頬を撫でたのが程よく心地よい。
「やっと起きたのかい?もう10時だよ。」
「なんでここにいるんだよ。」
ベッドの脇から身を乗り出し、顔を覗いている少女が一人。初めて会った時と同じように呆れ顔を浮かべている。
「やれやれだねぇ。友達に会うのに理由が必要なの?」
そういうと彼女は窓の側へ移動した。俺は身を起こし、室内に備え付けられた洗面台へと向かう。
顔を洗っていると彼女不意に話しかけて来た。
「とはいえ、蝉の声で目を覚ますなんて、なかなか粋だと思わないかい?」
「まぁ、悪くはなかったよ。」
それはまぎれもない事実。蝉の声は嫌いじゃない。が、俺は蝉が嫌いだ。たった一週間という余命の中で、無駄にはしゃいでいるようなあの姿には、何故だか昔から不快感を持っていた。
「........................。」
「........................。」
沈黙が続く。何か話したそうにしてはいるものの、その決心がつかない。そんな表情。
既に顔は洗い終え、寝癖を直している時、ついに耐えかねてこちらから口を開いた。
「なんか言いたいことでも?」
「........いい天気...だね。」
「は?」
助け舟まで出して、彼女が捻り出した言葉はそんなものだった。随分と拍子抜けで今度は俺が呆れ顔になってしまった。
「そ、そんな顔はやめてよ!だって仕方ないじゃないか!友達と何を話せばいいのかなんて知らないんだから!」
ああ、そうか。大人びているように見えたとしても、彼女はやっぱり年相応で、悩みもそれに準拠する。思わず笑みがこぼれてしまったのを、彼女は見逃しはしなかった。
「な、何を笑っているんだ!ひじ...海川君!」
「そんなに赤くなるなよ。こっちまで恥ずかしくなる。それにな、友達になったんなら、名字呼びはやめてくれ。聖で結構だよ。」
時雨は思わず驚いて、その後にすぐ笑った。
「うん、よろしく!聖!」
「こちらこそ、時雨。」
この時、本当の意味で友達になれたような気がした。
本来友達とは、いつどこでそのような関係に至ったのか覚えていないことがほとんどである。しかし、俺と時雨はこの日のことをきっと忘れないだろう。
「そうだ聖!私、聖とやりたいと思っていろいろ持って来たんだよ!」
時雨は笑顔でそう言った。ああ、その眩しい笑顔が何度も見られるのなら、俺はなんだってできるよ。
一切気取られることなく、心の中でそう呟いた。
♢
「私の勝ちだね!もう一度やろう!」
彼女が選んだのはトランプ。内容は自分の手札の中に同じ数字を持つものを出していき、最後にジョーカーを持っていた人が負けという、誰もが経験したことがあり、シンプルでありなおかつ心理戦を要する高度な遊び。
「なぁ、時雨。トランプをやるのは構わないんだが、これは誰が何を持っているかがわからないから成り立つのであって、二人でやるのはどうかと...。」
「時雨、文句言わない!」
前途は多難であることをこの時聖は悟った。
聖が友達として最初に時雨に教えたことは、ババ抜きは二人でやっては意味がないということだった。
二人でババ抜き...。実は筆者はやったことがあります。