五話 ただ向かい合うだけでは相手の背中は見えない
「これで晴れて君と私は友達になったわけだね。」
「まぁ、そういうことになるな。」
願わくばこの選択が間違いでありませんように。
「何を心配してるのかは知らないけれど、絶対に後悔はさせないから。」
心の中を覗かれたような気がして妙な気分になった。彼女に対する印象は、得体の知れない女の子から、少し変わっている女の子くらいには昇格した。どうやら自分は想像以上に彼女と友達になることに乗り気なようだ。
「友達ができたらしたいことをずっと考えてたんだ。何年もね。だからまずは...。」
「まずは...。」
彼女は窓の外に目を向ける。それはどこか遠く、遥か世界の向こう側を彼女は見ているような気がした。
「話は明日にしよっか。もう日も落ちてきたしね。」
気がしただけだった。
しかし、そろそろそんな時間だ。空は夕焼けが美しく、カラスは山へと帰りだす。
彼女が身を翻すと、揺れる髪の毛が日暮れの赤色によく映えた。不覚にも心が揺れ動く。
キラキラと、まるで夏のようだと思った。
「それじゃ、また明日。」
「あ、ああ、また明日...。」
去っていく彼女からも目が離せず、しばらくしてからようやく我に帰った。魅力的、と言えるほど彼女の魅力を知らないけれど、少しばかり心惹かれたことを否定はしない。
しかし、彼女は強いな。自分が同じ立場なら、同じように笑えただろうか。死を受け入れ、なおかつ友達が欲しいだなんて言えただろうか。
きっと無理だろう。それを最後に、帰路へ着いた。
♢
その日の夜、日をまたぎ患者たちが寝静まった後の病院に、どこからか声が聞こえる。
「やっと...やっと友達ができた...。私にもやっとできたんだ...。なのに...なのに...。」
涙が一筋頬を伝い月明かりに煌めく。胸の前で手を組んで、星に願いを唱える。
「どうか...私の願いが...。」
彼女の悲痛な声は、星どころかだれの耳にも届きはしない。
今回で初日は終わりです。