三話 自分から離れるのもありだろう
「ごめん、聞き間違いかもしれないから、もう一度言ってもらえるかな?」
「いくらでも何度でも構わないよ。私の名前は瀬見時雨。一週間後に死ぬんだ。よろしく。」
どうしようか。いくらか選択肢が思いつくがどれもどうしようもない気がしてならない。
その1-スルーする。俺は何も聞いていないていで、とりあえずその場をしのぐ。ただ、彼女はかなり押しが強そうなのでそれを許してはくれまい。
その2-俺の聞き間違いであることに一縷の望みをかけてもう五回程聞き直す。控えめに言ってもこれはないな。
その3-いっそ逃げてしまおう。うん、これがいい。街中でも変なやつらに絡まれたりなんかしたらまともに応対するよりはよっぽど効果的だ。
思いを決めてゴミ箱に空き缶を押し込み、足に力を込めたところで、服の端を掴まれるような感覚があった。
「行かないで...。」
先ほどまでの初対面の相手と会話しているとは到底思えないでかい態度はいつのまにか消えた。打って変わったその態度に困惑の色を隠せない。
どうすればいい。今にも泣きそうに瞳を潤ませた彼女に、いったいどんな対応が正解だったというんだろう。きっと俺がとったこの行動は最適かどうかはわからないけれど、不正解ではないと思う。1から3のどれとも違う、逃げない選択肢。
その4-会話。相手のことを知ってみるのも悪くないだろう。
「あー、悪かった。正直わけわからんから逃げようとした。死ぬってのも冗談だと思ったしな。」
「ははは、構わないよ。でもよかったよ。君が挨拶してる美少女を見捨てる薄情者じゃなくってさ。」
さっきのはいったいなんだったんだろう。一瞬の間感じた彼女の弱さにようにも取れるあの言葉は。
ただ、あれが嘘だったというのならやっぱり逃げてればよかったなと遅ればせながら思った。