二十六話 それぞれの想い
お久しぶりです。
気づくとまた見慣れた天井が目に入った。カーテンの隙間から射し込むわずかばかりの光が朝の到来を告げる。
「一言も喋んなかったな...。」
結局別れ際の挨拶以外は、あの後言葉を交わさなかった。言わなかったのか言えなかったのかわかりかねないが、内心ショックだったのは言うまでもない。肝心の答えが有耶無耶になってしまったからだ。
「なーんで言っちまったのかぁ。マジで。」
(俺は...時雨が好きだ。死んで欲しくなんてない。ずっと、ずーっと生きててほしい。これが俺の本音だ。一切の曇りない俺の気持ちだ。)
煮え切らない時雨の態度に怒りが、愛おしさが、同時に爆発したのだ。想いは溢れ出し、それは言葉となって自らが心をさらけ出す。つまりところ、告白以外の何者でもなかったわけだ。
「はっずかしぃーーー!!!」
一人ベットの上でのたうちまわる。十数分後、ようやくそれは終わりを迎えた。構わない。やるべきことは変わらない。少しだけ聞きたい言葉が増えただけ。
「聖ー!起きたー?朝ごはんできてるわよー!」
母親の呼ぶ声が聞こえる。早く行かなければ。怒り出す前に。
「さぁーて、今日も友達んとこ行きますか!」
めいいっぱい伸びをして体の覚醒を促す。
「友達...、今はまだ、な。」
♢
目を覚ますとまた見慣れた病室が目に入った。廊下を忙しく往来する看護師たちの足音が一日の始まりを告げる。
「一言も喋れなかった...。」
結局去り際になんとか捻り出したまた明日くらいしかまともに言葉が交わせなかった。言いたかったが言えなかったのは言うまでもなく、もっと話しておけばと内心後悔している。矢張り、あの言葉の残響が今尚心の中で在り続けるからだ。
(俺は...時雨が好きだ。死んで欲しくなんてない。ずっと、ずーっと生きててほしい。これが俺の本音だ。一切の曇りない俺の気持ちだ。)
「あれこそが...まさに。まさに私の望んだ...紛れも無い...。」
生に対する執着と、相反する死への絶望とを、同時になかったことにしてくれるほどの衝撃だった。さんざん言葉を口にした後、想いにやがて頭が追いつき、花火の頃には口が聞けぬほどわなわなと、狼狽えていたのはどうやらバレてはいないようだ。つまるところ、無視したのではなく単に余裕がなかっただけなのである。
「う...れしぃ...。」
一人ベットの上でうずくまる。いくらたっても顔の火照りは治ることがない。そろそろ、変わるべきなのだろう。勇気をくれる、彼の言葉をもっと聞きたい。
「時雨様ー!起きていらっしゃいますか?朝ごはんのお時間ですよ!」
ガラガラと、荷台を押しながら若葉が室内に入ってきた。カチャカチャと食事を並べながら予定を口にする。
「朝の検査が済みましたら、着替えて彼を...お友達を待ちましょう。」
「あぁ、そうだね。」
めいいっぱい伸びをして体の覚醒を促す。
「友達...、今はまだ、ね。」
車校とかあって更新できませんでした。まぁ、主な原因は時間がないと言うよりは自分の怠惰なんですけど。ぼちぼち書いていきたいと思いますのでこれからもよろしくお願いします。




