十九話 私たちの気持ち
「お二人とも、そろそろお時間です。かえりましょう。」
「も、もう少しだけ...このまま。」
「わがまま言うなよ。若葉さんが困ってるだろ。明日は海が待ってるんだ。川とは違う楽しみがあるさ。」
時雨の気持ちが理解できるから、できるだけ優しくいいかける。納得がいかないようで頬を大きく膨らませる。
「べ、別に川だけが名残惜しいわけじゃないのに...。」
「なんか言ったか?」
「しーらない。」
車椅子に腰掛けさせた途端そっぽを向いて俺の手を弾いた。何がそんなに気に入らないんだ。先程まではあんなに上機嫌だったのに。
帰り道、夏ということもありまだ空の端っこが紅に染まり始めたくらい。いささか早すぎるような午後五時というタイムリミット。今更変えるなんて情けないことは言えず、なんとか延長しようと駄々をこねていた時雨の気持ちがようやく理解できた。
「わかりやすいようで君はとてもわかりにくい。」
「何か言ったかい?」
「しーらね。」
短い帰路もまた悩ましく、病院にはすぐついた。病院の前まで来ると車椅子の扱いを取って代わる。
「聖様、ここまでで結構です。」
「...そうですね。わざわざ上に行くまでないですね。」
「そーかい...、仕方ないね。」
「ああ、また明日。」
これ以上言葉を交わす必要はない。会ったばかりの頃ならば、時雨も食い下がっただろう。
また明日で十分だ。明日も会えるかなんて愚問中の愚問。
「また明日!」
そう言って大きく手を振った。不安は拭いきれたかな。それほどに時雨の笑顔を澄んでいた。
今日は君のためになったかな?君は今日みたいな日をまた過ごしたいと思ったかな?俺ともっと一緒にいてくれるかな?それこそ、俺が死ぬその時まで。
最早言葉なんていらない。それでも俺は君の言葉が欲しい。
明日こそ言わせてみせるから。
四日目が終わりになります。いい加減作者も煮え切らなくなってきました。声を大にして言いたい。時雨よ、生きたいと言え(笑)
そして、時雨と聖。君らいい加減付き合ったら?