十一話 悪夢はいつか覚めるもの
今回は少し時雨よりの視点になります。
ああ、なんであんなことを言ってしまったのだろうか。引かれてしまうことなんてわかりきっていたというのに。
「俺にはちょっと重すぎて、友達とか無理だわ。」
そう言って遠ざかって行く彼の背中にどれだけ手を伸ばそうとも、届くことはない。虚空をかくばかりで何も掴めやしない。
必死で追いかけるものの、その距離が縮むことはない。追いかけて追いかけて、そのうちバランスを崩してこけた。
「痛い!」
車椅子が倒れ投げ出される。地に伏し這いつくばってもなお、彼の背中を目指す。
しかし、なんとか前へ進もうにも、時雨の非力な細腕では体を支えることはできない。
「駄目!行かないでよ!」
けれども、言わずにはいられなかった。私のことをちゃんと知って欲しかった。受け入れてくれるかもなんて思ってしまった。受け入れてくれたなら、それ以上の幸せはない。
ただ、やはりそれは私の妄想を抜け出すことなんてなく、現実は淡々と現実であり続ける。
嫌われたのかな?引いちゃったかな?もう会えないのかな?
「行っちゃ駄目だよ!」
世界は闇に包まれる。終わることない悪夢とともに。
♢
「...夢か。」
生まれてから何万回見たかわからない真っ白な天井が、今日も目を覚ますと同時に視界に広がる。
空調は確かに効いている。にも関わらず、寝巻きは汗にまみれ髪も若干湿っている。
「聖ぃ。行かないで...。」
「俺がどこに行くって?」
あるはずのない返答が、どこからともなく聞こえてくると同時に、今までにした事もないような驚愕の表情を時雨は浮かべた。その余りの驚き様に、聖は吹き出してしまった。
「くは!なんだよその顔!」
「そんなことはどうでもいいよ!なんでここにいるのさ!」
「友達に会うのに理由が必要か?」
友達。聞き間違いじゃない。聖は言ったんだ。私のことを友達と。
同時に涙を零した。私を知ってなお、隣にいてくれる人がいる幸せを噛みしめながら。
「泣いてんの?」
「ははは!そんなことあるわけないよ!」
バレバレの涙を袖で拭き取り、聖の手を取る。戸惑いながらも嫌がる素振りは見せない聖に、時雨はまた幸せを感じた。
「ただ、もう来ないかもとは思ってた。」
「君が言ったんだ。友達ってのは互いのことを深く理解しているものだってな。俺は頭が悪いけど、時雨を自分なりに理解したつもりだ。そして、今度は俺の番だろ?」
そして聖も時雨の手を取る。それはもう、第三者から見ればきっと。
「俺のことを知って欲しい。」
♢
「あんなもの、第三者から見れば友達って言うよりは、恋人にしか見えないでしょ。」
部屋の外で若葉が一人呟いた。