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蝉彼女  作者: 霜月叶手
初日
1/37

一話 始まりに過ぎない

初めての投稿です。右も左も分からない素人の作品ですが、読んでいただけたら幸いです。

それは、蝉の声がうるさく鳴り響く夏の日の昼間。うだる様な日射しの熱にやられ、その時は幾分か頭がおかしくなっていたのだろう。無謀なまでの挑戦を、たったアイス一本という小さい報酬につられ、やってしまった事が全ての間違いだった。


「てぁ!」


公園の近くにある小川を飛び越える。ただそれだけの事だった。しかし、男の子とは一見無茶な事だろうとどうしようもなく無駄な事であろうとも、やって見らずにはいられない生き物なのだ。いつだって危険と隣り合わせのやんちゃをして、そして自らの欲望を満たすのである。

俺という存在も、この時はそうであった。更に、アイスのおまけときたら、やるほか選択肢などありはしない。

澄み切った小川を眼下にそんな事を考えながら、最終的に向こう岸には届かないという結論を出して、俺の思考は幕を閉じた。

僅かばかりのプライドと着地の際に滑ってついた腕の骨とが、同時にポッキリと折れてしまったのだった。







「左腕が折れてるね。頭は打ってない様だけど、一応三日間検査入院してもらおう。」

「はい………。」


ギプスでガチガチに固められた左腕を眺めながら、イマイチ気乗りしないまま返事をした。

夏休み真っ最中、俺は綺麗と言うよりは殺風景という意見が先に出てしまうような病室に連れられ、ベッドで横になっている。


「あんたは本当にバカだねぇ。私は着替え取ってくるから、あんたはおとなしくしときな!」


母親は俺にこれでもかというほど釘を刺した後、その言葉通り一旦家へ帰っていった。


「ただでさえ夏休みを数日おじゃんにしたってーのにじっとなんかしてられるかよ。だいたい、おったのは足じゃねーんだからさ。」


母親が出て行った扉に向かってんべっと舌を出した。

ところであの後どうなったのかというと、骨を折った痛みで気絶した俺を一緒にいた友達が救急車をすぐ呼んでくれたおかげで、大事には至らなかった。若い上に骨が綺麗に折れていたため、完治も早いのだとか。因みに、もう友達は帰ったのだが、そのことで散々いじられたのはいうまでもない。


「あぁ、しゃべりすぎて喉乾いた。自販機どこだっけ。」


棚に置かれたバックから財布を抜き取り、足早に病室を抜け出した。


「じいちゃんばあちゃんばっかだな。」


この病院は大して大きくなく、さらには田舎ということもありほとんどが高齢者ばかりだ。もちろん彼と同年代の子供などいるはずもなく、話し相手がいなければ遊び相手などいるはずもない。

ひどく、ひどく退屈だ。真っ白な廊下を歩いているこの時間さえも永遠に感じられるような。わずかに窓の外から聞こえてくる蝉の声すら、空調の音であっという間にかき消されていく。


「…………………夏休み、少しだけもったいないなぁ。」


蝉の鳴く林を駆け回り、輝く太陽に見守られ、煌めく海を眺めつつ、この一夏を謳歌する。別にかなわなくなったわけではないけれど、冷房の効いた病院の中から見る夏は、自分から遠ざかっていっているような気がした。


「ふっ、気のせいだろ。」


そう言って、また自販機への歩を進めた。

昔から見た目に似合わず、あれこれ考えてしまう性格だった。自分を取り囲む環境や風景に想いを馳せたりなんかして。とりわけ夏が好きだった。何もかもがキラキラしていて、何もかもが命の輝きに満ちていた。より生きているということに触れられるような気がした。

気がつくと自販機の前に立っていた。財布から小銭を取り出し投入口へ流れるように入れていく。そうだな、炭酸なんていいだろう。しゅわしゅわとその爽快感で、もやもやしているこの心ごと、洗い流してくれるなら。

ゴトン。

迷いなく炭酸飲料を選んで取り出す。

カチャ、プシュ!

いい音を立ててこれから飲もうという時に、突然彼女は現れた。


「あらあらおやおや、こんなところに、どうして子供がいるのかな?」


遠ざかりかけた夏が、手のひらを返したかのように歩み寄ってきた瞬間だった。





お読みいただきありがとうございます。読後、心がすっきりするような作品を目指します。これからもよろしくお願いします。

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