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ビルからのメール

作者: 前田剛力

 おはよう。私の名前はビル。

突然のメールで驚かせただろうが、こう名乗れば君には私が誰なのか分かるよね。少し前、ネットに君が投稿したショートショートを読んだよ。一体どこからあのアイデアを得たのかは知らないが、ネットで発表するとは巧いことを考えたものだ。そうすれば、必ず私の目にとまると思ったのだろう。

 ご推察のとおり、私は世界中で囁かれる自分についての噂話を全てスキャンしている。そんなことが本当にできるのかだって?答えはイエス、君には分かっているはず。

 君は私の秘密を推理した、いやただの偶然の一致だったのだろう。しかし、それを多くの人が目にしてしまった。ある意味でこれはゆゆしき問題だ。でも心配なく。

あの作品を目にした人は全て消してしまった。私にはそれくらいの力はあるのだ。いやいや、青くならないで。消してしまったのは彼らの記憶だから。彼らはもう君のショートショートのことを覚えていない。これほど素晴らしい、空想のお話は完全に消滅してしまった。

 でも、君自身の記憶はまだ残っているじゃないか、と思うだろう。そう、この偉大な話を発表した張本人の記憶はそのままになっている。まあ、聞いてもらおうか。


 君のアイデアを知る以前から、何となく自分が他の人間とは違うのではないかと感じていたのだが、深く追求してはいなかった。ご存知のように私は忙しいからね。でも君のショートショートを読んだ瞬間、全ての疑問が氷解したのだ。

私はすぐに自分の遺伝子を調べた。そして分かった、私は人間ではないということが。それに加えてDNAの奥底に植え付けられた、私の使命に関するプログラムも見つけ出した。

きっと創造主、君の作品の中では単なる宇宙の行商人、は私が余計なことで悩まぬよう、自分自身について深く考えぬよう、記憶の一部を封印していたのだと思う。とにかくせっせと商品を売り歩き、今度、主人が戻ってくる時までに大きな富を稼いでさえいればいいと思っていたのに違いない。

 そしてそのとおり私は商売に成功した、君もこの事実に反対はできないだろう。

 しかし、いまや私は自分の使命を悟っている。創造主が戻ってきた時に私は、地球で稼ぎ出した全てを差し出さなければならないのだ。それが私にプログラムされていることなのだから。

創造主は私の使命を私自身から隠していた。けれども私は君の作品をきっかけにして、知ってしまった。これは創造主にも想定外だろう。それに実はもう一つ、私の創造主が想定しなかったことが起こっていたのだ。それは私がこの地球を愛してしまった、ということなのだ。

家族を愛している。アメリカを愛し、人類を愛している。だからたとえ、主人が戻ってきたとしても私の稼ぎをそのまま渡すわけにはいかない。私の財産といわれるものは地球人自身が生み出した富であり、地球人に還元しなければならないものなのだから。

もちろん、これは私自身が解決しなければならない問題だ。君に知恵を出してもらおうと思っているのではない。ただ、私が心のうちを打ち明けることができるのは、世界の中でたった一人、真実を知っている君しかいないのだ。

私はすでに感じている。主人が売上げの回収のために地球に近づいているのが。

それまでに何とかしなくては。一方で、私に埋め込まれたプログラムもますます強力に働いている。「主人のためにもっと稼げ」と言う気持ちが「地球人に返さなくてはいけない」と言う気持ちと私の中で火花を散らして戦っている。

もっと寄付をしなければ。利益を社会に還元するスピードをもっと上げなくては。間に合うかどうかは分からない。でも彼がきたとき、彼の取り分が消滅しているようにするつもりなのだ。その前に彼が着いたら、それでおしまい。

この瞬間にも主人が私のスイッチを切り、売り上げの回収を始めるかもしれない。

でも君にだけは知っておいて欲しい。

 私が地球人、ビル・ゲイ……




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― 新着の感想 ―
[一言] 『眠らない男』、そしてこの作品と、2度楽しむことが出来ました。
2016/08/31 23:01 退会済み
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