表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編

真の敵とは闘えない~龍鎧戦士ドラグーンセイバー~

作者: NOMAR

「切り裂けっ!龍の爪よっ!ドラゴンスラッシュッ!!」

 真っ赤な鎧を纏ったヒーローが持つ剣『ドラゴンネイル』が青く輝き、斬撃の波動が放たれる。龍の怒りの如く天罰にも似たその一撃は、避けることを許さず巨大な蜘蛛型怪獣を真っ二つにした。右と左に別れて倒れる巨大蜘蛛。街を大きく破壊した生命力も分割された身体を再生することは出来ず、足掻くように天に向けた脚を蠢かす。やがてその動きも小さくなり、活動を停止した。

 上空のヘリから興奮したリポーターが、がなりたてる。

「やりました!謎の蜘蛛型怪獣は正義のヒーロードラグーンセイバーが倒しました!街は守られたのです!!」

 瓦礫に隠れていた女の子が、赤い鎧のヒーローに駆け寄っていく

「ありがとう、ドラグーンセイバー!」

 赤い鎧のヒーローは膝をつき女の子と目の高さを合わせると、煤で汚れた女の子の頬を拭って優しく頭を撫でた。

 巨大蜘蛛型怪獣とドラグーンセイバーの闘いはこうして終わった。




「馬鹿ですか、あなたは」

 戦闘が終わり、変身を解除してオフィスに帰った俺はマネージャーに怒られていた。

「戦闘は私の指示に従ってください、指示に無い行為はしないで下さい」

 怒鳴り付けてるわけでは無いが、冷たく見下すように淡々と罵られる。つらい。そのスジの人にはたまらないのかもしれない。

「今回の戦闘でいくつかの契約が失敗しました。利益は出ていますが予定の半分です……この調子ではあなたの借金もいつ返済できるか解りませんね」

 そう、俺は借金返済の為にヒーローをやっている。父の会社が経営が上手くいかずに倒産してしまったからだ。改造手術を受けて強くなったが、体内には爆弾がセットされている。逃走や命令違反をすれば怪獣と心中爆発する羽目になる。

「まず、吉田さんの家を全壊するように言ったはずですが?」

「それはちゃんと壊しましたよ、ドラゴンナックルで蜘蛛ぶっ飛ばしてぶつけましたよ」

 無駄と知ってても一応仕事はしたのだから、発言してみる。

「あれでは半壊です。全壊と半壊ではおりる保険の額がぜんぜん違うのですよ。吉田さんとの契約では全壊の予定だったんです」

「保険には詳しくなくて、そのあたりよく解んないです」

「だったら勉強してください。次は田中さん宅、こちらも全壊の予定だったのにキズもつけてませんね?」

「蜘蛛の奴がすばしこくて、誘導できませんでした……」

「それを、どうにかするのがあなたの仕事です。田中さんは怪獣騒ぎの中で寝たきりのおじいちゃんの安楽死を予定してたのに、あなたのせいで無事に生き延びてしまったんですよ」

「生きてたのなら良かったのでは……」

「では、あなたが田中のおじいちゃんのお世話をしてはどうですか?介護に疲れた家族の心労も考えずに、よくそんなことが言えますね」

「……スミマセン……」

「それなのに、鈴木部長のマンションは壊してしまうし……当社の資産は保護対象でしょう?ちゃんとマップは見ているの?」

 あのデカイ図体したくせにすばしっこい蜘蛛相手に、いちいちマップ見ながら戦闘なんてできるわけないだろうが。だけどなにを言っても理屈と身分では敵わないから、黙って俯く。早く終われー。

「次に、戦闘中に女の子を助けましたね。助ける必要も無いのに」

 確かに今回、蜘蛛に踏み潰されそうになった女の子をとっさに助け出した。避難は終わってたはずだから、取り残されていたのだろうか?

「竹田さんはお嬢さんに多額の生命保険をかけています。怪獣に殺して貰うためにわざと置き去りにして避難したのですよ」

「え……怪獣使って保険金殺人する予定だったんですか?それはちょっと」

「竹田さんは会社を経営していて、来月までに500万銀行に返さないと破産してしまうからです。娘さん1人が犠牲になることで助かるのですよ」

「いや、さすがに、それは」

「子供1人の命と竹田さん家族、竹田さんの会社で働く社員とその家族全員の命、どちらを大事にするかという話ですよ、あなたも父親の借金で苦労しているなら解るでしょう?」

 言外に、こんなこともわからないおバカですかという目をしやがって。この冷血マネージャーが。

 しかし、あの娘は親に見捨てられてたのか。だったらいっそ、蜘蛛に踏み潰されて即死してたほうがマシだったのかな……。あー、ヤバい、泣きそう。

『ありがとう、ドラグーンセイバー!』

そう言ってくれた女の子の笑顔が、言葉が、嬉しかったのに。



「次からは、キッチリと指示に従ってくださいね。それと保険について、勉強しておいて下さい」

「ハイ、ワカリマシタ」

「あなたの爆弾のスイッチを私が持っているのを、忘れないように」

 マネージャーはオフィスの片隅に置いてあるバイクに向かって歩いていく。なんでオフィスにバイクが置いてあるんだ?

「次回からはこのバイクに乗って出撃してもらいます。バイクの名前はドラグーンゲイルです」

「え?ドラグーンウイングで短時間なら空を飛べるので、その方が速いんですけど。あと免許持ってないし」

「では教習所に行ってさっさと免許取ってきて下さい。それとすでにバイクメーカーと玩具メーカーとは契約しています。あなたがこのバイクで出撃するのは、決定次項です」

「でも、バイクの方が現場に着くのに時間がかかりますよね。その分、被害が増えてしまうんじゃないですか?」

「私達は警察でも消防でもありません。まして慈善事業でもありません。被害を減らすことよりも、ドラグーンセイバーがドラグーンゲイルに乗って出撃することで、ドラグーンゲイルの購買意欲を上げることの方が重要です」

 えー、今から二輪の免許取らないといけないのー

「不満そうですね。今度はバイクメーカーの社員と玩具メーカーの社員に迷惑をかけるつもりですか?」

「いいえ、明日から教習所に通います。なので免許取れるまで待ってもらえませんか?」



 まったくもって、ままならない。

 あーテレビや映画のヒーローが羨ましい。借金やらしがらみやらうっとうしいこと全部忘れて、ただ純粋に、誰かを護るために闘ってみたいもんだな。正義なんて、経済の中では広告としての価値しか無いんだなぁ。



 それでも、あの女の子の声を思い出す。

『ありがとう、ドラグーンセイバー!』

 もう少し、頑張ってみようかな。




                   終

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ