冬の出会い
はじめまして
始めて童話ジャンルに挑戦してみました。
童話になっているのかわからないですが、どうぞご覧下さい。
僕は冬が嫌いだ。理由は単純に寒くて冷たいから。
空気の冷たさを感じるキンと冷えた冬の朝。
朝おきてベッドから出た時の空気は、冷たくて吸い込むと鼻が痛くなる。
水の冷たさを感じる冬の水。
顔を洗おうと水瓶に指先を少し入れただけで手がかじかんでくる。
風の冷たさを感じる冬の風。
家から出ると感じる風は、冷たくて風にさらされると思わず身体が震えてくる。
冬は町を冷たくする。みんなどこか暗く静かだ。
みんな僕と同じで身体を震わせながら、しゃべらず足早にどこかに向かっている。
そして、一番冬の冷たさを感じるのは感じる僕の家。
帰っても誰もいない僕の家。誰かがいてくれたらもっと温かいのかな。
「それじゃあ、さよなら」
「坊や、もう帰るの?」
「うん、仕事が終わったから」
「・・・・・・前から言ってるけど、私たちといっしょに暮らさない?」
「ありがとう。でも、働かせてくれるだけで充分だよ」
「おい、坊主。この辺りの冬は子供が一人で簡単に越せるほど甘くねえ。いつまでも強がってねえで、ここで暮らせ」
「それはできないよ」
「なんでだ?」
「あそこは父さんと母さんがいた場所だから」
「・・・そうか」
「ねえ、おじさん」
「なんだ?」
「冬が好きっていう人いるのかな?」
「もっと南に行けばわからんが、この辺りじゃ好きな奴はいないだろ」
「だよね。僕も冬は嫌い。空気も水も風も町も僕の家も全部が冷たいから、僕は冬が嫌い」
「だったら、せめて冬の間だけでも、いっしょに暮らしましょうよ」
「そう言ってくれるおじさんとおばさんが、僕の感じる冬じゃ一番温かい」
「坊や・・・・・・」
「まだ、大丈夫だから」
「何かあってからじゃ遅いんだぞ」
「うん、でも、まだ大丈夫」
「・・・・・・少しでも何かあったら言うんだぞ」
「わかった。それじゃあね」
「ええ、また明日ね」
「うん」
僕は冬が嫌いだ。冬は空気も水も風も町も僕の家も全部が冷たいから嫌いだ。でも、温かい人もいる。だから、まだ大丈夫。でも、早く春になってほしいな。
今日は冬の寒さにさらされながら外での仕事だ。仕事の内容は山に入っての食料探し。冬の間は他の季節に比べて食料が見つかりにくい。でも、絶対に見つからないわけじゃない。土の中の球根を掘り出したり、川魚を捕まえてり、動物を狩ったりする。僕は村の中でも食料を見つけるのは上手いから、結構重宝されている。こういうところで、ちょっとでも村に貢献できていれば孤児の僕でも、それなりの扱いになる。
そういえば、おじさんに強がるなって言われたな。別に僕は強がってない。ただ、父さんと母さんが死んで一人になったあの日から流れで生きているだけだ。このまま山で遭難して死んでしまっても構わないし、一人っきりの家で凍死しても構わない。きっと僕の心はあの日に冷たく凍ってしまったんだろう。・・・・・・そうか、僕が冬が嫌いなのは、冷たく凍った心が、さらに冷たくなってしまうからなのかもしれない。そんなことを考えながら、食料を探していると視界の端で何かがチラチラと動いた気がした。
不思議に思って何かがチラチラと動いていた方を見てみると、初めはわからなかったけど離れたところに女の子が立っていた。チラチラと動いていたのは、風になびいている腰まである彼女の髪の毛だった。僕は唖然としてしまう。なぜなら彼女が白いフリルがたくさん付いたドレスという、あまりにも季節はずれの格好をしていたからだ。そして僕が彼女の格好に驚き思わず声をかけようとした時、彼女が僕から背を向け山の奥へと歩き出した。
「ちょっと待って!!!」
僕が大声で呼びかけたことに驚いたのか少し止まって僕を見たけど、また山の奥に向かって歩き出した。このままだと彼女が凍死してしまうと思った僕は、背負っていた食料の入った籠を地面に降ろして彼女を追った。
彼女を追って少し経つけど、まだ彼女には追いついていない。・・・・・・おかしい。僕は何度もこの山に入っていて、村の猟師のおじさんにもすぐにでも猟師になれるって褒められるくらいなのに、その僕が離れていたとは言え、同じくらいの彼女に追いつけないなんていくらなんでもおかしい。絶対におかしいことはわかってるけど、彼女の表情が気になったから追いかけるのを僕はやめなかった。必死に追いかけていたら、山の中の開けたところでようやく追いついた。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・ちょっと・・・・・・待ってよ」
「なんで?」
「はぁ、はぁ、えっ?」
「なんで追いかけてきたの?」
「君が心配だからだよ」
「私が?」
「その格好は冬の山じゃ危ない。どこに行きたいのかは知らないけど、そっちは山の奥に行く方だよ」
「知ってるわ」
「なんでわざわざ? 誰かを探してるなら、この辺りには僕が住んでる村しか村はないから、村にいた方が会えるよ」
「私は元々一人よ。それに私はあなたの住んでる村から離れてるのよ」
「なんで? 危ないよ」
「私なら大丈夫」
「でも・・・」
「私は誰もいない場所に行かないといけないの」
「どうして・・・?」
「みんながそれを望んでいるからよ。・・・もちろんあなたも」
「え?」
「あなたも私がいなくなることを毎日望んでるでしょ?」
「何を言って・・・? 僕と君は始めてあったのに」
「ふふ、初めてか・・・私はあなたを知ってるわ。・・・・・・空気も水も風も町も僕の家も全部が冷たいから嫌いなんでしょう?」
「なんでそれを・・・・・・」
「言ったでしょう。あなたを見て感じて知ってるからよ」
「君はもしかして・・・・・・?」
「私は誰からもいることを望まれないの。でも、ずっとずっと昔からそうだったから私は大丈夫よ」
「それだったら、そんな顔しないでよ」
「えっ?」
「そんな寂しい顔しないでよ」
「私は大丈夫よ。だって「冬」だもの」
「誰だって、なんだって一人は寂しいよ」
「私は大丈夫って言ってるでしょ!!!」
「・・・・・・君のその顔見たことある。水に映る僕の顔と同じだ」
「それは・・・・・・」
「待ってるから、僕が次に冬に会えるの待ってるから」
「・・・冬がいたら春が来ないから、もう行かなきゃ。」
冬がポツリとつぶやいた後、風が集まり始め冬の輪郭がボヤけてきた。冬が行ってしまう。僕には止められない。できるのは叫ぶことだけだ。
「ここで待ってるから!!! 何度だってここに来るから、待ってるから!!!」
ゴウっと強い風が吹くとそこに冬はいなかった。最後の方は風に負けて声が届かなかったかもしれない。でも、届いたと信じて待っていよう。
次の日から、徐々に暖かくなってきる。おじさんやおばさん、それに村のみんなは冬が過ぎて春が来ることを喜んでいたけど、僕には冬がいなくなってしまったことが逆になんだか寂しく感じられた。
あれから寒くなってくると食料探しのついでに、山の中の広場に立ち寄る。村のみんなには広場に行くのはやめるように言われるけど、また冬に会いたいから何度も通っている。そんなある日、一段と冷え込んだ日に、予感がして山の広場にいると強い風が吹いた。思わず顔を覆った後に前を見ると一年前より微笑んでいる冬がいた。
「一年ぶりね」
「そうだね」
「冬が来て笑ってるのは、ほんとうにあなたくらいよ」
「そうかもしれない。でも、僕はまた冬に会えてうれしいよ」
「冬を待っててくれてありがとう」
父さんと母さんが死んで、僕の心は冷たく凍った。そしてさらに僕の心を冷たくする冬は嫌いだった。でも、僕の心を溶かしたのは寂しい顔をしてた冬だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが、誤字・脱字がありましたらありがたいです。
あと連載もしていますので、良ければそちらもご覧下さい。
タイトル:ひ弱な竜人 http://ncode.syosetu.com/n5715cb/