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九の掟 館長は一人だけです。

20160814)全体的に手を入れています

「黒猫図書館の館長たるクロード・ル・クロッシュフォードの名において、附則一の一に則り、事案完了後まで我が全権を館長代理たるタマに譲るものとする」


 クロ館長――いいえ、この時点でもうクロさん、ですね――の宣言に則り、タマさんが館長代理として全権を握り、クロ館長がその任を解かれました。

 そういえば、掟に則る宣言ってフルネームを入れるのが通例らしいんですけど、タマさんはタマさんのままだったのが気になります。

 タマ館長代理はぴんとひげを伸ばすと、クロさんが一歩引くのにあわせて一歩前に出ました。

 しっぽもぴんと立ってます。


「では、俺も。黒猫図書館の館長代理たるタマの名において、附則一の一に則り、事案完了までキャロライン・フィッシャーズに課せられたペナルティの一部を免除するものとする」


 ペナルティの免除! そんなこともできるんですか……。知りませんでした。

 キャリーさんはと見ると、寸法はワタシと変わりません。何が免除されたんでしょう?


「え? わたくし?」

「これであんたはこの館を出ることができる。年齢の退行は免除できなかったが、これで勘弁してくれ」

「タマさん、ありがとうございます」


 クロか――さんが頭を下げてます。それから自分の手をじっと見てにぎにぎしてます。


「少し試してみようか。キャリーさん、ついてきてもらえますか?」


 エプロンドレス姿のキャリーさん、クロさんのあとをついて表玄関から出ていきます。もちろん、ワタシも他の皆さんもぞろぞろ一緒です。

 図書館から少し離れたところまで歩いて、クロさんは振り返りました。


「これくらい離れていればいいだろう。キャリーさん、ここまで来てみてください」

「でも……」


 ペナルティが怖いのでしょう。キャリーさんは尻込みしてます。


「大丈夫です。さあどうぞ」


 誘われて、そっと図書館から一歩足をだします。恐る恐る踏んだ土を確認するように踏みしめて、それからクロさんのほうへ……。


「出られました!」

「よかった。じゃあ、次は魔力の確認ですね」


 クロさんはそう言うと空に向けて手をかざします。今日は昨日と違っていい天気なので、空は青く雲も高く、風もさやさやと気持ち良いです。


「……さすがにまだ全回復とは行きませんか。ならば」


 地面に手をつき、小さな声で何事かつぶやいています。と、目の前の土がむくむく起き上がりました。じっと見ていると、盛り上がったそれはぱきぱき割れていき、人のような形になると歩き出しました。


「うん、戻ってる。――タマ、ありがとう」

「いいってことよ。それよりとっとと三人で行ってきな」

「ああ、そうだ。あきちゃんの魔法の封印、解いてないよ」


 クロさんが言います。そうですよう、キャリーさんとクロさんは開放されましたけど、ワタシは図書館の掟に縛られたままです。しかしタマさんは頭をぽりぽりかいてます。


「んー、あきちゃんのはなぁ……」

「このまま連れて行くと図書館の掟でさらにペナルティを食らうことになる。一旦図書館の職員から外してくれないか?」


 クロさんの言葉に、渋々タマさんはうなずきます。


「わかった。あきちゃん、館内に戻ってくれる?」

「は、はい」


 タマさんの後について館内に戻ります。他のみなさんも一緒に入ってきました。


「黒猫図書館の館長代理たるタマの名において、附則一の一に則り、事案完了までアキラ・トールを図書館職員の任から外すものとする!」


 きらきらした光がすーっとワタシの周りに浮き上がったと思ったら、天井の方まで登って行きました。そしてそのまま消えてしまいました。


「これでよしと。ただ、魔法は……あきちゃんには教えてないもんなあ。使ったことないだろ?」

「はい、魔力があるとかいう話も初めて聞きました」

「まあ、先代の意向だからなぁ……しかし、クロ。どうする? 今回はあきちゃんがどうしても必要になるんだろう?」

「……多分」


 タマさんの意味深な言葉にクロさん、うなずいてます。なんなんですかっ、ワタシがどーしても必要になるってっ! すっごく気になるんですがっ。


「かといって、教えてる余裕はないんだ。必要になったら思い出すとは思うんだけど……こればかりは分からない」

「思い……出すんですか?」


 何が何だかちんぷんかんぷんです。思い出すってことは、ワタシが昔魔法を使えたように聞こえるんですけど?


「アキラ・トール……ええと、あきちゃんさんはアキラさんとお呼びしたほうがよろしいんでしょうか」


 クロさんやタマさんのやりとりから、キャリーさんのワタシに対する態度がなんだかヘンです。あきちゃんさんよりはいいですけど、あきちゃんのほうがもっといいですーっ。


「いや、あきちゃんはあきちゃんだから。キャリーさんもあきちゃんと呼んでくれる?」

「は、はい。クロード様がおっしゃるなら……では、あきちゃんさん」

「さんはいらないですー。あきちゃんって呼んでください、キャリーさん」


 ワタシは改めて深々と頭を下げます。


「じゃあ、これで……おっと。エディさん、応接室に置いてある魔法定理の本、ここに持ってきてくれる? キャリーさんは応接室に置いてある品物で要るものがあれば取ってきてください。あきちゃんは、まりーさんに荷物、頼んでおきましたから、もらってきてください」


 クロさんの指示でばたばたっと皆が散っていきます。ワタシはまりーさんの準備してくれたリュックサックを背負いました。


「それからこれ、サンドイッチを作っておきましたから、途中で食べてくださいねー」

「ありがとうございます、まりーさん」


 まりーさんのお弁当、ゲットですっ!

 ワタシはポケットから図書館の鍵を取り出しました。しばらくはここを離れるわけですし、ワタシが持ってたら困りますよね。

 一番早くに来るのはエディさんなんですが、きっとまりーさんに預けた方が確実です。そう思って鍵を渡すと、まりーさんはワタシをぎゅっと抱きしめてくれました。


「無事に帰ってくるのよー?」


 クロさんのお手伝いなんて何をすればいいのかわかりませんけど、頑張ります。がんばって早く帰ってきたいです。

 まりーさん、あったかいです。柔らかいです。……はやくおとなになりたいです。


 玄関に戻ると、エディさんがあのでかい本を担いでいました。


「よいせっと、ここでいいのか? 外のほうがいいんだろう?」

「さすがですね、じゃあお願いします」


 玄関から出て、少し離れたところに魔法定理の本は置かれました。クロさんが本に触れて何かつぶやくと、あっという間にあのおっきな本は手のひらに収まるサイズに縮んでいきます。


「クロード様、さすがです。わたくしにはこの術は使えませんでした」

「この本にはいろいろ仕掛けがあってね」


 クロさんはそういうと黒いかばんの中にしまい込みました。


「キャリーさんは荷物の準備は問題ありませんか? あきちゃんは?」


 二人そろってうなずきます。それを見てクロさんもうなずきました。


「では、行きましょう。ふたりともこちらへ」


 クロさんの誘う場所に行くと、なんだか円陣が組まれています。間に色々文字が書かれていて、多分魔法陣というやつなんでしょう。


「タマさん、まりーさん、エディさん。あとをお願いします」

「おう、行って来い」

「お気をつけてー」

「早く帰ってこいよー」


 三人の声援に胸が熱いです。


「クロード様、どうやって行きますの? ほうきが必要でしたらお出ししますけれど」

「いや、問題ない。じゃあ、行ってきます」


 クロさんがいつの間にか手にステッキを持っています。それを軽く振ると、足元の円陣が光り始めました。そのまま、ワタシたち三人を載せて、円陣は空中に上がっていきます。


「うわっ」

「きゃっ」


 突然のことでワタシとキャリーさん、尻もちをついてしまいました。


「大丈夫。揺れはしないし落っこちないから。そのまま座っているといいよ。王都までは三時間程度で着くはずだ」


 クロさんはそういって進む方向にピンとひげを立て、耳をせわしなく動かしながら立っています。


「すごいですねぇ、魔法って」

「ええ、クロード様の魔法は緻密で正確ですわね。わたくしでは自分一人を載せて飛ぶのがせいぜいです。それに王都まで三時間も魔力が持ちませんわ」


 キャリーさんも少し興奮気味です。


「それにしても、よかったですね。図書館から出られて。なんだか急いでたみたいでしたし」

「ええ……一刻一秒を争う事態ですわ」


 途端にキャリーさんの顔が曇りました。


「キャリーさん、その話、詳しく聞かせてくれないかな」


 前を向いたまま、クロさんが言うと、キャリーさんはうなずきました。


「もちろん、そのつもりです。……ところで、あきちゃんはこの国の王様のことや歴史のことはご存知ですか?」

「ええと……」


 ワタシはどう答えていいかわからず、クロさんを見上げました。


「キャリーさん、実はね。あきちゃんは記憶喪失なんだよ」

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