七の掟 本は元の場所に戻しましょう!
20160814)全体的に手を入れています
「仕方がありません、掟の縛りをかけましょう」
クロ館長はそう言うとホールに出ていきます。ピンと耳と尻尾を立て、ひげを震わせて、飛び交う本たちに立ち向かってる感じ。かっこいいですっ。
「館内の全ての本に告ぐ。黒猫図書館の館長たるクロード・ル・クロッシュフォードの名において、すみやかにあるべき場所へ戻れ! これは何より優先する、掟による命令である!」
空中にあったすべての本が一斉に動きを止めました。
そのまま床に落ちるのかと思ったら、今度は開架図書の方へ飛んでいきます。閉架図書の本は部屋の外に飛び出してないみたいですが、多分部屋の中で飛び交ってるんでしょうね。
「いつも使えりゃ楽なんだけどなぁ……」
エディさんがぶつぶつ言ってます。その気分、とってもわかりますぅ。これができるのはお客さんがいないとき限定ですもんね。図書館の営業中はお客さんがいるから結局手で元に戻さなきゃいけません。
「無茶言っちゃだめですよー、エディさん。これ使ったあとはいつも、本たちがすねちゃって大変なんですからー」
そうなんですよね。本が拗ねると、貸し出しの時にいやがったり、本棚の裏に隠れたり、大変です。お客さんが本を探し出せなくなっちゃうので困るんです。で、結局ワタシたちが捜索に駆り出されるので、仕事量も倍になるんです。
今回は騒動の原因になったキャリーさんがペナルティを受けて館内から出られないことになりましたし、本たちが騒いだり拗ねたりするのも分かるのです。でも、ペナルティは図書館の掟ですから、どうしようもありません。
ワタシたちのお仕事には、本たちが機嫌よく『借りられて』行くように、調整することも含まれてますから。
「この大技を使ったのは久しぶりだよ。まりーさん、エディさん。本の確認をお願いできますか。あきちゃん、タマさん。キャリーさんと一緒に応接室にお願いします。あ、あきちゃんはキャリーさんの服も一緒に持ってきて」
「わかった。追尾の準備もしておくよ。まりーさん、開架図書の方をお願いできますか。俺は閉架図書の方を確認してからそっち行きますわ」
「はーい。まかされましたー」
エディさんとまりーさん、早速印刷したリストを手に上がっていきます。
あたしはキャリーさんの黒い服を紙袋に詰めて、クロ館長の後を追います。
応接室の本は……借り出された本だからか、昨夜のままのようです。あのおっきな本が暴れてたらどうしよう、と思ってたのでちょっとほっとしました。
「キャリーさんはその椅子にどうぞ。タマさん、そっちのソファを引っ張ってきてもらえます?」
「わかった」
タマさんが出してきてくれたソファにクロ館長とタマさんが座ります。ワタシはその端っこにちょこんと乗っけてもらいました。
「さて、キャリーさん」
改まって、クロ館長は姿勢を正します。ピンと伸びたおひげと耳。あー、これは怒ってます。タマさんも一緒ですね。ワタシも一応お二人に合わせて気難しそうな顔をしてみます。……できてるでしょうか?
「いろいろ事情があるようですね。貸し出しの際にきちんとお話していただいておけばよかったのですが」
「クロ館長には落ち度はねえよ」
ぼそっとタマさんがつぶやきます。ぴぴっとクロ館長の耳が跳ねました。感謝の印ですね~。
「お話いただけますか? キャリーさん」
「……そんなことより、あなた、あなたがあのクロッシュフォード伯爵なのっ!?」
キャリーさん、いきなり椅子から飛び上がるとクロ館長に詰め寄ります。
「え……?」
クロ館長が伯爵?
そんなことありえませんよ~。
伯爵さまがなんで図書館で寝泊まりしてるんですか。それにすごい寝相だし、寝言もすごいです。部屋もいつも汚いですし。
しかし、タマさんは動じません。ぽりぽりと頭をかいてます。あ、いい忘れましたけど二人とも直立猫スタイルです。
「クロッシュフォード伯爵なんですよね?!」
重ねてキャリーさん、尋ねます。
サイズはワタシと同じですが、めちゃめちゃかぶりつきです。くーっ、そんなに近くに顔寄せるのは反則ですぅっ!
クロ館長、ほら、はやく違うって言ってくださいようっ。
「――こーなるんじゃないかと思ったよ。この子があの本を探しに来た時に」
「この子だなんて、失礼なっ! わたくしはキャリー……キャロライン・フィッシャーズ、王立魔法学院を主席で卒業した王宮付きの魔術師ですのよっ!」