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六の掟 掟破りのペナルティ

20160814 全体的に手を入れています

 喫茶室の中に沈黙が流れた。

 まさか、キャリーさん?

 でも、それにしてはなんだかちっさくないですか?

 黒い帽子も黒いローブも、なんだかぶかぶかで引きずってるような……。


「あなたでしたか」

「あんただったのか」


 クロ館長が最初に動きました。続いてタマさん。


「何のこと? それよりねえ、あたしにもモーニング頂戴ってば」


 イライラした感じです。あれ、もう少し大人びた感じの人だったと思うんですけど、口調が幼い感じです。


「キャリーさん、当館は現在閉館中です。どこから入ったんですか?」


 クロ館長、実に落ち着いた声です。でも怖いです……めちゃくちゃ怒ってますよね。


「どこからって、玄関からに決まってるでしょ?」

「いつ、入ったんです?」

「いつって……いつだったかしら」


 とぼけているのか、本当に覚えてないのか、キャリーさんは視線をさまよわせてます。


「玄関は鍵がかかっていたはずです。あなたが魔法で解除したのですか?」

「え? ええと、どうだったかしら」


 これもまた、覚えてないのか迷ってるようです。


「クロ館長、だめだよ。ペナルティ食らってるから、おそらく入館時点の記憶は吹き飛んでる」


 タマさんの声。ペナルティ? ああ……そうですね。掟を破ったペナルティのことですね。


「とりあえず、その服はなんとかしませんとねー。確か演劇の衣装が倉庫に……って倉庫までいけませんねー」


 まりーさん、ぶかぶかのローブを脱げないように抱き上げます。キャリーさん、抵抗してますけど……。


「あきちゃん、その帽子持ってキッチンの奥についてきてもらえますー?」

「はーい」


 言われたとおりにキッチンの奥に進みます。そういえば、エプロンとかの在庫はここに置いてるんでした。


「ちょっと、何するのよ」

「ちょっとねー。あきちゃん、あきちゃんの貸してあげてもいいー?」

「はい、どうぞー」


 ロッカーからワタシ用のエプロンドレスを取り出します。まりーさん、すばやくキャリーさんの服を脱がしていきます。ワタシは放り出されたローブとか肌着とかをちゃんと折りたたんで行きます。うん、濡れてますねぇ。雨にあたったあとに図書館に入った証拠です。

 うわ、でっかいぶらじゃーです……サイズは……うわーん、くやしいですぅ……。は、はやくおおきくなりたーいっ!


「なにするのよっ」

「はーい、ばんざいしてー」


 まりーさん、誘導がうまいです。キャリーさんはワタシ用のエプロンドレスを着せると、風でくちゃくちゃになった髪の毛を梳かして可愛らしく束ねます。


「なんなのよ、もう。……まあ、雨で濡れちゃったから助かるけど」


 着替えが終わってワタシの靴を履いたキャリーさんがワタシの隣に並びます。ワタシよりちょっと大きいくらい。


「あら、あなた……ずいぶん大きくなったのねえ」

「違いますよー。あなたが小さくなったんですよー。さ、行きましょうねー」


 まりーさんに手を繋がれて喫茶室まで戻ります。


「クロ館長、着替えおわりましたー」

「ああ、やっぱり。あきちゃんよりは大きいんですね。さて、キャリーさん」


 キャリーさんを空いた椅子に座らせて、クロ館長は前にしゃがみました。視線を合わせてますね。


「何よ」

「あなた、図書館を怒らせてしまいましたね」

「……なんなの?」


 キャリーさんはまだ状況を飲み込めてないようです。


「正確には本を怒らせた、ですかね。タマさん、鏡ありませんか」

「ああ、それなら」


 キッチンに入ってタマさんは一抱えある鏡を持ってきます。これ、知ってます。まりーさんとタマさんが毎日、笑顔の練習に使ってるあれですねー。


「見てください。気が付きませんか?」


 クロ館長はキャリーさんの前に鏡を差し出しました。彼女が映るように。


「何って、別段変な鏡じゃないわよね……あら、あたし……若返ってる?」

「正しくは、ちっさくなった、です。今のあなたはあきちゃんとほぼ同じサイズに縮んでいます。だから帽子もローブもぶかぶかだったんですよ」

「縮んだ? 何をバカな……」


 自分で鏡を持とうとして、キャリーさんは自分の手をまじまじと見つめています。そうですよねえ、昨日はまりーさんと同じくらいのぼんきゅっぼんだったんですから。今はワタシと同じ寸胴で……わーんっ、いつか見返してやるんですからっ。


「おおよそこんなところかな。雨が降ると聞いてあなたは一旦家に戻った。何をしにかは知りませんが、その後図書館に戻ってきて、閉館になってるのに魔法で無理やりこじ開けて図書館に入った。おそらく何か忘れてたんじゃあないでしょうか。応接室にいろいろ残ってましたよね? で、応接室に入って、今の今まで写本をしていた。持ち込んだのは夜食ですか? 応接室で食べながら作業をしていた。そうではありませんか?」


 クロ館長の言葉に、キャリーさん、口を尖らせて黙っちゃいました。たぶん、ほぼ当たりなんでしょうね。


「あちゃー、ということは、四つの掟違反か。だからこのペナルティなんだな」


 タマさんは頭をかいてます。コレほどの重度違反は久しぶりですけど……。


「だから何なのよ。ペナルティ? 罰金でも何でも払えばいいんでしょう? あたしには時間がないのよっ」

「それは掟を破っていい理由にはなりませんからねえ」


 エディさんがぽつりとつぶやきました。


「で、どういうペナルティが課されてるんだい? まりーさん」


 紅茶を飲んでいたまりーさん、モニターを見てにっこり笑っています。


「当面の間、年齢の退行、魔法の封印、魔力0、敷地内からの立ち去り不可、それから――おやつ禁止ですって」

「なっ……何なのよ一体! あたしは急いでるんだってば! 急いで帰らなきゃならないのよっ」

「かなり重いですねー。まあ、その代わり食事は喫茶室で準備することになるんでしょうけどー。もちろん後できちんと払ってもらいますよー?」


 にっこり言いながらまりーさん、怒ってるでしょ?


「そんな……じゃああたしは一体何のために……」


 キャリーさん、泣き崩れてしまいました。

 なんだか図書館が同調してるようです。遠吠えのような音が聞こえます。どの本だろう、本が哭いてる感じです。


「ともあれ、この本たちを鎮めないことには、何もできないなあ」


 エディさんは、ロビーの方を見つめています。キャリーさんが泣き始めてから本の速度が上がってる気がします。

 今日はもう図書館は開けられそうにないですが……なるべく早く通常営業に戻して、逃げていった本を確定して、捕縛しに行かなきゃいけません。

 忙しい一日になりそうです……。

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