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黒猫図書館の掟 ~今日もいい天気です~  作者: と〜や
第一章

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四十一の掟 終章。そして日常。

 誰かが呼んでいます。この声はクロさんでしょうか。


「おはよう、眠り姫」


 目を開けると、黒い毛並みの顔が見えます。少しやつれた感じに見えますね、クロさん。毛艶も薄れてボサボサな感じです。お耳がぺたっと倒れてるし、なんだか悲しそうです。


「クロさん……?」

「ああ、起きたのかい?」


 クロさんの後ろから、フードを深く被ったおばあさんの顔が見えます。誰でしょう……。クロさんのおばあさんとかでしょうか。


「あ、はい。おはようございます……」


 体を起こそうとしたらくらっとめまいがしました。再びベッドにぼすんと倒れ込んだ枕は柔らかくて、二度寝してしまいそうです。


「大丈夫か?」

「あ、はい。あの……何がどうなったんでしょう。教えてもらっていいですか?」


 クロさんがいるのに二度寝なんて失礼ですよね。慌てて目を開けます。枕元に座るクロさんはワタシに毛布をかけなおしてくれました。


「もちろん。どこまで覚えてる?」

「えっと……クロさんから呼ばれて、お城のお部屋まで行ったのは覚えてます。そのあと、眠くなって……起きたらクロさんの顔が見えました」

「そうか。もう全部終わったよ。マリオン殿下も無事救い出せた。今頃は城で目覚めているだろう。キャリー嬢も回復して、フィリップと一緒に家に戻った。まあ、図書館のペナルティがあるからまた図書館には顔を出すだろうけど」

「そうですか、良かったです。あの……ここはどこですか?」

「ここはあたしの家だよ。ほれ、クロード。ちゃんと紹介しておくれよ」


 後ろからおばあさんがクロさんをどついてます。しぶしぶ場所を入れ替えて、おばあさんを前に押し出してきました。


「彼女はヤドリギの魔女ミスト。俺のお師匠様だ」

「久しぶりだねえ。と言ってもお前さんは覚えてないだろうけど」

「あ、はい。あの、ええっと……」


 久しぶり、と言われてしまいました。初めましてと言うのは違う気がしますし……。


「ああ、そうだったね。それからこっちが弟子のアーシャ」


 おばあさんの向こうから綺麗な女の人が顔を出しました。くりっとした瞳がとても印象的です。


「初めまして。アーシャと申します」


 とても優しそうに微笑む彼女がとっても眩しいです。ああ、はやくワタシもこういうぼんきゅっぼんな素敵な女性になりたいです。

 自分の体を見下ろして、ちょっとおセンチな気分になりました。


「自己紹介はこれでいいでしょう? 話はあきちゃんが起きられるようになってからです」


 そういってアーシャさんとおばあさんを向こうに追いやって枕元に座りました。


「ごめんね、あきちゃん。長く眠らせてしまって」


 耳がへにょっと伏せられてます。そんなに長く寝てた気はしないのです。夢も見なかったし、寝てすぐ起きたような感覚なのですから。

 そう思って首を横に振ると、クロさんは手を伸ばして頭をなでてくれました。


「クロさんこそ、毛並みもボサボサで元気がないですよ。ちゃんとご飯食べてますか?」

「そんなことは心配しなくていいよ。……いや、心配させてごめん。いろいろあってね。しばらくここで休養して、元気になったら黒猫図書館に帰ろう」

「はい。……みなさんどうしてるでしょう。早く会いたいです」


 もうずいぶん長い間会ってないように思います。皆さん、元気にしてるでしょうか。エディーさん、タマさん、まりーさん。


「そうだね」


 クロさんはワタシの額にぽむと肉球をつけてくれました。ひんやりして気持ちいいです。あれ……この感触、どこかでやってもらった記憶がありますよ?


「熱はもうないみたいだね」


 それから、クロさんの顔がドアップになりました。びっくりして目を閉じると、ぺろりと鼻の先を舐められました。ほっぺにキスまでされちゃいました。湿った鼻が冷たいです。それから、唇もぺろり。ひゃあ、恥ずかしいです。


「体に異常はない? 痛いとか辛いとか」

「えっと……あの」


 ほっぺに当てられてる肉球が冷たくて良い気持ちです。


「何?」

「あの、お……おなかがすきました……」


 盛大にお腹が鳴りそうなくらい、お腹がぺったんこなのです。恥ずかしくて顔を手で覆っちゃいます。

 くすくすとクロさんは笑って額にキスをくれました。


「わかった。何か作ってもらうよ」


 部屋を出ていくクロさんを見送って、ワタシは目を閉じました。





「おはようございます!」


 新聞配達のバンさんが元気よく入ってきます。うわあ、この挨拶も久しぶりです。


「おはようございます」


 ワタシが受け取りに出ると、びっくりしたように目を丸くしてました。


「おお、あきちゃん。久しぶりだねえ。元気にしてたかい?」

「はいっ!」

「バンさん、お茶が入ってますからどうぞ〜」


 喫茶室の方からまりーさんの声が飛んできます。今日は紅茶らしいです。いい匂い。


「ありがとう、まりーさん。あきちゃん帰ってきてよかったねえ。いつもまりーさん、寂しそうにしてたけど、今日は嬉しそうだ」

「あらやだ、バンさんってばよく見てらっしゃるのね〜」


 くすくすと笑いながらまりーさんがちらっとワタシの方を見てます。


「おはよ、まりーさん、コーヒーくれる?」


 大あくびしながら階段をおりてきたのはタマさんです。だいぶやつれた感じですね。ワタシとクロさんがいなかった間、何があったんでしょう。


「はぁい。すぐ入れますねぇ」


 まりーさんはいそいそとカウンターの奥に戻ります。タマさんはワタシの頭に手を載せてぽんぽんと撫でるように叩いてからカウンターの方へ歩いていきます。

 エディーさんが表から戻ってきました。戻ってきてからまだ重たいものを持たせてもらえないので、看板を引っ張り出したり表を掃いたりするのも全部エディーさんにお任せです。なんだか申し訳ないです。


「あれ、館長はまだ?」


 タマさんの声にまりーさんがくすくす笑ってます。


「まだですねえ」

「まったく……俺が館長代理やってた時はもっと早くに起きてたぞ。あきちゃん、悪いけどクロード起こしてくれるか?」


 タマさんの声にワタシははぁい、と返事をして階段を上がります。

 階段をえっちらおっちら上がってる間に、下からキャリーさんの声が聞こえてきました。応接室から出てきたみたいです。

 あの巨大な本を書き写す必要がなくなって、本自体は元の場所に収められてるんだそうですが、あの時のペナルティが終わるまではキャリーさんは図書館から出られないんですよね。

 図書館にはお客さんを泊める施設などないので、結局あのまま応接室の椅子をベッドに作り変えて住んでもらっています。やることも結局なくなってしまって、今は喫茶室の接待と、図書館業務のお手伝いをお願いしてます。まあ、本を元の場所に返したり、本を取ってきたりのお手伝いぐらいしかできないんですが。

 三階の館長室を覗くと奥の簡易ベッドでゆらめくしっぽが見えます。


「クロ館長、朝ですよう。タマさんが朝ごはん作ってくれますから、起きましょうよう」


 足元には本が山積みされていたりして、奥に入り込むのは相変わらずためらわれます。でも、起きてもらわなくちゃいけないのです。


「クロ館長、起きないと掟発動しますよう?」


 しっぽがぴんと伸びました。頭を掻きながら、クロ館長が起きてきます。


「おはようございます、クロ館長」

「おはよう、あきちゃん」


 今日もピカピカの毛並みです。寝癖がついてるのでそこだけ指摘すると、ささっと直して部屋から出てきました。

 あ、いい匂いがします。今日はごはんとお味噌汁みたいですね。タマさんのだし巻き卵は絶品なのです。よだれが出そうです。

 にゅっとクロさんの黒い手が伸びてきてあっという間に抱えあげられました。


「く、クロ館長、歩けますっ」

「俺が抱えておりたほうが早い。……嫌か?」


 そう言いながら、鼻をほっぺたにくっつけてきます。なんだか、お城に行ってからこうやってくっついてる事が増えた気がします。

 クロ館長の毛並みもお耳もおしっぽも大好きなので、嫌なはずがありません。首をぶんぶんと横に振ると、機嫌よく階段を降り始めました。

 ああ、はやくクロ館長と同じくらいのサイズに成長したいです。いつまでもちっちゃいままなのは嫌なのです。

 下に降りるとバンさんがいち早く気がついて手を振ってくれます。

 クロ館長はすでに席についてるエディーさんの横に座り、ワタシはその横に降ろしてもらいました。ピンク色の焼き魚までありますっ。うわぁ。幸せです。


「じゃ、食べようか」

「いただきまーす」


 手を合わせて、お箸を取り上げます。

 顔を上げて、皆を見回します。こうやって食卓を囲んでいると、ようやく戻ってきたなあ、と実感します。

 クロ館長と視線があいました。首をかしげるので、ワタシはにっこり笑います。

 さあ、今日はどんな一日になるんでしょうか。





 第一章 了

第一章完結です。


キャットシーツアート同じく、こちらも第二章をいずれ書くかも知れませんが、とりあえずは、完結と致します。

ここまでお読みいただきありがとうございました!

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