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四の掟 雨の日は何人たりとも館内にいてはいけません!

20160814)全体的に手を入れています

 発掘作業が中止になったので、今日は館内のお手伝いです。

 エディさんが扉の修理にかかりきりなので、返却された本のうち、一階の児童図書のものはエディさんに聞きながら本棚に返します。二階以上だと本かかえて登れません。……あー、はやくおっきくなりたいです。

 まりーさんみたいに、本を小脇に抱えて颯爽と階段を上がる自分の姿を想像してしまいます。かっこいい女になりたーい!


「扉の修理、終わった。おい、雨降ってきたぞ」


 扉を開閉させながら最終調整してたエディさんがそう言いながら入ってきました。


「お疲れ様でしたー。お茶どうぞー。じゃあ、閉館作業に入りますねー」


 紅茶をカウンターに置いて、まりーさんはぱたぱたっと受付のカウンターに座ります。


「あきちゃん、クロ館長呼んできてくれるー?」

「はーい」


 えっちらおっちら三階まで上がります。


「クロ館長、雨降ってきましたよー。閉館アナウンスおねがいしまーす」

「はいよ」


 部屋の入り口からそう叫んで、私は上へ向かいます。とにかく窓の戸締まりを確認です。屋上にはタマさんのおうちがあるんですが、出入口はひとまず施錠します。雨が入ったりしてきたら、大変ですから~。

 ぴんぽんぱんぽーん。館内アナウンスが入ります。


『黒猫図書館をご利用のお客様にお知らせ致します。雨が降ってまいりましたので、当館は閉館致します。貸し出しをご希望の方は急いで受付までおいでください。なお、閉架図書の本の貸し出しは行えませんので、あしからずご了承ください。繰り返し……』


 アナウンスの声もかっこいいです、クロ館長。いいなあ、凛とした声ってうらやましいです。

 上から見ているとお客様が帰っていくのが見えます。三階も鍵を閉めて、開架図書のコーナーを見回ります。前に、かくれんぼしたまま眠っちゃった子が夜中に大泣きして、大変だったことがあるんですよね~。

 いました。ちっちゃいお客様ですがお子様ではありません。エディさんぐらいの背丈の人です。


「お客様、申し訳ありませんが、閉館となりましたので……」


 チッと舌打ちされちゃいました。雨が止むまで雨宿りさせてくれっていう人もいるんですが、雨が降ったら図書館はお休みしなきゃいけません。喫茶室も閉めるし、私達もみんなお家に帰るので、雨宿りは無理なんです。

 このお客様もそれでした。


「雨の中追い出すってぇのかい? まったく、サービスが悪いったらないよ」

「申し訳ありません、規則でして、雨が降ったらすみやかに閉館しなければならないんです」


 平身低頭、謝るしかありません。掟なんですが、まずはお話してみてからです。


「どうかしたかい? あきちゃん」


 直立猫姿でクロ館長がやってきました。館長室のすぐ近くでしたし、声が聞こえたのでしょう。助けてください、館長~。


「雨が止むまで雨宿りは無理です。いつ雨が止むかわかりませんし、その間、お客様を館内に置いておくわけには行かないのです。規則でして」


 クロ館長が出てきたおかげか、お客様は渋々階下に降りて行かれました。クロ館長が後ろをついて行きます。私は頭を下げて、他にまだお客様が残っていないかを確認して回ります。

 五階と四階はよし、三階よし、二階もよし。立入禁止の意味でロープを階段に掛けます。

 一階に降りてくると、開架図書のコーナーは全部もうロープで閉鎖されてました。おトイレもよし、奥のほうの鍵も確認してロープを張ります。


「あ、そういえばキャリーさんは?」

「ああ、あの人ならアナウンスがあったとたん飛び出して行きましたよ」

と答えたのはタマさんです。閉館間際の受付業務でまりーさんが忙しかったみたいで、一階の見回りは全部タマさんがしてくれたそうです。


「ノートや鉛筆もそのまま放り出してあったので、机に戻しておきましたけど。本も開きっぱなしでしたので、栞を挟んで閉じてあります。明日来るって言ってましたから、大丈夫でしょう。応接室は窓も扉も鍵を掛けておきました」

「タマさんありがとう。では、我々も退館しましょうか。エディさん、扉の修理おつかれさまでした。間に合ってよかった」


 クロ館長がねぎらうと、エディさんは嬉しそうにひげを撫でています。


「まったく。我ながらよく間に合ったもんだと思ったよ。今度ふっとばされたら蝶番の部分を新造しないとダメかもな」

「次回がないことを祈りますよ。さ、帰りましょう。まりーさん、僕らの宿の手配、おねがいできますか?」


 雨の日だけはクロ館長もタマさんも図書館で寝泊まりできないんだそうです。図書館の掟そのよんです。


「はい~、もう取ってありますよ~。いつものタンゴ亭でよかったんですよね~?」

「ええ。ありがとうございます。さすがですね」


 まりーさん、嬉しそう。いいな~。褒めてもらえて。

 最終点検して、全員で図書館を出ます。


「そうだ、エディさん、一杯飲みませんか。今日のお礼です」


 扉を出て、ワタシの渡した大きな鍵で扉に鍵をかけながら、クロ館長が言い出しました。まだ日が暮れるまでは時間がありますもんね。


「いいですねえ。まだ時間ありますし」

「タンゴ亭のレストランでいいよね。タマさんも一緒に。まりーさんも来る?」

「ありがとうございますー。ご一緒したいですー」


 いいなー。いいなー。オトナの人だけでお酒飲むんですよね、時々こうやって。

 でもワタシはまだお子様なのでご一緒できません。くやしー。はやくおとなになりたぁい。唇を尖らせてぷんぷんです。


「あきちゃんはどうする?」

「へ?」


 わ、ワタシも誘われましたっ! しかもクロ館長から! いいんでしょうか、こんなに幸せで。


「い、行っていいんですかっ?」

「もちろん。遅くなるようなら帰りは送るよ」

「い、い、行きますっ!」


 わーいわーい、嬉しいですっ♪ お酒は飲めませんが、一緒にごはんたべるのは嬉しいのですっ。

 傘をくるくる回しながらワタシもくるくる回ります。喜びの踊りですっ。


「じゃ、みんなで」


 クロ館長の笑顔。素敵ですっ。

 雨の日はぬれるし歩きにくいからあんまり好きじゃないんですが、こんなに良いことがあるなら、雨の日大好きですっ。

 そうしてみんなでタンゴ亭に行くのでした。

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