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三十六の掟 魔女の不在

 日に一度の魔女の襲撃を受けつつ、流し込まれた肉体改造の魔術を魔石で吸い上げ、運ばれた食事をクロードに食べさせるのがキャリーの日課になって三日目。

 魔女の狂宴まであと三日になった日、フィリップが嬉しい報告を持って塔に昇ってきた。


「珍しいわね、食事以外のタイミングで上がってくるなんて」


 兄を迎えてキャリーは首を傾げた。すでに昼も過ぎ、ティータイムになろうという頃だ。


「マリオン殿下につけられた三つのリップ痕の持ち主を拘束した」


 フィリップの言葉にキャリーは目を丸くした。


「そうなの?」

「ああ、夕べも来ていたろう。あの三人。引き上げる時に使い魔に追跡させて一網打尽に成功した。魔女の枷で魔力を封じたからもう何も出来まい」

「お疲れ様でした、お兄様。じゃあ、マリオン殿下のリップ痕はもうアーシャさんに消してもらってもいいのね?」

「そうだな。連絡しておいてくれ」


 キャリーは早速鏡を通じてアーシャへ連絡を取った。が、アーシャはあまり嬉しそうな表情をしなかった。


「どうかなさったのですか?」

『おババ様が戻らないのです。昨夜、知り合いの魔女を訪ねるとおっしゃってましたが、まだお戻りじゃなくて。心配は要らないと言われているのですが、おババ様のいない間に勝手に施術してしまうのはちょっと』


 キャリーは兄を振り返った。通信を聞いていたフィリップもうなずく。


「そうですか……。ではミスト様がお戻りになるのを待ってで構わないと思います」

『分かりました』


 アーシャは神妙な顔で頷く。


『クロード様はいかがですか?』

「相変わらずです。体力温存のためにほぼ一日中お休みになってます。変容は……嗅覚でした。対処は済んでいます」


 味覚がおかしくなってから、一日ごとに一つの感覚が変容していた。もちろん、魔女ミストの指示通り、かけられた魔法はすぐさま魔石で吸い上げ、封印してある。味覚の変容を魔石で吸い上げられたおかげで、ほぼ元通りの味覚を取り戻し、食事も取れるようになっている。ほぼ、と言ったのは、時折血の味が混じった気がする、とクロードはフィリップに伝えていたからだ。

 ともあれ、一週間も砂糖水だけで耐えなければならない状況は切り抜けられたので、フィリップもキャリーもホッとしていた。クロードも、ジャムの味がちゃんとそのままだったことに気がついた時は、心底嬉しそうな顔をした。


『味覚、聴覚、嗅覚の順ですか。……あと二日、ですわね』

「ええ。……あと二日です」


 二日経ち、日が変わった三日目から狂宴は始まる。その中心地はこの塔だ。最近、マリオンの部屋をのぞこうとやってくる魔女の数が増えたらしい。三人の魔女のように抜け穴を通ってくるものはいないが、遠くから観察しているのはアラートで気がついていた。

 フィリップが鏡の前に歩み寄った。キャリーは兄を見上げて場所を譲る。


「アーシャ様。最近こちらに集う魔女の数が増えております。それにしたがって塔だけでなく王城全体でも魔女の魔力が濃くなってきております。……クロードも言っていたように、何が起こるかはその時になってみないとわからないでしょう。アーシャ様は日が変わる前までにマリオン殿下のリップ痕を間違いなく解除しておいてください。……三人の魔女は力を封じられましたが、魔女の狂宴で何が起こるかわかりませんから」

『ええ、心得ております。全てが終わるまで、お二人は必ずわたしが守りますわ』


 にっこりと微笑んで、アーシャは鏡の前から姿を消した。





 妙な気配が王城を侵食しているのは間違いない。これはおそらく、魔女の狂宴のためにマリオン殿下の塔を中心にすでに魔法陣の構築が始まっているせいなのだろう、と推測している。

 城はすでに警戒レベルを最高に引き上げてある。

 姿を隠しては近寄ってくる魔女については、見つけ次第蹴散らすように宮廷付きの魔術師たちには伝えてある。

 また、国内の貴族に雇われている魔術師たちも出来る限り召喚して、守りを固めてもらっている。

 これだけ警戒網を広げているのに、不快感は全く揺らがない。魔法陣は着実に構築され続けているのだろう。

 魔女たちの魔法陣はカモフラージュされているのか目に見えない。見えるのなら構築の邪魔もできるのに、と魔術師たちは歯噛みする。

 王や王妃、王子たちを避難させたかったが、王城より守りの固い場所はない。できるだけマリオン殿下の塔からは離れてもらうことを条件にしてあるが、万が一闇の王が復活した場合には最悪の結果になる。

 フィリップは塔を出ながらため息をついた。

 一つたりとも間違えてはいけない。

 向こうから駆け寄ってくる兵士に頷きながら、フィリップは足を早めた。

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