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三十の掟 最終チェックは慎重に

 崩折れたあきちゃんの体をクロードは抱き上げた。

 マリオンが寝ているベッドにそのままよじ登り、自分が中央になるように座ると、マリオンの反対側に彼女を寝かせる。


「じゃあ、この後の予定を確認する」


 ベッドを挟んで、フィリップとキャリーは入り口側、アーシャは窓側に立っていた。


「まず、アーシャはあきちゃんの魔力を引き出す準備をしてくれ。うまくいったらマリオンから第四のリップ痕を俺に移してくれ」

「ええ。リップ痕を移す方法はオババ様からちゃんと聞いてきたから任せてちょうだい」


 頷きながらアーシャは微笑みかける。


「ああ、信頼している。リップ痕が移せたら、あきちゃんとマリオンを移動魔法で打ち合わせ通りにこの場所から遠ざけてくれ。二人担ぐのは大変だろうが」

「大丈夫、体力は結構あるから。子供二人を担ぐぐらい、おババ様を背負うより軽いわ」


 クロードは口元をゆるめ、うなずいた。


「次はフィリップだ。この部屋を四角い結界で囲んでくれ。抜け道から魔女たちが入れないように寝室の内側だけを。もしかしたら直前に魔女たちが眠っているマリオン殿下の姿を見に来るかもしれない」

「直接中に入られるのはまずいな。了解した。では、外からはマリオン殿下が眠っているように見えるように仕掛けをしておこう」


 フィリップの言葉にクロードはうなずいた。頼みたいことを先回りで認識してくれる。昔から変わらないな。組んでる時にどれだけ助けられたか知れない。


「頼む。あとはキャリー嬢」

「は、はい」


 緊張しているキャリーに視線を移し、表情を和らげる。


「昨日も言ったとおり、君にはこの部屋にいて、俺の様子を常に監視して欲しい。お師匠様のところからは勝手に覗いてるだろうから問題ないとして、フィリップに常に連絡がつけられるようにしておいてくれ。予測が正しければ、マリオン殿下とは違って俺は意識を失わずに済む。動けるようなら食事も風呂も自分でできるが、動けないようなら世話を頼む。魔女の狂宴が終わるまで、この塔の中で過ごしてもらうことになる」

「はい、覚悟はできています」


 キャリーは口元を引き締めてうなずいた。


「フィリップ、彼女が横に成るための簡易ベッドを運び込んでおいてくれないか」

「いいえ、大丈夫です。居間にあった長椅子をこっちに運んでいただければ十分です」

「しかし……」

「そうだな、簡易ベッドなら塔内にある。持ってこよう。居間は一年近く手が入ってない。分厚いホコリの積もった長椅子では寝られんだろう」


 フィリップはそう言うと一度居間へ続く扉から出ていき、しばらくして折りたたみ式のベッドを持って入ってきた。

 マリオンのベッドからベッド一つ分離した位置に置き、押し広げてセットする。すぐさま取って返したフィリップが戻ってきた時には寝具一式を抱えていた。


「お兄様、それは後からでもよかったのに……」


 キャリーの言葉に、フィリップは首を振って妹の頭に手を置いた。


「いや、できる準備は整えておかなければ。お前にはかなりの負担をかけることになる。可能なら俺が代わってやりたいが、俺では長くこの部屋にとどまれば変容してしまう。……済まない。せめてこのくらいはさせてくれ」

「お兄様……」


 キャリーは俯いて目頭を押さえた後、顔を上げて微笑んだ。


「大丈夫ですわ、わたくしがこの姿になったのもきっとこの時のためなのです。わたくしにしかできないことですもの、やり遂げてみせますわ」


 フィリップは目を見開き、それから微笑んだ。


「よろしい、さすがは俺の妹だ。……最後に再確認させてくれ。表向きには、お前たちは魔女を連行してマリオン殿下の治療にあたっていることになっている。クロードと魔女は魔女の狂宴までこの部屋に泊まり込みで治療を続け、俺が食事を運ぶなどの世話を行っているということにする。食事はクロードと一緒に摂るという前提で二人分を運ぶが、それでいいか?」

「ああ、それで十分だ。もし俺が身動きの取れない状態になっていた場合も、カモフラージュとして二人前を運んでくれ」


 クロードの答えにフィリップはうなずいた。


「キャリーは一度塔を離れ、アッシュネイト姫の塔に現れた後、あきちゃんと一緒に姿を消したことになっている。ここにいてはならない人物だということを忘れるな」

「ええ、わかったわ。……わたくしは誰にも姿を見せてはいけないということね」


 キャリーも表情を引き締めてうなずいた。


「まあ、この塔には俺以外が登ってくることはありえないがな。用心するに越したことはない。俺が出入りする際は身を隠してマリオン殿下が寝ているようにカムフラージュしておいてくれ」

「承知いたしました、お兄様」


 キャリーは淑女の礼を取った。


「しかし、あきちゃんの行方不明事件に君たち二人が関わってしまったとは……まずいことになったな。二人が退出した後で逃げるように、彼女にはきちんと指令を出しておくべきだった。済まない」


 クロードは頭をかく。


「いや、直後に俺が姿を表しているから、むしろキャリー一人の仕業ということになっているらしい。俺の偽物を連れてあきちゃんに会いに行ったことになっている」

「えっ」

「すまん、誤解をいいことにお前を悪者にして。だが、俺が動けなくなるのはまずかったのだ。訂正するわけに行かなくてな」


 フィリップが頭を下げると、キャリーは首を横に振り、ほんのり微笑んだ。


「そうでしたの……では、ほとぼりが冷めるまでは身を隠すことに致しますわ」

「ああ、頼む」

「他に確認しておきたいことはないか? 始めてしまえばもう引き返すことは出来ない。何かトラブルが起こっても、各々で何とか対応してもらわなければならない。……色々無理難題を押し付けていることは重々自覚している。だが、失敗するわけには行かない。一週間を乗り切るまで、気を緩めず、臨機応変に対応して欲しい」


 クロードの重々しい口調に、皆が一様にうなずいた。


「では、予定通り始めよう」

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