三の掟 館内の飲食は喫茶室へ!
20160814)全体的に手を入れています。キャラの名前間違えてました(汗
お昼をささっと済ませて、エディさんは扉の修理に行っちゃいました。
タマさんとまりーさんはランチタイムのお客様のお相手。今日もいっぱいいらっしゃってます。
クロ館長はキャリーさんを館長室に招きました。もちろんワタシもご一緒します。
キャリーさんはお昼のパスタでだいぶ落ち着きを取り戻していらっしゃいました。でも、ずっと探し求めていた本が手に入らない失望感は埋めようもないみたいです。
「食後のコーヒーはいかがですかな」
「ありがとうございます。いただきます」
キャリーさんにソファを勧め、クロ館長は奥のミニキッチンでお湯を沸かしています。
このミニキッチン、クロ館長のわがま……たっての要望でエディさんが作ってくれたものです。だって、コーヒー飲みたくなっても一階まで降りなきゃいけませんし、コーヒー飲みながらゆっくりしたくても、三階まで持って上がらなきゃいけません。
まりーさんの手が空いてるときならコーヒーを持ってきてもらえるんですが、ワタシでは階段を上がるのもえっちらおっちらで、コーヒー載せたお盆なんてとてもじゃないけど持って上がれませんからー。
コーヒー、いい匂いです。まだ私は飲んじゃダメって言われてるんです。早くオトナになりたーい。
「美味しいですわ」
「ところで、先ほどの話なのですが……」
向かいのソファーに体を沈めてクロ館長が口を開きます。
「ええ……。まさか、わたくしが本を探して旅をしている間にそんな法律ができていたとは存じませんでした」
王国図書管理法――。貴重品である本を王国所有とし、図書館で管理するよう定めた法律。
でもまさか、複製した本まで対象になるとは思っても見なかったんですよね、ワタシも。
言われてみれば、複製魔法でできた本かどうか見分けがつかないから、全部ひっくるめてってことなのかもしれません。
「でも、複製以外にも方法はあるんですよ」
「え?」
キャリーさんが顔を輝かせます。
「ええ、ちょっと手間がかかるんですが、写本、という方法です」
「写本……つまり本をまるごと書き写すってことですわね?」
クロ館長、ひげを震わせてちょっと嬉しそうです。
「そうです。写本であれば製本しても図書管理法の対象外ですから」
「そうなんですか! ありがとうございます!」
クロ館長の両手を握ってぶんぶん振り回しているキャリーさん、すっごく嬉しそう。
そう、写本した本は個人所有が認められて、売買も認められています。
原本とそっくりに写本したものを嫁入り道具にされる人もいらっしゃるとか。
写本は資産としては価値が低いですから、そっくりに仕上げて原本だと偽って売る商売もあるのだそうです。
嫁入り道具に持って行った本が写本で、婚家から返されたという話も聞きますし、トラブルの火種にしかならないと思うんですけどねー。
この図書館にも時々、写本が持ち込まれたりするんですよね~。でも、原本以外はお断りしてます。
このあいだも写本を買い取ってくれっていうお客さんがきました。原本だと謝礼金という形でお支払いするんですが、写本だったのでお断りしました。だいぶ粘られましたけど、図書館の掟でお帰りいただきました。
掟は絶対ですから、うん。
「では、お借りして写本することにいたしますわ。ありがとうございます」
立ち上がり握手を求めるキャリーさんにクロ館長も立ち上がり、手を握ります。肉球、いいなあ……。
「ああ、そうそう」
「はい?」
「写本し終わって返す時に写本の方を返すとかはしないでくださいね。掟ですので」
「な、なんのことですの?」
ぎくり、と悪事がバレた時のような顔でキャリーさん。うろたえてます。そんなわかりやすい顔しちゃダメですよ。
「時々いるんですよね。原本を写本するのに借りて、返却の時に中身そっくり入れ替えて写本を返す方。ごまかしてもわかるので、絶対しないでくださいね」
しかも、原本のとじ糸ばらして表紙だけ入れ替えて、ご丁寧に図書館の管理シールも張り替えてお返ししてくださるんですが……。
図書館の本、傷つけないでほしいなぁ……。というか、そんなことしてまで原本ほしいのかしら。
ばらして組み替えちゃった時点でもうそれ、原本じゃない気がするんですけどねー。
表紙と中身は別々にしたら無補償回収対象になるんですが、まあ、ご存知ないですよね……。
「え、ええ。もちろんですとも。お約束いたしますわ」
「では、受付で手続きをお願いします。まりーさんに言えばわかりますから」
頭を下げながらキャリーさんは一階に降りていきました。ワタシもちょっと気になったので吹き抜けから様子を見ることにします。
「はい、魔法定理の本でしたよねー。閉架書庫から取ってきますからちょっとお待ちくださいねー。エディさん、お願いできますかー?」
とんてんかんする音が消えました。ちょっとして吹き抜けにエディさんが現れます。
「おりょ、あきちゃん上にいるのか?」
「はい、三階にいます」
「じゃあ、出庫頼むわ」
エディさんから本の場所を聞いて上がっていきます。あ、とんてんかんの音が再開しました。今日中に扉直さないと困りますもんね。玄関が閉められないと、とんでもなく困ったことになりますからー。
エディさんの指示は的確なので司書でないワタシでも探しだすことができます。閉架書庫は一フロアに十二の部屋があって、それぞれアルファベットの名前がついてます。書庫の中の本棚には数字が振ってあって、その番号と上から何段目の棚の左から何番目、まで指示してくれます。
というかエディさん、図書館の中の本の場所、全部覚えてるんですよー。びっくりです。
で、探しに行きます。……あれ?
「エディさーん」
五階の吹き抜けからエディさんを呼びます。とんてんかん、止みました。
「あったかー?」
顔を出してくれたエディさんに、ワタシは首を振ります。
「ありませんよー。誰かに貸し出してないですかー?」
「あの本は収蔵されてから一度も貸し出してないはずだぞ。……クロ館長連れてそっち行くわ」
うわ、本の場所だけでなく、貸出履歴も覚えてるんですかっ。さすがですー。
なんだかエディさんの様子が変です。不安になってきました。ワタシが見間違えたのかなぁ。もう一度閉架書庫に戻って、指定された棚の本を確認することにします。
でも、ありません。見落としてるとは思えませんし、他の棚にあるわけでもなさそうです。
「あったか?」
エディさんが登ってきて場所を確認しています。でもやっぱりないらしいです。
「あ、館長」
「エディさん、どうです?」
ひょいと首を突っ込んでクロ館長が鼻をぴくぴくさせています。おひげがびりびり震えてます。
「んー、確かにないな」
「クロッシュフォードの魔法定理、だったよな」
「ん? クロフォードの魔法定理じゃないのか?」
「違う。クロッシュフォードの魔法定理だ」
「あー、ごめん。俺の勘違いだ。クロフォードの魔法定理だと思ってたよ」
エディさんの指定した箇所の本を見ると、確かに『クロフォードの魔法定理』と書かれてます。
「クロッシュフォードだったら……ああ、あれだ。クロ館長、でかすぎて閉架書庫に入れられなかった本、あったろ?」
クロ館長、顎に手を当てて考えてます。そういえば、そんな本ありました。回収始まってすぐの頃に図書館に運ばれてきた、あの本。
「エディさん、それってもしかして、館長の部屋においてあるあのでっかい本のことですか?」
「そう、多分それだ」
「……あー。あれか」
反応が少し遅いですよクロ館長。もしかして忘れてたでしょ。
「い、いや、まさか。はっはっは。じゃあ、運び出そうか。エディさん、よろしくお願いします」
「へい、了解。しかしあれ、あの子に運べるのか?」
「魔法が使えるなら可能じゃないかな。まあ降ろしてからにしよう」
クロ館長の部屋に行くと……ありました!
執務室の机の後ろの緞帳の裏側には天井につきそうなくらい高い本棚があるんですが、そこにはめ込んでありました。でも、でかいです。本棚とほぼ同じ高さで、扉一枚分ぐらいの大きさ。
「クロッシュフォードの魔法定理……間違いない。よし、運び出そう。あきちゃん、そっちの扉、押さえといて」
「はーい」
「クロ館長、あ、そこ押さえといてください」
てきぱきと指示出しして、エディさんは一人で本を担いで降りて行きます。あんなに重たい本を片手で軽々です。やっぱりすごいなぁ。後ろをついて降りますが、エディさん、ふらつきもしません。
「お待たせしました。これがクロッシュフォードの魔法定理の本です」
ずしん。ちょっと床が揺れました。
「あの、これが……?」
さすがにキャリーさん、目を白黒させています。
「じゃ、貸し出し手続きちゃちゃっと済ませますねー。はい、これで大丈夫ですー」
まりーさん、てきぱきと貸し出し手続きしています。
「こんなにおっきいなんて……どうしましょう。持って帰れないわ」
「魔法では無理ですか? 館の中では禁止ですが、外に出れば使って構いませんので」
しかしキャリーさん、首を振ります。
「重量オーバーよ。こんな重たそうなもの、吊り下げても持ち上げても無理ね。どうしよう……配達してもらえない?」
クロ館長は首を振ります。
「ご覧のとおり、当館は従業員が五人しかいませんので配達は承ってないんです。一人欠けても図書館の業務が回りません」
本当はタマさんとまりーさんがいればなんとかなるけど、こんなの運べるのはエディさんだけだし、エディさんは扉の修理で手一杯だし。ほら、もうとんてんかん始めた。
「じゃあ……写本しに通うのはありかしら。写本が終わるまで、ここに置いておいていただけない?」
「ここって……この受付に置いとくのは無理ねー。クロ館長、一階の応接室使ってもいいー? 普段誰も使ってないしー」
まりーさんの提案にクロ館長、考え込んじゃいました。
まあ、応接室使うようなお客様って誰も来ないんですよね、この図書館。お客様は結局館長室にお通ししちゃいますし。
「クロ館長、いいんじゃないですか? 応接室使うようなお客さん、来ないし」
とエディさんも助け舟を出します。
「まあ、確かにそうなんだけど、ずっとってわけにはいかないしなあ」
「写本が終わるまで! 終わるまででいいんです。毎日来ますから」
みんなの視線がクロ館長に集まってます。クロ館長、あきらめて肩をすくめました。
「わかった。じゃあまりーさん、応接室開けてください。エディさん、悪いけど運んでもらえるかな」
「すみません、ありがとうございます。じゃあ、紙とペン取りに戻ってきますね」
キャリーさん、すっごく嬉しそうです。それほど読みたかった本なんですね。
応接室開けて、邪魔になりそうな応接セットを片隅に寄せて、原本を置けるように低いテーブルをいくつか配置してから原本をセット。開いた状態にするとかなりスペースが要ります。それと、写本用のテーブルと椅子一式。
あらかた準備が終わった頃にキャリーさんが戻ってきました。紙の束にペン、お菓子などの入ったバスケットを手にしてます。それを見てクロ館長、ちょっと表情を曇らせます。
「キャリーさん、ご存知だと思いますが館内は飲食禁止です。応接室を使って頂いてますが、他の閲覧台と同じ扱いですので、ティータイムのお菓子やドリンク類は喫茶室でお願いしますね」
「ええっ、ダメなんですか?」
「黒猫図書館の掟です。あきちゃん」
「はいっ」
エプロンドレスから例の手帳を取り出します。
「黒猫図書館の掟そのさん、館内の飲食は禁止です! 休憩する場合は喫茶室をご利用ください。 です~」
「わ、わかりました。気をつけます……」
すごく残念そうにキャリーさん、お部屋へ入って行きました。
うん、その気分すっごくわかるんです。家で読むならお茶なりお菓子なり横においてゆっくりしたいものですもんね。
でも、しばらくしたら慣れるんじゃないかなーと思います。そうしたら一緒にティータイムするのもいいですね。