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二十五の掟 守護の呪い

久々にあきちゃんのターンです。

20160818 全体的に手を入れています。

「アッシュネイト様、お加減はいかがですか」


 そう言いながら、黒服のおじいさんが入ってきます。ワタシはアッシュネイトじゃないと何度言っても聞き入れてくれません。


「気分は最低です。それにワタシはアッシュネイトじゃありません」


 今日もベッドから出るのを許してもらえないようです。こんな生活が続いたらワタシ、ぶくぶくに太ってしまいますっ。

 塔から出られないし、おひさまも浴びることが出来ません。ほんの少しだけ開く窓からわずかばかりに日の日差しが入る程度で、ベッドから出られないワタシはそれすら浴びられません。

 何なんですか、まったく。

 何度言ってもクロさんには取り次いでくれません。キャリーさん呼んでって頼んでもダメと言われてしまいました。


「お食事は残さず食べられたようですね。今日はこのあと王宮付きの魔術師が参ります」

「じゃあ、お風呂入ります」


 ベッドから降りようとすると、護衛についているジーンが寄ってきてさっとワタシを抱っこしてしまいます。


「降ろしてください。歩きます」

「いえ、お運びいたします」


 筋肉隆々がっしりのジーンにはどうやっても敵わないので、結局おとなしく運ばれてしまいました。でも、こんなのがいつまでも続いたら、本当に足が萎えてしまいます。

 浴室には浴室付きの侍女がいて、あっという間に脱がされて洗われてしまいます。他人に洗われるなんて二度といや、と強硬に反抗してみたけれど、ワタシの話なんて全く聞いてもらえないのです。

 こんなのが姫なのだとしたら、ワタシなら逃げ出します。そのアッシュネイト姫も嫌がって逃げたんじゃないのかと思ってしまいます。

 部屋に連れ戻されてお着替えして、ベッドに座ったところで来客の知らせが来ました。

 居間に移動するのもジーンに抱えられてです。

 部屋に入ると、銀色の綺麗な髪が見えました。背の高い男の人です。見覚えはないですが、なんだか誰かに似てる気がします。


「初めまして、王宮付き魔術師のフィリップ・フィッシャーズと申します」


 ワタシがソファに降ろされたところで、その人は自己紹介してくれました。ああ、やっぱりキャリーさんに似てたんですね。キャリーさんのお兄さんでした。


「初めまして、あきちゃんです。キャリーさんは元気にしていますか?」

「ええ、ご安心ください」


 前の席にすわってもらって、紅茶が運ばれてくると、フィリップさんが人払いしてくれました。ジーンとジェニーが出ていきます。

 それから、目を閉じると何事か口の中でつぶやいています。聞き取れなかったので首を傾げていると、フィリップさんは不意に口元を引き締めて厳しい顔をしました。それまではどちらかというと無表情に見えたのですが。


「どうか、したんですか?」

「防音と遮蔽の結界を張りました。私が今日ここに来たのは、『アッシュネイト姫にかけられた呪いを調べるため』ということになっています」


 ああ、やっぱり。年老いた侍従の人が言ってたとおりです。

 ワタシはきっぱりと首を横に振ります。きっとこの人もワタシの話を聞いてくれない人なのだろう。でも、言わずに伝わることはなにもない。


「ワタシはあきちゃんです。アッシュネイトではありません」

「ええ、存じております」


 え? と間抜けな声が出てしまいました。今まで誰もワタシの言葉などまともに取り合わなかったので、耳を疑いました。


「あなたのことはクロードから頼まれています。あなたにかけられている魔術を解くつもりもありませんし、呪いも解くことはできません」

「はい」

「でも、私がこうやって調べている振りをしなければ、他の宮廷魔術師が派遣されるでしょう。治療をしている間は防音と遮蔽の結界を張りますので、聞きたいことがあればお知らせできますよ」


 この人を信じていいのだろうか。じっと目の前の銀髪の人を見る。


「では、フィリップさんとクロさんの関係を教えて下さい」

「クロードは王立魔術学院の同期です。彼のほうが優秀で、卒業後は二人共宮廷魔術師として王宮に入りました。五年前までは」

「あの、クロさんは最初から直立猫なんですか?」

「いえ、五年前からです」


 五年前。何があったんでしょう。黒猫図書館が出来たのが五年前だって話を思い出します。


「昔は金髪碧眼の美丈夫でしたよ。私が銀髪ですから、金銀コンビとよくからかわれていました」


 ほんのりと目元が下がる。あまり表情を変えない人のようですが、今のは微笑んだ、と取ってもいいみたいです。

 クロさんの昔を知ってる人なんですね。とりあえずは信じてみようかなと思います。


「それで、アッシュネイトという人の話なんですが、誰なんですか?」


 すると表情がまた引き締められました。うん、あまり語りたくない話なのかもしれません。


「五年前に行方不明になった第五王女です」


 五年前。また五年前ですか。……それがクロさんと関係がある、というわけなんですね。そんなことをジェーンさんが言ってましたっけ。ちっとも信じてませんけど。

 不意にフィリップさんが立ち上がり、ワタシの側に膝をついてワタシを見上げてきます。


「えっと、フィリップさん?」

「両手を見せてください」


 はい、と両手の甲を素直に差し出すと、フィリップさんは両手を握ってじっと手の甲を見つめています。フィリップさんの手はとても大きくて、ワタシの手などすっぽり隠れてしまいます。


「クロードを信じて待っていてください。全てが終わるまで、必ず私がお守りします」

「はい」


 フィリップさんが顔を上げ――不意に片手を離して額に手を伸ばして来られました。触られる、と思って目を閉じたのもつかの間、顔を上げると、手を止めてじっとワタシの額を見つめているフィリップさんがいます。


「何か……?」

「ああ、いえ。……なるほど。ちゃんと守りの呪いをかけて行ったんですね。あいつ……」


 俯いたフィリップさん、喉の奥でくくっと笑っているのが聞こえます。


「フィリップさん?」


 ワタシの声に上げられたフィリップさんの顔は、心底楽しそうに笑っていました。さっきまでほぼ無表情だったのに、すごい落差です。でも、いい顔です。


「ああ、いや、失礼。あなたは愛されてますね、あきちゃん。あいつがここまで執着しているとは思っても見なかった」


 からかういいネタができましたよ、とひとしきり笑ったあと、立ち上がったフィリップさんはもう引き締めた無表情に戻っています。

 扉がノックされてジェニーが入ってきました。気が付きませんでしたが、もう防音の結界は解かれているようです。


「フィリップ様、お時間でございます」

「ああ。ありがとう。では、また明日もお邪魔します」

「はい」


 フィリップさんは一礼すると出ていきました。

 一つため息をつくと、ワタシはソファに体を預けます。

 なんだか無性に疲れました……。

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