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二十四の掟 作戦は綿密に

20160818 全体的に手を入れています。

「……やめておけ。おまえが引き受けたところで、肉を持つ父の復活は妨げられん」


 魔女は目を閉じ、低い声で言う。


「銀の血を持つマリオン王子でなければ、大丈夫なのではないですか?」


 クロードは言い募る。だが魔女は首を振った。


「七日の間魔女の力に晒された肉体が近くにあればそちらに闇の王は吸い寄せられる。儀式の直前に移し替えるだけでは効果はない」

「では、帰国したらすぐにでも」

「やめておけ。今のおまえでは七日も耐えられんだろう? それに……おまえがその役を負うなら、メイザリー姫の魔力を引き出すのは誰がやるのだ?」

「しかしっ……」


 なおも食い下がろうとするクロードに、魔女は目を開いて睨み据えた。


「マリオン殿下の生命力と魔力を吸い取るリップ痕だけなら跳ね返すのは問題なかろう。だが、呪いを跳ね返せば彼女らはマリオン殿下を攫いに来るだろう。彼女らにこちらの企みを知られたくなければ、それごと引き受けねばならん。……その状態で誰がメイザリー姫の力を引き出し、呪いを跳ね返せるというのだね」

「わ、わたくしがマリオン殿下の身代わりになることはできませんか?」


 キャリーは思わず口を挟んだ。魔女の鋭い目が心を見通すように刺さる。


「お前さんの器では無理じゃな。クロードの器の大きさが必要なのじゃ。リップ痕を移すのはクロードの体でなければならん。……先に言うておくが、メイザリー姫の体を使おうなどと考えぬことじゃ。あれも銀の血の器、マリオン殿下よりはるかに大きな器。最悪の結果になる」

「で、では、わたくしが魔法定理を用いて呪いを跳ね返します。クロード様、ご教授いただけますわね?」


 キャリーが決意を込めてクロードを見ると、クロードは丸い目を更に丸く見開いていた。


「それは――」

「無理じゃな」


 クロードの言葉を魔女が遮った。


「呪いを跳ね返すのはわたしがやりましょう」


 スープの鍋を手にアーシャが戻ってきた。


「魔女の口づけを解除するのは魔女の狂宴が始まる直前でよろしいのよね?」

「で、でもわたくしも……」

「キャリー嬢、お前さんが己の魔力以外のものを力の源として使えるようになるためには時間が足りぬのじゃよ。クロードもアーシャも、わしの弟子として最初に叩き込んだからのう、一年ほどかかったが」

「一年……」


 その言葉にキャリーは視線を膝の上の拳に戻した。魔力量も申し分なく、歴代の王宮付き魔導師の中では最も優秀だと言われたクロードでさえ一年かかったものを、自分が七日の間に習得できるはずもない。


「わかりました……」

「クロード様にリップ痕を移すのもわたしが致しますわ。それでよろしくて?」

「ああ、頼む」


 二人の会話に、キャリーはさらに唇を噛み締めた。なぜ、わたくしはここにいるのだろう、と。


「では、王都に戻り次第、クロード様にリップ痕を移し、マリオンはこの森にて保護していただきましょう。ただ、三人の魔女たちは吸引している生命力と魔力が変わったことに気づくでしょう。だから、三つのリップ痕はマリオンに残しますわ」

「何を……言っている、アーシャ」


 クロードがうろたえているのがはっきり分かる声音。


「クロード様には七日の間、魔女の力に耐えていただかねばなりませんから、少しでも負担が少ないほうがよろしいでしょう? こうしておけばクロード様の生命力と魔力は吸収されませんから、マリオンのように昏睡することはないと思いますの。それから、メイザリー姉様をマリオンと一緒にこちらに保護します。マリオンの体を維持するのにメイザリー姉様のお力も借りたいし、狂宴が始まる前にここで魔女の呪いを解きますから」

「しかし……」

「キャリー様にはクロード様が戦っている七日の間、クロード様のお世話と警護をお願いしたいのです」

「……わたくしが?」


 アーシャはニッコリと微笑んだ。


「ええ、わたしはマリオンとメイザリー姉様を迎えに行ったあとはこちらに戻って籠もりますから、クロード様の様子を鏡でお知らせいただきたいのです。……心配なのは、魔女の濃密な魔力を浴び続けて貴女が変容しないか、という点なのですけれど……」

「えっ……変容?」


 キャリーは目を見開き、アーシャとクロードを交互に見る。


「変容とは、どういうことなんですか?」

「それはのう、器の小さい者にとっては魔女の濃密な魔力は毒になるからじゃ。獣は魔獣へ、人でさえ魔物に変化してしまう」


 魔女の言葉にキャリーはぞっと背筋を凍らせる。


「っ……そんな、ではクロード様やマリオン殿下はっ……」

「二人なら大丈夫じゃ。魔女の魔力を受け止めるに足る大きな器がある。じゃが……」

「大丈夫ですよ、キャリー嬢」


 眉をひそめる魔女の言葉を遮って、クロードが口を挟んだ。


「今のキャリー嬢は黒猫図書館のペナルティにより姿の変化をすでに受けています。魔女の力を浴びてもペナルティが解けない限りは変化はしないはずです。……ですよね? お師匠様」

「う……む。そうじゃな」


 余計なことをいいおって、と口の中でブツブツつぶやきながら、グラスに酒を追加する。


「三人の魔女の呪いを解いたあとは四つ目の呪いですわね。……クロード様、手立てはありまして?」

「……一応、考えてある。こちらには魔法定理もあるしね。七日の間に組み立ててみるよ」

「では、明朝の出発まで魔法定理をご教授くださいませ」

「分かった。……キャリー嬢、あなたは先に寝ていてください。お師匠様、彼女をベッドへ案内していただけますか?」


 クロードとアーシャが立ち上がると魔女はうなずいた。


「よかろう。お前たちも早めに寝るんじゃぞ。……キャリー嬢、こっちへ」

「はい」


 キャリーは魔女の後について部屋を出ていく。と、不意に風が吹いて冷たい雪が舞った。振り返ると二人はすでに部屋の中にはいなかった。

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