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黒猫図書館の掟 ~今日もいい天気です~  作者: と〜や
第一章

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二十三の掟 魔女討伐が歪みの始まり

20160818 全体的に手を入れています。

「かつては魔女も普通に人の間で暮らしておったんじゃよ、小さき魔法使い殿。魔女の使う魔法のうち、人や動物を癒やしたり、動物や植物の言葉を聞いたり、失せ物を探したり、天気を読んだりする魔法はとりわけ人々には珍重された。魔女は自然の落とし子じゃ。それゆえに自然と人間のなかだちであることが魔女にとっては誇りでもあった」

「そうなんですか?」


 キャリーは自分の知る魔女像と大きくかけ離れた本来の魔女の姿に驚きを隠せなかった。魔女は諍いを好み、血を好むと思い込んできたからだ。

 魔女は頷いた。


「魔女討伐が行われる前までは、あたりまえだったんじゃよ。魔女討伐以来、魔女は人のために魔法を使うことをやめてしまった。自分のためだけに魔法を使い、享楽にふけるようになった。もちろん、全ての魔女がそうなったわけではない。じゃがの……街から追い出された魔女は、自分の身を守るために魔法を使わざるを得なかったんじゃ。それが次第に人々には『魔女は暴力的で危険な存在』というイメージを植え付けてしまったんじゃな」

「……本末転倒じゃないですかっ。ひどい……」


 キャリーは悔しげに言い、涙をこぼした。俯いた途端に膝に置いた両手の拳に雫が落ちる。


「小さき魔法使い殿はわしらのために泣いてくれるか、ありがたいのう……。嬢ちゃんに自然のめぐみの加護がありますように」


 魔女は手早く印を切った。


「あら……お師匠様が加護を与えるだなんて、珍しいですわね」

「俺も初めて見た。よかったな、キャリー嬢」

「えっと……ありがとうございます」


 キャリーは涙を拭いながら顔を上げた。


「魔女の与える加護は強力ですわよ。よほど気に入られましたのね? お師匠様」

「わしは、彼女の涙に報いただけじゃ。煩いぞ、お前たち」

「はいはい」

「昔は当たり前の行為だったんじゃがのう。旅行く者には無事を祈る加護を与え、種まきの時には豊穣の加護を与える。妊婦には安産の加護を、子供や老人には疫病除けのまじないを。わしらはそうやって人と自然の境目に生きていたかっただけじゃ。今ではもう覚えておる者はおるまいな」

「確かに、まじないも加護もいまではすっかり廃れてしまいました。代わりに魔法を込めた札は売れてますけど、大した力はありません」

「加護は自然からの贈り物であるゆえ、対価を必要とせんのにのう。……まあ、今更言ってもしかたがあるまい。以来、魔女は人と交わらぬように過ごしてきた。古い魔女の中には、人から迫害を受けながらもやはり人のそばで人のために暮らしたいと思う者はまだ若干おる。わしのように森にこもった者のほうが多いがの」

「あら、そんなことをおっしゃってよろしいんですの? お師匠様。お師匠様だって、特製の薬を近くの村に無償で与えていらっしゃいますでしょ?」

「あれは……契約の対価じゃ。買い物に行くのが面倒で、運んでもらう約束での。ただそれだけじゃ」


 そう答えて魔女は年若き弟子を睨みつける。


「はいはい、そうでしたわね」


 そう言いながらもアーシャはくすくす笑いをやめない。


「話を元にもどすぞい。……あの魔女討伐以来、人も魔女を恐れ、接触しないようになった。魔女討伐が間違っていたことを認めたのはそれからしばらく経って、王が替わってからだったかのう。人との関わりを断った魔女をわざわざ探し出してまで討伐する意義を認めなかったんじゃ。無駄なコストもかかる。わしら魔女も逃げ続けることに疲弊しておった。人に危害を加えないことを条件に、魔女討伐をやめてもいい、と王が言い出し、当時の魔女たちは了承した。それからは穏やかに生きて来れた。無論、魔女の派閥争いなどはあったが、血を流すほどの争いがなくなったのじゃ。それでわしらはよかったんじゃよ」


 魔女の言葉が切れる。アーシャは腰を上げた。


「スープのおかわりはいかが? 少し温め直してきますわね」


 彼女が席を外し、クロードとキャリーも肩の力を抜いてソファに深く座り直した。気が付かないうちに体ががちがちにこわばっていた。


「お師匠様……メイア、ローサ、マリューの呪いを弾き返すにはどれくらいの魔力が必要でしょうか」

「そうじゃのう。皆若いといえば若い魔女じゃが、力は各派閥のトップに押し上げられる程じゃ。それほど楽に跳ね返せるものではないぞ」

「ですが、三人のリップ痕が必要だったんですよね? マリオン殿下の魔力と生命力を吸い上げるのに」

「それは……どうじゃろうのう。三人で均等に分ける、という取り決めになっておるのやもしれぬ」

「三人で均等、となると呪いの力も三分の一ということにはなりませんか?」

「ふむ。……それは一理ある」


 クロードは身を乗り出した。


「ならば、マリオン殿下の魔力量以上であれば跳ね返すのは可能になる。……試す価値はありそうです」

「……だからあきちゃんを連れて来られたんですね?」


 キャリーの言葉にクロードはうなずいた。


「今の俺では足りないからね」

「お前は――器だけは大きいのに、貯まる魔力量が十分の一で制限され、残りは図書館に流れておるからのう」

「ええ、それがお師匠様との取り決めでしたから。そういえば……リップ痕を他人に移すということはできるんでしょうか」


 魔女は鋭い視線を弟子に向けた。


「お前……何を考えておる」

「何も。――お師匠様の想像したとおりです。四人目の魔女が見つからなければ、そうする以外ありません」


 キャリーは二人のやり取りと雰囲気に息を呑んだ。

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