二十の掟 過去は巻き戻せません
20160818 全体的に手を入れています。また、「呪われた姫と魔女の弟子」にあわせて変更しています。
彼女が生まれた時、大きな星が現れたと記録にある。
魔法使いたちはこぞって伝説の始祖ミストルティの再来と持て囃した。
とある魔女がそれを聞いて彼女に呪詛を仕掛けた。
彼女が十五歳になった時、城で命を落とす、と。
国中の魔法使いたちは魔女の呪詛を解こうと必死で研究を進め、技術を研鑽した。
時には魔女狩りを行い、彼女に呪詛をかけた人物を探そうとした。
だが、時は無駄に流れ去る。
強大な魔力の器を持った彼女は精霊と契約を交わし、土が水を吸い上げるがごとくその知識と技術を自分のものとした。
十歳の祝いを迎えた時、祝の最中に件の魔女が姿を表した。
死の予告をされた彼女に、王と王妃は非常に心を痛めた。
そこで、とある魔術師がひとつの提案をする。
曰く――誕生日のその日に城にいなければ、その予告が現実になることはない、と。
だが、王も王妃もそれには反対した。
王族の中でも飛び抜けて高い力を持つ彼女を、城の外に出すのは危険だ、と。
すでにその時には彼女は城の守りの一部を任されてもいた。
だからこそ、王と王妃は彼女を手放せなかった。
城を離れるのは逃げるのと同じ、敗北と同じだと受け入れなかった。
彼女の次に生まれた姫は普通の人よりは大きな器を持っていたが、王族の中では劣っていた。
その次に生まれた王子は、男性の中では王族で最も大きな器を持って生まれた。故に、第五王子でありながら、かれは次期国王の最有力候補となった。
いかに力の器が大きくても、女性は王になれない。
もし、王にふさわしい器を持つ王子が生まれなければ、最も器の大きい王女に婿を取らせ、生まれた王子を即位させる。
――それが、この国の掟であった。
彼が生まれた時、彼女は安堵したという。
これで自分は魔術師として身を立てていける、城を出ていける、と。
だから、十三歳の祝が終わってすぐ、彼女はとある魔術師に命令した。
――私を城から連れ出して、と。
◇◇◇◇
「細かいことはお師匠様もご存知でしょう」
クロードはそう言い、唇を閉じた。
魔女ミストは目を閉じ、頷いた。
「あれは五年前だったかねえ。……王女を誘拐した宮廷魔術師が捕縛され、罰を与えられて放逐されたのは。……戻ったお前の姿はまるで違っていた」
「ええ、罰を食らってこの姿になりました。力も減りましたし、魔力紋も変えられましたからね」
「そして、あの図書館を作った」
「黒猫図書館を……?」
キャリーの言葉に魔女は目を開けた。
「魔女たちに見つからないように彼女を隠すためにの。そのために三年もかかった」
「そういえば、あの図書館で働くには、魔力を持っていてはだめだとおっしゃっていましたね。……どういうことなんです?」
「あれは……俺と彼女にのみ課せられた枷だよ。キャリー嬢、君も知っているように、魔力は使っても休めば戻る。魔力の上限が十分の一になっても器の大きさは変わらない。俺と彼女の魔力全てを黒猫図書館の維持に回しているんだ。だから、俺も彼女も魔法は使えない。図書館の中でのみ使える魔法の源も俺たちの魔力だ」
キャリーは目を見開いた。
「そんな魔法……聞いたことがありません」
「そりゃそうじゃろうの。魔女のわしが作ったんじゃからの。だから、魔術師の使う魔法とは相性が悪い。お嬢ちゃんも身を持って知っておろうがの」
ペナルティで縮んだキャリーを見て老婆は笑う。
「そうでしたか……」
恥ずかしさで頬を赤らめながらもキャリーは頷いた。
「では、あきちゃんは……」
「記憶を封印し、魔力を封印し、姿を十三歳のままにとどめ、私のそばに置いて監視する。……これが、彼女が望んだ内容でした。これならば、彼女はいつまで経っても十五歳の誕生日を迎えないで済む」




