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二の掟 館内で魔法はご法度です!

さて、今日は何が起こるのでしょう……?


20160814) 全体的に手を入れています

 さて、みんなで朝ごはん食べてる間に黒猫図書館について少しだけおさらいしておきますね。

 図書館と名乗ってますから、もちろん本がいっぱい収蔵されてます。三階までが開架書庫、四階と五階が閉架書庫……ってさっき言いましたっけ。

 受付はまりーさん。本の貸出と予約はおまかせです。本を元の場所に戻したり新しい本を配置したりするのは力持ちエディさんにおまかせ。

 タマさんはシェフ……ってゆっちゃうと図書館と関係なくみえますが、タマさんは実は副館長なのです。クロ館長がいない時とかは代理をしてくださいます。でも、タマさんはエプロンが一番似合うと思います。かわいい花柄のエプロンで鼻歌歌いながら機嫌よさそうに料理するタマさん、かわいいんですよー?

 クロさんはもちろん館長です。ええと、館長のお仕事は……いろいろありすぎて一言で言えないのですが、ちゃんとしてくださいます。調査依頼とか本の回収依頼とかいっぱい来るし、本の探索とかにも行くんですよー。

 黒猫図書館だから館長がクロさんなのかって?

 うふふ、そこはないしょですー。……ってこのあいだまりーさんに言われました。

 ワタシも知らないのです。でもなんとなくそんな気がしますよね?

 あ、ワタシですか~?

 ワタシは雑用係です。看板出したり、カウンター拭いたり、窓拭いたり、エディさんのお手伝いで本運んだり。お皿は洗うのがヘタクソなので、お手伝いできないのが悔しいです。前にやったら半分以上、粉々になりました……。

 えっと、見習いとして雇われてからあんまり長くないんですが、雇ってくれた人はクロ館長じゃないのです。

 クロ館長も雇われ館長さんみたいです。オーナーさんは別にいるんだそうです。ワタシは会ったことない……と思います。

 気がついたら黒猫図書館に雇われてたっていうか、働くことが決まってたっていうか……。そのあたり、よく覚えてないです。子供だからすぐ忘れるんだってよくからかわれます。ぷんぷん。


 ◇◇◇◇


 えっと、何の話してましたっけ?

 そうそう、図書館の業務の話でした。

 朝ごはんが終わり、バンさんも帰ってしまうと、今日の業務の話がクロ館長からあります。何もない日もあります。でも、たいてい何かあるんですよねー。


「今日は、北の森の土砂崩れ現場で本の発掘。エディーさんとあきちゃん、ついてきて」

「はい」

「おう。じゃあまりーさん、図書館のほうはよろしく。返却された本は帰ってきてから処理するから置いといて」

「はーい。おまかせされました」

「タマさん、館長代理、頼みます」

「まかしとき」


 というわけで、今日は発掘業務です。まりーさんとタマさんがお留守番。まあ、この二人さえいれば、喫茶室も図書館も大丈夫ですから~。

 そうそう、説明するのを忘れてました。この世界、本って貴重品なのだそうです。

 地面からにょきっと出てるのが見つかって、発掘することもありますし、川にぷかぷか浮いてたこともありますし、空から落っこちてくることもあります。

 あ、もしかして地面からにょきっと出てるのって、空から落っこちたのが地面にめり込んだのかな。

 不思議なことに、今まで見つかった本って同じ本が二冊ないんです。もしかしたらクロノ町以外の図書館には黒猫図書館にあるのと同じ本があるのかもしれないですが、他の町には行ったことがないのでわかりません。

 で、本がどれだけ貴重品かと言うと、去年だったかな。個人での所有が禁止になりました。『王国図書管理法』とかいう法律ができたからだそうです。

 あのときは大変だったんですよ~。

 それまでは、本は拾った人のもので、好きにできたんです。売ったり譲ったりも自由でしたし、本自体が財産扱いにされますから、嫁入り道具だったり借金の質になったりして。

 図書館としては一応、誰がどの本を持っているかとかの聞き込みしたり噂を頼りに調査したりして一覧を持ってたんですが、回収に行くと断られたり紛失してたり、他人に譲ったり売り飛ばしちゃってて転売先が不明だったりしてて、それはそれは大変でした……。

 で、ですね。

 実はその回収、まだ続いてるんです。

 というか、全然終わってないんです。

 今日はそのうちの一冊。北の森のはずれに住んでた人の持ってた本です。去年がけ崩れでおうちが流されちゃってそのままなんだそうです。

 回収を図書館に頼むと、回収にかかわる作業は図書館および王国が負担してくれるんですね。回収にかかわる作業というのは、おうちを掘り返したり、土砂を運び出したりするのも含まれるんですね。 

 だから、今回みたいにおうちが崩れたり流されちゃったりした人からの依頼は結構多いのです。


「準備は?」

「オッケー」

「じゃあ――」


 クロ館長の号令がかかる直前、ものすごい勢いで図書館の扉が開きました。

 開いた……ううん、ふっとばされました。

 すごい風が図書館に吹き込んできます。

 図書館の扉は木製の少し重たい両開きなんですが、二枚ともふっとんでいます。

 一体、何が起こったんでしょう?


「あら、ごめんなさい? 力の加減がわからなくて」


 黒い帽子とローブが見えます。三角にとがった……魔法使いの帽子です。なんだかふわふわ浮かんでて……ほうきに乗って飛んできたみたいです。


「クロッシュフォードの魔法定理の本、この図書館にあるって聞いて飛んできたんだけれど、あります?」


 ふわふわ。ちょうどワタシの視線のところにほうきの先があります。見上げると、まりーさんぐらいの年齢の女の人です。かわいいというよりきれいな人です。くるくる金髪にぼんきゅっぼんです。うわーん。


「困りますねぇ。降りてもらえませんかね?」


 クロ館長が言うと、その魔法使いさんは首をかしげました。


「なんで? 魔法使いがほうきに乗って飛ぶのは当たり前でしょ?」

「それと扉も。直すのは大変なんですよ?」


 あー、こりゃ一日かかるなぁ、とエディさんがつぶやいてるのが聞こえます。今日の発掘業務は取り止めになりそうです。


「だからごめんなさいって言ったじゃない」


 なんだか高飛車です。まりーさんはこんな言い方、しません。なんかムカッとします。

 ほうきの周りに風がぐるぐる渦巻いてるので、髪の毛もスカートもひらひらふわふわです。押さえておかないとエプロンドレスもめくれちゃいそうです。


「よそは知りませんが、うちでは禁止です」


 クロ館長の声がひくーくなってきます。ちょっと怒ってます。ひげがぴりぴり震えてますもん。


「あきちゃん」

「はいっ」


 呼ばれると思ってましたっ!

 エプロンドレスのポケットから手帳を引っ張り出します。アレです。ページをめくって……。うわーん、エプロンドレスがめくれますぅっ!

 片手で押さえながら、ページをめくります。


「黒猫図書館の掟そのに。館内での魔法はご法度です!」


 とたんに風が止みました。支えを失って、魔法使いのおねーさん、落ちました。


「きゃぁっ! ……痛ぁい~」


 ほうきごと落っこちました。黒猫図書館の掟はすごいのです。えっへん。


 ◇◇◇◇


「ごめんなさい……」


 帽子を脱いで魔法使いのおねーさんはクロ館長とエディさんに謝っています。エディさん、とんてんかんはじめました。やっぱり今日のお出かけは中止です。

 おねーさんの名前はキャリーと言うそうです。


「クロッシュフォードの魔法定理の本が手に入ると思ったらつい興奮しちゃって。ほんとごめんなさい。でも、わたくしも痛かったのよ」

と、キッとワタシをにらみます。ワタシはおろおろするしかありません。


 だって、ワタシがやったわけではなく、掟ですから睨まれても謝りませんっ。痛そうなのは申し訳ないけど。


「掟は掟ですから。次回は歩いてお入りください」


 クロ館長がかばってくれました。やさしいです、館長。お耳さわらせてください~。


「まあまあ、とりあえずお茶にしませんかー? うちのお茶、おいしいわよー」


 にこやかにまりーさんがお茶を配って回ります。キャリーさんに渡した時、二人の間に火花が散ったように見えました。気のせいでしょうかー?


「受付はあちらへどうぞー。当館のご利用は初めてですかー? なら利用カード発行しますねー」


 まりーさん、にこやかーに笑いつつキャリーさんを受付に案内していきます。でも、なんか目が笑ってませんよね? 気のせいでしょうか。

 しかも、普段は襟元まできっちりボタン留めてるのに、三番目のボタンまで開けてます。谷間、見えてますよう~。


「でも、貸し出ししかできませんよ?」

「ええ、知ってるわ。魔法で複製するのよ」

「あのー、本を複製した場合、複製本も個人所有はできなくなるんですがー、ご存知ですよねー?」


 まりーさん、ちょっと困り顔。


「ええっ! なにそれっ」


 そうなのです。複製本も王国所有物扱いになるんですねー。

 しかも、なぜかは知らないけれど、複製本は必ずどこかに行ってしまう――行方不明になってしまうのです。この図書館に同じ本は二冊いらない、ということなのかもしれませんが、不思議です。


「そんな……じゃあ、いままでわたくしが必死で探して、複製魔法まで覚えて、全部無駄……?」


 キャリーさん、がっくりと肩をおとします。魔法の習得はどれぐらい大変なのかわからないのですが、こんなに落ち込んでるということは、きっとすごく大変だったんだろうなぁと思います。


「まあまあ、落ち着いて。そろそろお昼時だけど、ランチ食べて行きなさい」

と、タマさんは元気づけるようにぽんぽんと肩を叩きます。


「キャリーさん、あの……」


 話しかけようとしたワタシをクロ館長がさえぎります。なんで? ワタシが言おうとしたこと、わかったのかしら?


「じゃあ、我々もランチにしよう。エディさん、休憩してください」

「分かりました」


 エディさんもとんてんかんをやめて、喫茶室にやってきます。玄関の扉がなくて、ぽっかり開いたままなのがちょっとアレですけど。

 今日のお昼はパスタです。玉ねぎとパプリカ、ベーコン入りのトマトソースパスタ。絶品ですぅ。

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