十五の掟 ペナルティの解除には館長の許可が必要です
20160818 全体的に手を入れています。
「ちょっと、出してってばっ!」
部屋に押し込められてキャリーは扉をこじ開けようと力を込めた。だが、図書館のペナルティで縮んだ体では、取っ手に手をかけることすら大変な作業だ。
「お嬢様……お諦めください。ここはフィリップ様の力で封じられております。今のお嬢様の力では開けることは叶いません」
後ろに控えていた侍女頭が眉をひそめて語りかける。
「マーサ、あなたも手伝いなさい! あの方を捕らえるだなんて、わたくしが許しません! あの方はわたくしがようやく見つけてこちらにおいで願った方なのです! あの方こそがマリオン殿下の救いの手なのですっ!」
「落ち着いてくださいませ、お嬢様。フィリップ様は全て弁えておいでです。クロード様を蔑ろにするようなことは決してなさいません」
「だとしてもっ、あんな連行の仕方……あんまりじゃないのっ! まるで犯罪者扱いして……」
「仕方が御座いません……」
マーサは足元に手を落とし、つぶやいた。
「あのお方は……王族をかどわかした罪人でございますれば」
「マーサっ!」
キャリーは言葉を遮った。
「あなたまで……そんなことを言うのですか! あんな流言を信じるのですかっ!」
「どうぞ、落ち着いてくださいまし、お嬢様」
マーサは扉の前で激昂するキャリーの前に膝をつき、視線の高さを合わせた。
「――クロード様が何の理由もなくそのようなことをするとはわたくしも思っておりません」
「えっ……」
キャリーの瞳が見開かれる。
「五年前のことはわたくしも存じております。だからこそ――クロード様とフィリップ様をどうぞ信じてあげてくださいまし、お嬢様」
「マーサ……」
「どうぞ落ち着いてくださいませ、お嬢様」
マーサはキャリーをやんわりと抱きしめた。顔を上げたキャリーは、侍女の頬に伝う涙に言葉を飲み込んだ。
「……ごめんなさい、マーサ。あなたに当たり散らしてしまって……」
「いいんですのよ、お嬢様。さ、少しおちついたところで、お茶でもお淹れいたしましょうね」
涙を拭い、にっこりと微笑むと、マーサはキャリーをソファに座らせ、お茶の準備を始めた。
紅茶のいい香りが部屋に広がってくる。ティーカップに口をつけて、キャリーはぬくもりが体に染みこんで行くのを感じる。
マーサはソファの横に立ち、キャリーの頭をそっとなでた。
「……こんなに縮んでしまわれて……この姿変えの魔法を解いてしまいませんと。魔術師を呼んで参ります」
「マーサ、これは無理なのよ」
部屋を出ようとするマーサの手をキャリーは引き止めた。
「これは、物知らずなわたくしが、クロード様の管理する図書館の掟を破ってしまった罰なのです。館長でなければ解除できません」
「なんてこと……」
苦しそうにため息を漏らすマーサに、キャリーは顔を上げた。
「わたくしのことはいいのです。それより、マリオン殿下の十三歳の誕生日までもう時間がないのです。わたくしをお兄様のところへ連れて行って下さい。わたくしも曲がりなりにも王宮付きの魔術師。こんな姿でもやるべきことはやります」
マーサは一瞬びっくりしたように目を見開いたのち、嬉しそうに目を細めた。
「……すっかり大人におなりですねえ、お嬢様。わかりました、フィリップ様にお伺いして参ります。ここでもうしばらくお待ちくださいませ」
そう言ってマーサは出て行った。
キャリーはその背中を見送って、ため息をついた。