十の掟 記憶喪失はペナルティの一つです。
20160814)全体的に手を入れています
目をまん丸くしてキャリーさんがこっちを見てます。
「記憶喪失……ですか」
ワタシはうなずきます。実のところ、目がさめたらこの姿で図書館のとある椅子に座ってたんですよね。
それより前の記憶は、ワタシにはありません。だから、アキラ・トールという名前も全然馴染みがないんです。あきちゃんと呼ばれる方がしっくりきます。
「じゃあ、歳や出身、ご両親のことも一切……?」
「はい。でも、それでも不幸だと思ったことはないんです」
これは本当なんです。不思議なんですけど、ワタシにはクロさんもタマさんも、まりーさんもエディさんもいますから、幸せです。
「じゃあ、その姿も……わたくしと同じペナルティなんですの?」
キャリーさんはクロさんの方を振り返りました。が、クロさん、首を縦にも横にも振りません。
「……そうなんですのね」
ワタシにはわかりません。でも、多分本当なのでしょう。ワタシは図書館の掟によってペナルティを食らっているのだと思います。
キャリーさんがワタシと同じサイズに縮んだのを見て、気にはなっていたんです。なんで、同じサイズのエプロンドレスがキャリーさんに着られるのだろうって。
だから――さらにペナルティを食うことになるって言ったんですよね、クロさん。
「全ては王都に行けば分かる。あきちゃんのことも、無関係じゃないから」
王都。なんだか懐かしい響きです。行ったことはないと思うんですが。
「では、あきちゃんに王国と王族の話をしておいたほうがよいですわね? クロード様」
「そうだね、あまり時間はないからさらっと流してもらえるかい?」
「分かりました」
キャリーさんはそう言うと、王国の講義を始めてくださいました。えっと……いきなり頭から煙が出そうです……。
◇◇◇◇
「とまあ、そういうわけで……」
王国の成り立ちから現在の王家の話まで講義してくださいました。……耳を傾けると王国の成り立ち辺りからぞろぞろこぼれそうです……。
「マリオン王子は現国王の五番目の王子にあたります。そのマリオン王子が、とある魔女の呪いを受けてしまったんです」