後日談
翌週の金曜日、帰りのホームルーム開始直後。
「それでは皆さんお待ちかねの、中間テスト個人成績表を返却しますね。呼ばれたら取りに来てね。安藤くん」
西脇先生からこんな連絡。テストの答案と同じように出席番号順だった。
「謙一殿ぉ、おいら、ビリはかろうじて回避出来たぜ」
結果を知り、貢は苦笑いする。二年次からはクラス毎にテストの科目、問題が異なるため学年順位ではなく理系特進地理選択の二クラス七九人中での順位が掲載されていた。
貢は全科目平均点を大幅に下回り、理系特進地理選択クラス順位は七四位。
「貢、ちょっとの油断ですぐにビリになりそうな順位だな。俺は五二位、総合初めて平均下回っちゃったよ。やっぱ理系特進クラスは周りのやつのレベル高いよな。期末はもっと勉強頑張らないと」
謙一の決意。
「ホッ」
久晃は受け取った瞬間、満足顔でこう呟いた。彼の総合得点は一〇〇〇点満点中九九五点。またもトップの座を保てたのであった。
「久晃殿、やはり理系トップかぁ」
貢は当然のごとく、一科目も久晃に勝つことは出来なかったわけである。
「でも、理系二位のお方は一組の子で九九二点だったようで、この高校のレベルの高さを実感しました。油断するとトップの座を奪われてしまいそうで怖いですぅ」
「贅沢な悩みだな、久晃殿。この天才的頭脳を吸収しなくては」
「いててて、大井川君。真の天才的頭脳を吸収したいのならば、JR住吉駅前まで行って灘高生でも狙いたまえええええ」
「貢、止めてやれ。久晃、次もトップ維持目指して頑張れよ」
「はぃぃぃ。ボク、頑張りますよん」
「それと、今度の記述模試では、智穂に勝ってみせてくれ」
「それは天地がひっくり返っても無理でございますよん」
男子三人が楽しそうにこんな会話を弾ませているうちに、女子の分が返却されていく。
(思ったより良かった。すごく嬉しい)
伸英は受け取った瞬間、満面の笑みを浮かべた。一八位だったのだ。
(やっぱり久晃さんに勝てなかったかぁ)
真優子はとても悔しがる。九六六点で四位に終わった。
「ワタシ、双葉山の連勝記録と同じだったよ。一年の時、面談であなたの成績で理系に進んだらビリになるよって担任から再三言われたけど、下に十人もいて嬉しいよ。マユコちゃんがワタシに厳しくも優しく指導してくれたおかげだね。喜三郎が分かり易く解説してくれたことも相乗効果になったよ」
歩未は六九位。さっそく真優子に報告しにいった。
「その程度で満足しちゃダメでしょ。期末ではせめて真ん中くらいまでは昇進させなきゃ」
真優子はあえて辛口コメントし、歩未のやる気を引き立たせたのであった。
淳和台高校理系特進クラスで成績真ん中付近なら岡山大、広島大クラスの中堅国立大現役合格を狙える目安とされている。謙一はこの領域にまだあと一歩及ばずだ。
京大現役合格を狙うには、理系特進クラスで成績上位一割以内に入っておくことが目安とされている。伸英はまだその領域には達していないが、これからの頑張り次第でじゅうぶん入り込めるというわけである。
※
「ぅおーい、謙一ぃ。つい三〇分ほど前、智穂ちゃんからおまえ宛に荷物が届いたぞぅ」
その日の夕方、謙一が帰宅すると秀樹爺ちゃんから伝えられる。下駄箱の上に、謙一宛で【品名:役に立つ本】と書かれたラベルの貼られた段ボール箱が置かれてあった。
「智穂のやつ、いったいどんな本を贈って来たんだ。重たっ」
謙一は持ち上げるとずっしりと来たそれをリビングへ運び入れると床の上にそっと置き、ガムテープを解く。
中には現代文、古文・漢文、地理、数学、化学、物理、生物、英語の五教科八科目分のテキスト冊子、それぞれ一冊ずつの計八冊が詰められてあった。どの科目もサイズは同じでA4用紙くらい。厚みは四センチから五センチほどもあり、謙一が学校で使っている教科書よりも分厚かった。紙質もけっこう良かった。
さらに長形3号の白封筒が数十枚と、お手紙も一枚入っていた。
お手紙には、
【謙一お兄ちゃんへ。謙一お兄ちゃんが京大に合格出来る学力が身につくように、あたしオリジナルの学習教材を作ったよ。先生にも協力はしてもらったけどね。(^_^)v 中にある演習問題を解いたら、点線に沿って切り離して三つ折にして封筒に入れて、あたし宛に返送してね。あたしが丹精込めて懇切丁寧に手書きで添削して、謙一お兄ちゃんの元へ送り返すから。楽しみに待ってるよ♪】
と、丸っこくかわいらしい文字で縦書きに書かれていた。
「良かったな謙一、智穂ちゃんがこんなにも親切に愛情込めて遠距離通信教育指導してくれるのじゃから、しっかり勉強に励んで京大現役合格を果たし、智穂ちゃんの期待に応えてやるのじゃぞ」
にこやかな表情の秀樹爺ちゃんに肩をポンポンッと叩かれる。
「きちんと色分けされて要点がきれいにまとめられていて、解説も伸英ちゃんのノート並に分かりやすいな。まあ、智穂がここまで俺のためにしてくれるんなら、俺も京大目指して頑張ってみるかな」
謙一はテキストをパラパラッと捲りながら苦笑顔で宣言する。
けれども彼は心の中では、《べつに京大に拘る必要なんてないよな、国公立のどこかに引っかかればじゅうぶんだろ》と智穂と秀樹爺ちゃんの期待を裏切り現時点では思っていたのであった。
(了)




