一日目
どうも、のんた丸というものです!
この度、このサイトで初めて小説を書きます。
小説は本当に初心者なので、至らぬ点ばかりですが、どうか見ていただけると嬉しい限りです^_^
指摘はどうぞどしどしと、中傷はやめて下さいね( ̄^ ̄)ゞ
のどかな春の日差しが心地よい春の日。
花々も色を付け、風が暖かさを孕み始めたそんな時期に始まりを告げる物語。
世界の中心、バルディア大陸北東部の都市、ハミドから離れた郊外にぽつりと、しかし堂々と設けられている大きな館。
名門、クインハルト家の誇りとも言えるその館は殺風景な荒野の丘の上に存在し、そのため、世間からは離れてその歴史を変遷して来た。
そこで一人の執事として、二年前に勤め出した金髪の柄の悪い青年、ネルヴィ・ハーレンスは困惑していた。
「おい、嘘だろう…?」
何故ここまでネルヴィは落ち込んでいるのか、それには一つの理由があった。
クインハルト家に代々伝わる少し変わった伝統儀式(?)のせいである。
「ある一定の年齢に達した継子は、執事同伴の元、社会勉強の為に世界旅行をする事を義務付ける」
という、「可愛い子には旅をさせろ」という言葉をそのまま表したようなこの行事。
ネルヴィ・ハーレンスに、その同伴の使命が与えられた事はもう、言わずもがなであろう。
「なーんで、新米ペーペーの俺にこんな重大な仕事を押し付けんのかねぇ」
誰もいない、館の中の小さな個室の中。ネルヴィはただただ煙草をふかし、愚痴を垂れ込んでいた。
まだここに来てたったの二年。現在二十歳。本当に、まだ何も出来ないようながきんちょも同然だというのに。
「あーー、あたりたくもなるっつーの!!」
ガン!と 近くの机を蹴飛ばす。
机の上のグラスが音を立てて倒れた。彼は今、相当にイラついている。絶大な期待を一身に受けたプレッシャー、不安、混乱などが一つにまとまり今の感情を形成していた。
途端、背後に気配を感じ緊張が走る。
「あらあら、荒れてるわねぇ」
振り返るとそこには、クインハルト家のメイド長ルンティ・メノレンスが壁に寄りかかるようにして佇んでいた。落ち着いた端正な顔立ちでニコリと笑っているものの、その額には僅かに青筋が立っている。
一方のネルヴィはというと、突然背後に気配も無く現れたルンティに度肝を抜かし、顔面蒼白になりながら顔を汗まみれにして言い訳を考えていた。
ネルヴィは、昔この館に来たばかりの時、血の気が多く辺り構わず威嚇していた危険人物だったのだが、ルンティにコテンパンにやられ、それ以来このメイド長に頭が上がらない。
「あの……、け、決して僕は、やりたくないとかそんなんでは無くてですね、はい…」
「まあまあ、確かにプレッシャーを感じることはあるかもしれないわね。でも、決まったからには最後までやり遂げなきゃ。こういうのは信頼されるような人にしか任されない。つまりは、貴方信用されてるのよ、誇りに思いなさい」
静かに、そして重くその言葉はネルヴィの胸にのしかかった。
話している最中、ルンティの顔は徐々に真剣に、しかし優しい聖母の様なものになっていった。
部屋の中の雰囲気が、少しだけ柔らかくなった。
「ルンティさん、そういや何か用っすか?」
ネルヴィが思い出したように問い出す。
「あぁ、そうそうご主人様が呼んでるわよ」
ルンティは親指をくっと突きたて、それを背後のドアへ指した。
行け、という事だろうか。
ネルヴィは大きく一回驚いた様に体を伸ばし、それから一つ大きなため息をつき、主人の部屋へ向かう。
三階建ての豪邸。
その二階の廊下突き当たりにあったのが、先程ネルヴィ達がいた部屋。
そこから一階に下り、シャンデリアの連なる正面玄関に存在するまるで大きな絵画の様な扉。
どこかの画家にでも依頼したのだろうか、目を見張る程素晴らしい絵が扉に描かれている。扉を両断するように入り口の線があり、左に天使、右に悪魔の絵がある。
「相変わらず煌びやかな趣味してんなぁ、マスター様は」
執事ネルヴィは扉の前に佇み、感嘆の声をあげていた。
これまでも何度かこの扉の前に立つ事はあった、しかし何度見ても慣れない。初めに見た時には息を呑み、声が震えていたのをネルヴィは覚えている。
ドアを叩く。
耳をすませば、屋敷全体に静かに染み渡るように響くノックの音はどこか不気味だ。
そしてすぐに、
「入りなさい」
中からしがれた声が聞こえた。
その声に呼応するように扉が一人でに開く。正確には扉の内側に控えていた二人のメイドの手により開かれたのだ。
ネルヴィが部屋に入ると、表の華麗な絵画のイメージとは一転。そこに広がっていたのは中世の城内を思わせる様な、涼しげな、そして質素な空間だった。
「よく、来てくれたねネルヴィ・ハーレンス」
声の主は、古風なアンティークの椅子に腰掛け、散らかった机に肘をつき雄と構えていた。
ツヴィンクス・クインハルト。
クインハルト家の第十九代目当主にして、ネルヴィの主人。
白く長く伸ばしたその髪と髭はどこかの老師を彷彿とさせる。
年齢は八十七歳であるが、まだまだ元気だ。
ツヴィンクスのすぐ後ろに置かれている傷だらけの立派な鎧は、彼が兵役時代に愛用していたもの。本人の顔にも歴戦を思わせる無数の傷がある。
「ここに呼び出されたって事は、いよいよですか」
ネルヴィが口火を切る。彼は先程個室で見せた苛立ちの様子は一切見せない。ルンティの諭しのおかげだ。
「うむ、今回君に任せるのは私の息子の娘、つまり私の孫娘にあたる」
そう話すツヴィンクスの表情は何処か優しげな、そして嬉しげなものだった。
大事なのだろう。とても可愛い孫娘なのだろう。慈愛の念がひしひしと伝わってくる。
一見微笑ましい事だが、自分はこれからそれをあらゆる危険から守らなければならない。
外に出れば、あらゆる脅威が待ち構えているだろう。
そこで、ネルヴィはずっと聞きたかった質問を投げかける。
「その子の護衛、俺みたいな奴でいいんですか」
意を決して放ったその一言は、すぐに折られる事になる。
「私が選んだんだ、間違いはないさ」
ツヴィンクスは自信たっぷりのふやけた笑顔で、ネルヴィを見据えた。
その笑顔は優しく、そして失敗は許さないという厳しさも含まれていた。
再び、ネルヴィはプレッシャーに襲われる。
「今日、お前に会わせようとしたんだが……どこにいるか分からんのだ」
おい、と突っ込みたくなったネルヴィはもう少しで愉快に転げるところだった。
「そ、それって大丈夫なんですか?」
「うむ、あの子には三人の術師の護衛をつけておるからな」
術師、この世の法則に従い、与えられた恩恵の属性を操る者。その存在は、世界的には希少なものであるが、なぜかこの館には集中している。
かくゆうネルヴィもその一人、与えられた恩恵は炎、つまり炎術師。まだ若いが、実力は確かなものである。
「成る程、それなら大丈夫ですね」
「うむ、まぁ、あの子を見つけたら声をかけてやってくれ。あ、そうだ。あまりに可愛いからと、あの子に手を出したら君を殺さなければならなくなる」
「はっ!?」
ネルヴィは呆気にとられたが、ツヴィンクスはしてやったりといった顔で、
「なぁに、冗談さ。では、よろしく頼むよ」
歳に似合わぬ無邪気な笑顔でネルヴィを送り出すツヴィンクス、とんだ狸じじいだ。
ネルヴィは、顔を顰めながらその場を去った。
「何なんだよあの人……」
前々から少し思っていたが、やはり主人ツヴィンクスは変人である。
扉を絵画にしてみたり、執事をからかったり、果てには、
「こんなに食えねぇよ………」
大量のお菓子。本人曰く「自分一人では食べ切れない」から、らしい。
そんなもの、こっちだって一緒だ。
「重い重い重い、とりあえず部屋に……」
後ろの方から賑やかな声がする。件のお嬢様でも帰ってきたのだろうか。
声が近づく。一人だろうか、高い声が鼓膜に響く。
声がすぐ後ろまで迫る。ネルヴィが振り向こうとした瞬間。
お菓子達が、愉快に宙を舞った。
「いったたたたた〜〜」
ネルヴィに突進してきた声の主は頭を押さえ、小さく蹲っている。
ネルヴィ自身も、突然の事に尻餅をつき何が起こったのか状況整理をしていた。
周りには、先程飛んだお菓子が乱雑に散らばっている。
「もー!ちゃんと前見てよスカポンタン!!!」
声の主は少女。腰まで伸びた銀色の綺麗な髪、幼くも何処か凛々しさも垣間見える整った白い顔立ち。そしてこれまた純白のドレスを身に纏い、少女は限りなく白かった。
「ご、ごめん…じゃなくて!!何で俺が謝らなくちゃいけねーんだよ!!!」
「なっ…、貴方がちゃんと私を避けないからでしょ!!」
「はぁ!?ふざっけんなよ!!いきなり後ろから来られて避けれるか!!しかも俺いっぱい荷物持ってたんだよ!!!」
ネルヴィと銀髪の少女が口喧嘩をしている最中、野次馬が周りに集まってきた。
そして、やがてネルヴィの耳に衝撃的な言葉が飛び込んだ。
「あの若執事、ミーチェお嬢様と喧嘩してらぁ、こりゃ厳罰処置だな」
ネルヴィは、脳天を思い切りハンマーで殴られたかのような重い感覚に陥る。
「………………え?」
そして、タイミング良くメイド達に道を開けられて、クインハルト家のメイド長、ルンティ・メノレンスが参上した。
「あらあら、ネルヴィ君、そのお方に対して限りなく無礼行為をしているのね、すっごい度胸……惚れちゃうかも」
ネルヴィは動けない、答えられない。
自分が、何をしてしまったのかわかってしまったからだ。そして、静かに、再び、銀髪の少女に目を向ける。
少女は、勝ち誇った顔でこちらを見下している。
追い打ちをかけるように、ルンティは残酷な真実を語り出す。
「そのお方、ツヴィンクス様の孫娘、ミーチェ・クインハルトお嬢様よ」