異世界の港町で、ラーメン屋を開いたら・・・
異世界で、ラーメン屋を開いたら・・・・
そんな思い付きから生まれた駄文です
「 ほい、味噌ラーメンあがったよ 」
「 おやっさん、塩ラーメン大盛りで頼む 」
「 はいよ 」
どこにでもある、ラーメン屋の風景。
しかし・・・違っているのは、ここが日本じゃあなくて
どこだかわからない
異世界
の
港町
だってこと。
俺が、こんな所でラーメン屋を開くことになったのは、突拍子もないことがきっかけだった。
大学の卒業間近に、内定していた就職先が業績不振だとかで内定を取り消されて。
それまでバイトしていたラーメン屋の店長の口利きで、そのラーメン屋 ( チェーン店形式のラーメン屋 ) に正社員として雇ってもらったのが5年前。
そこで料理を覚えて、なんとか店長候補にまでなったんだけど・・・
ある日
つとめていたラーメン屋が、某デパートの なんとかフェア なんてのに出展することになって。
俺が期間限定で、出展先のラーメン屋を任されることになった。
で・・・
材料と道具一式を、大型のバンに積み込んで、そのデパートに出かけていく途中
やけに霧が濃いな・・・
って、思っていたら、気がつけば、この港町の町外れを、車は走っていた。
え?
何で異世界かわかったかって???
そりゃ、言葉はわかるものの、書いてある文字が全く読めなかったからね。
幸い、ラーメンの材料はしこたま積んでいたから、しばらくの間は食べることには困らなかった。
寝床も、バンの中で寝泊りしたから、これも不自由しなかった。
一番困ったのはトイレと水だけど・・・
それはそれ。
出会った人から、共同井戸の場所と公衆トイレの場所を教えてもらって、即座に解決した。
二日ほど経つうちに、俺は
料理が出来る
と言う事で、この町に駐在している海軍兵舎の料理人として雇われた。
芸は身を助ける
って、本当だよね。
最初は下働きだったけど・・・
とりあえず、衣食住には困らなくなったわけだ。
半年ほど経って。
ぼちぼちこの国の文字が、読めるようになった頃。
俺は、無性に
ラーメン
が、食べたくなった。
元々 ( チェーン店とは言えど ) ラーメン屋の従業員だからね。
港町だから、ラーメン屋くらいはあるだろうと思って、非番の日にあちこち探し回った。
けど・・・
なかった。
ラーメンだけでなく、
麺
と、言うものを食べる習慣自体が、この街にはなかった。
そこで俺は、仕事の合間にラーメンを作ってみることにした。
先ず、必要な麺。
この街には、小麦そのものはなかったけれど、麦の粉らしきものを使ったパンはあったから、兵舎のパン職人にお願いして、粉を分けてもらった。
麺つくりに必要な塩は、厨房に行けば簡単に手に入った。
スープ
にする具財も、港町だけあって、魚介類は沢山手に入れることができた。
( 見たこともないような、カラフルな色の魚や貝ばかりだったけど )
獣の骨もしかり。
兵員の料理を作るときに出た獣の骨を欲しいと言ったら、上司である料理長に頼めば、
「 どうせ捨てるもんだ。勝手に持ってけ 」
と、半ば呆れながら、許してくれた。
と、ここまではよかったんだよな。
問題は、この街には、スープの味付けに使う
醤油
が、なかった事だ。
勿論、味噌もない。
あちこち探し回った結果、何とか醤油の代わりになる
魚醤 ( 言ってみれば、東南アジアのナンプラーやヌクマムみたいなものね )
を、見つけることが出来たのだけど・・・
味噌となると、全くない。
こうなったら仕方がない。
自分で作るしかない。
兵員宿舎の厨房に、野菜を収めに来る業者に頼み込み、俺は
豆
らしきものを、手に入れることに成功した。
大豆なんて、この街にはないからね。
それと、これまた兵舎のパン職人に頭を下げて
パンを膨らませるのに使うパン種も、少しばかり分けてもらった。
やわらかく茹でた豆に、塩と、パン種から増やした麹的なものを混ぜて・・・
温度に気をつけながら寝かせて・・・
なんとか味噌らしきものが出来上がったのは、俺がこの街に来てから、3年が過ぎた頃だった。
麺にスープ
味噌に魚醤
薬味も、味噌を作っている間に、少しずつ研究して・・・
初めて作ったラーメンを、俺は料理長に食べてもらった。
反応は・・・
「 なんだこりゃ??? 」
そりゃ、当たり前だよね。
初めて
麺
なるものを食べたんだから。
同僚の料理人たちも、妙な顔をしていたけれど・・・
入隊したばかりの新人兵達は、美味しいと言って食べてくれた。
それから少しずつ・・・少しずつ・・・俺の作る
ラーメン
の噂は広がっていき・・・
8年目の去年。
俺は、港町の一角に、自分の店を出すことが出来た。
常連客もつき始めた。
弟子にしてくれ
と、言ってくる若者もいる。
俺は、いつまでこの町に・・・
異世界の港町にいられるかはわからないけれど・・・
ここにいる間は、この店を守って。
ラーメンを作り続けるつもりさ。