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泡沫の王女  作者: シキ
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4.睡眠は大切

こんにちは。マリアのワガママのせいで全然話がすすみません・・・。

ガタゴトガタゴト馬車が夜道を走っていると外から獰猛そうな獣の鳴き声が聞こえてきた。

馬車の中にある3人掛け用の椅子の上に横になっていたマリアは、その鳴き声を聞いて起き上がった。


「なんか、嫌な獣の鳴き声ねぇ。馬車が襲われたりしないか心配ですわ。」


椅子の下で膝を抱え小さくなっていたリアンは、伸ばし放題の前髪の隙間からマリアを覗きこむようにして見上げる。


「・・・大丈夫なんじゃない?ランディやドルの仲間もいるし。

 そんなに心配なら僕が馬車の外を見張ろうか?」


「別に心配はしていませんわ。ちょっと言ってみただけですもの。」


そう?とリアンは首を傾げる。


「でもまぁ、結局マリアのワガママは通っちゃうし、僕は僕らの行く末のが心配だよ。」

「あら?わたくしワガママなんて言いまして?」


ランディー達とリアンの挨拶が終わった後、マリアは自分の身体が弱いだのなんだのといって馬車を1台占領していた。占領といっても人数の都合上さすがにマリア一人とはいかない。マリアが横になるのに十分なスペースを確保するために馬車の中は、リアンとマリア以外が全て子供だった。


「本当は分かってるくせに。マリアはいいけど他の人に申し訳ないよ。

 そのうち敵意を向けられるようになっちゃうよ?」


そう言うとリアンは馬車の中を見まわした。

椅子の下には子供が3人、マリアと反対側の椅子の上に5人が座っていた。


「何を言ってるんですの?

 もともとリアンが財布さえなくさなければこんなことになっていないのですわよ。」


「う・・・。」


何も言えなくなるリアンにマリアは興味なさげに窓の方を見て言う。


「まぁ、いいですわ。それにしても、なんだか獣の鳴き声が近くなってきていませんこと?」


リアンは立ち上がると馬車にある2つの窓の1つから外の様子を見た。

耳を澄ますと、確かにさっきよりも近くなっている気がする。しかも数も多いような・・・。

どうやら馬車は森の中の道を進んでるようであり、窓からでは木々が立ち並んでいる様子しか見えない。森の奥の方は,馬車からの明かりも届かず暗闇が不気味だ。


「ここからだと獣の姿は見えないな。でも確かに近くから鳴き声が聞こえる。」


「まぁ、いいですわ。獣の10匹や100匹ならランディー達がどうにかするでしょう。

 むしろ襲われる危険性がある場所を選んで走ってるのだから、どうにかして頂けないと唯のバカですわね。」


「・・・だから助けてもらっておいて馬鹿とか言わないの。」


リアンは窓を閉めると元の場所に座った。馬車にある椅子を占領しているマリアは、身体を横たえながら言う。


「とりあえず、わたくしは眠いので寝ますわね。何かあっても起さないで頂戴。

 ああ、そういえばリアン。荷物の中から毛布を取ってくださらない?」


え?マリアの荷物の中に毛布なんて入ってたっけ?

疑問に思いながらも荷物の中を漁ると、確かに毛布が入っていた。

これって人売りのアジトにあったやつじゃないの?盗んだのか?



ガウッ!!ガウッ!!ガウッ!!ガルルゥ~!!



突然、獣の鳴き声がすぐ傍で聞こえた。次の瞬間には,急に馬車がとまり馬車の入り口が勢いよく開く。あまりの勢いに驚いて目をむけると、ドタバタとドルが馬車に入ってきて慌てて扉を閉めた。


「・・・一体どうしたんですの?」


マリアが声をかけると、そわそわと落ち着きがないドルが振り返った。顔は笑顔だったが若干ひきつっているようにも見える。


「みんな、少しの間だけ馬車の中で静かにしていてほしいんだ。」


それを聞いて馬車の中の子供たちが不安そうにドルを見上げた。マリアは体を起こして気だるそうに前髪をかき上げて言う。


「ドル、そんなに慌てて何があったんですの?」


「いや、大したことじゃないんだ。」


大したことがないと言ってる割には、落ち着きがない。その様子にマリアも気づいたようだ。


「大したことじゃない割には、随分と慌ててませんこと?」


「大丈夫だって!本当に大したことじゃないんだ。すぐに、また出発するから。」

 

そういうとドルは、扉に耳をつけた。どうやら外の音を拾おうとしているようだ。

リアンはその様子をみて、そんなことしなくても獣の声がさっきから煩いけど・・・と思っていたのだが。


「ねぇねぇ、ドル。そんなことしなくても外の音なら聞こえるけど・・・。

 さっきから獣の声がするし、もしかして馬車が獣に襲われてる?」


ドルがゆっくりとドアから耳を話して振りむいた。そして追い打ちを掛けるマリア。


「というか、確実に、疑いもなく、襲撃されてますわね。

 わたくし、なぜドルがそれを隠そうとしてるかのが理解不能ですわ。」


言われたドルは、大きな目を何度も瞬きしてマリアを穴があくかというほど見つめた。


「え?え?僕が隠した意味なかった?」


「ええ。まったくもって先ほどから獣の声が聞こえますわ。ねぇ、リアン?」


「え?あ、うん。そうだね。もしかしてランディーさんとか闘ってるの?」


外から獣の声に混じって、人の声らしきものも聞こえてくる。


「実は、そうなんだ。今、外は危険なんだよね。

 でもランディーの兄ちゃんたち強いから兄ちゃん達に任せれば大丈夫だよ!」


そう言ってドルは、固い笑みを浮かべた。


リアンは、そんなドルをみて襲撃されて緊張しているのかな・・・と思った。

しかし、よくよく考えてみればドルは危険な仕事も請け負う冒険者ギルドに所属している。それに、ドルのギルドランクはDランクだとドル自信が言っていた。Dランクと言えば、普通の獣なら然程苦労せずに倒せるレベルである。だがドルは戦わずに馬車の中に入ってきた。


その事実にリアンは、ハッとなった。馬車を襲っているのは、ただの獣ではないっ。

慌てて腰を上げようとしたが背後から聞こえたマリアの声に踏みとどまる。


「まぁ、ドルが大丈夫と言うのですし大丈夫なのでしょう。わたくし眠いので寝させて頂きますわ。」


そのまま横になって目をつぶるマリア。

ちょ、ちょっと、ちょっと!?馬車が襲われている中、寝るって・・・。

リアンは我が相棒ながら、予想外の行動に唖然としてしまった。

ドルも、さすがに寝てていいよとは言えないのだろう。え?え?とドルの方から声が聞こえてくる。


リアンは、相棒である僕がマリアと話した方がいいだろうなと思いドルに言った。


「ドル、馬車の中の子供たちが不安そうだから相手してあげてくれない?

 さすがに、この状況の中で眠るのは不測の事態が起きた時に大変だから、マリアに寝ないよう説得するから。」


ドルも今の危険な状況を思い出したのだろう。リアンがマリアを説得してくれるならと、肯定の返事をし怯えた表情をする子供達の方へ寄っていく。

それをリアンは確認するとマリアの耳元に座り小さな声で呼びかける。


「マリア、まだ寝てないんだろ?」


うっとうしそうにマリアは薄く目を開けた。


「なんですの?」


反応があった事を確認するとリアンは話の内容が子供達に聞こえないように顔をマリアの耳に近付ける。


「たぶん、魔獣に襲われてる。」


マリアは器用に片方の眉だけをあげ、続きを促した。


「鳴き声の数からして結構な数いると思うから、ランディーさん達だけだとキツイかもしれない。僕も外に行こうと思うからマリアは中で子供たちの様子を見てて」


そう言い立ち上がろうとするリアンの腕をマリアは掴んで引き留めた。


「お待ちなさい。ランディー達が解決するというのだから大人しく馬車の中にいればいいのですわ。」


引き留められたリアンは乱れた髪の間から覗きこむようにマリアをみた。

その瞳は、薄い水色のせいかランプがあたると湖面に光が反射するような神秘さがあった。


「でも僕は誰かが戦っている時に自分だけ、のんびりしてるなんてできないよ。

 馬車の中はマリアに頼んだから。寝ちゃだめだよ。」


そのリアンの言葉にマリアは、溜息をひとつつく。マリアの相棒であるリアンは,普段気が弱いように見えるが一度こうと決めると頑固なのだ。しょうがないですわね、とマリアは呟いた。

それを了承の合図だととったリアンは、よろしくねっと言いドアに向かう。しかしドアに手が届く事はなかった。


「リアン、どこへ行くつもりですの?外は危険ですわよ!!」


それは馬車の外にも聞こえるのではないかという大きな声だった。発生源はマリアである。どこへ行くつもりってさっき説明したじゃないかと、訝しげにリアンがマリアを振り向くと馬車の中の別の方から声が掛った。ドルだ。


「え?どうしたの?なんかあった?」


子供達に囲まれたドルにマリアは今にも泣きそうな表情を浮かべて言う。


「それがリアンが、ランディー達が心配だからって外へ行こうとしてるんですの。リアンなんかが行っても獣の餌にされてしまいますわ。」


餌という言葉に子供達がビクッと反応した。どうやら自分が喰われる所を想像したらしい。今にも泣きだしそうな子供の頭をよしよしと撫でながらドルが言う。


「ちょっと、姉ちゃん!ちっちゃい子を怖がらせるようなこと言わないで!

 それにリアン!外は危ないから兄ちゃん達に任せとけばいいの!そんな所に突っ立ってないで元の位置に座って座って!」


それに便乗するマリア。


「そうですわ、ランディー達に任せとけばいいのです。わたくし、あなたが怪我でもしたらと考えたら・・・うぅぅ~」


そう言ってマリアは毛布に顔を埋めて、泣き声を上げる。どこからどうみてもリアンには嘘泣きにしかみえない。だがドルは子供達から、ちょいとゴメンよっと言って離れるとマリアに近づいて今度はマリアの頭をよしよしと撫で始めた。


「姉ちゃん泣かないでよ~!リアンは外に行ったりしないから!ね?リアン行かないよね?それに、リアンが行くと馬車の中の子供達も心配して不安になるし。」


ランディー兄ちゃん達は強いし大丈夫だから!とドルに何度も言われ、リアン行かないで~と嘘泣きのマリアに泣きつかれ、結局リアンは元の位置に戻るしかなくなってしまった。しかし元の場所に座っても馬車の外から獣の声が聞こえてくる度に落ち着かない。そわそわとしているリアンにマリアが小声で囁く。


「リアンは、ここに座って馬車の中の様子を見ていればいいのですわ。そして私の睡眠を邪魔するものがいたら追い払って下さればいいの。それじゃあ、わたくしは寝ますわね。まったく寝るのが遅くなってしまったわ。」


それを聞いたリアンは、愕然とした。

僕を止めたのは心配してくれたからじゃないんだね・・・。マリアの睡眠を守るためなんだね・・・。


「いいですこと?決して、何があっても、起こさないでちょうだい。おやすみなさい。」

この言葉を最後にマリアから規則正しい寝息が聞こえ始めた。

泣きたいのはこっちだよ。リアンは、ぼそっと呟いたのだった。




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