表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泡沫の王女  作者: シキ
1/5

0.プロローグ

 ここは、とある国の王城。


「国王様~~~~!!大変です~~~!!!大変です~!!」


 豪華な部屋の執務机に座っていた国王は、いきなり開かれたドアへと顔を向けた。


「ん?そなたは・・・確か王女付きの侍女ではないか。こんな朝早くにどうしたのじゃ?」


 開かれた扉の前には、顔を真っ赤にして息を乱した20代半ばの女性。

この城の侍女の制服である黒いワンピースに白いエプロンを着け、ここまで走ってきたのか肩を激しく上下させていた。

頭の上でお団子にしている黒髪が乱れているが、気にした様子もない。


「国王様、大変な事が!!!」


 その様子に王の後ろにいた近衛の兵士が侍女に向かって一歩近づいたが、興奮した彼女の目には入らないようだ。

王は近衛兵に軽く片手をあげ、後ろに下がるように合図し侍女に訊ねた。


「何が大変なのだ。いってみよ。」


「それが大変なのです!どうすればよいのでしょうか!!」


 王は訝しげに太い眉をしかめると焦った様子もなく、ゆっくりと豊かな腹の上で指を組んで侍女を見上げた。


「だから、何が大変なのだ?」


「ですから姫様が大変なのです!早くお探ししないと・・・」


 これでは埒が明かない。

今まで様子を伺っていた近衛兵が王に許可をとり、侍女に近づいた。

 彼は落ち着かせるように彼女の肩に手をのせると、ぽんぽんっとその肩を軽く2、3度叩く。


「侍女殿、とりあえず落ち着いてください。」


「も、申し訳ありません。あのっ、あまりの出来事に取り乱してしまいまして。実は、実は・・・この手紙が姫様の部屋に置かれていたのです。」


 侍女は、震える手で1枚の用紙を王に手渡した。

くしゃくしゃになった紙を受け取った王は、すばやく内容を確認した後、溜息を1つ。


「なんという事じゃ。娘が・・・。」


 持っていた紙を机の上に置くと、一度目をつぶって侍女に再び目を向ける。


「他に何か手掛かりは残ってないのか?」


「はい。わたくしが朝の準備をしようと姫様の部屋に入室した時には、もう誰も部屋の中にはおりませんでした。

 姫様の机の上に、この手紙が置いてあっただけなのです。来月には隣国アルディストの王子との婚姻の儀があります。早く捜索隊を出して見つけ出さなくてはいけないと思いまして・・・。」


 2人の様子を静かに見ていた近衛兵が、王に言った。


「姫様が、どうなされたのですか?まさか何者かに攫われたのですか?」


 しかし、質問に答える声はなかった。

 王は、ふうっと息を吐き出すと頭を机にゴンッと打ち付け、そのまま机に突っ伏した。

 茶色い頭髪の中央が奇麗に禿げていたが、この緊張を孕んだ空気の中では気にするものもいない。

 なにやら王からは、外交が、婚儀が、などと、ぶつぶつと聞こえてくる。

心配になった近衛兵が、そろそろと王に近づこうとして廊下から聞こえてきた複数の足音に動きを止めた。

 開かれたままのドアに目を向けると、この国の王子と二人の女性が部屋に入ってくるところだった。

ゆったりとした青の服を身につけ、金糸の様な髪をサラサラと揺らしながら王子が王の前まで歩いてくる。


「父上!ディアナが居なくなったとは本当なのですか!?」


 普段は涼しげな瞳と称され知性を感じさせる顔立ちだが、今は興奮しているのか瞳が刺すように鋭くなっている。

 そのあとから入室した2人の女性は、執務机の前に置かれているソファーに腰をおろした。

一人はピンクのドレス、もう一人は青いドレスを纏っており、年齢はどちらも30代後半であろう。

ピンクのドレスを着た女性は、王子と同じ金色の髪と青い瞳を持ち、いくらか顔を青くして震えている。

彼女は王子の母であり、渦中の人である王女の母でもあった。この国の王妃である。

その女性を支えるようにして隣に寄り添った青いドレスの女性は、王と同じ茶色の髪をしていた。ただ王と違って豊かな量の茶髪をウェーブさせていたが・・・。

茶色の髪をウエーブさせた女性は臣下の嫁いだ王の妹、ティオナである。


「お兄様、実は私の娘のセレナも朝から見当たりませんの。

 それで御相談しに王城まで参りましたのに、ディアナ様までいらっしゃらないなんて

 ディアナ様とセレナは毎朝、剣の練習を行うのが日課でしたわ。

 もしかすると、鍛錬中にセレナも一緒に攫われたのではありませんの?」

 

 しかし、何やらブツブツと呟いている王からは返事がない。

その様子に王子は痺れを切らしたのか、机の上においてあったくしゃくしゃの紙を見つけると読み上げた。


「父上、母上、兄上様。ディアナはセレナと一緒に旅に出ようと思います。

 来月に控えた婚儀ですが、先方との条件が合わないため破棄していただきたいと思います。

 相手は大国で父上は肩身の狭い思いをすると思いますが、我がリアヌス国のためと思ってください。

 正直に申し上げますと、あんな変態と結婚したくありません。

 アルディストの王子は私を視線で殺すつもりなのでしょうか。あんな国に嫁いでは命の保障はありませんよ。

 もちろん、私のではなく相手の王子の命の保証です。

 いくら正当防衛といえども王子を殺すなど死罪でしょうからね。なので結婚する前に逃げます。

 私だって未来について考えてるのですよ。ふふふ。

 この際、我がリアヌス国には私に勝てる剣士もいないので、セレナと修行の旅に出る事にしました。

 まぁ、可愛い子には旅をさせろというし絶世の美女である私には旅をさせてください

 あ、許可はいりません。勝手に出かけますので。

 それでは、また会う日まで。最後に常套句ですが使ってみたかったので一言そえておきます。

 色々と疲れたので家出します。探さないでください。ディアナ=マリアンヌ=リアヌ


 代筆 セレナ=ロベルト」


 王子が手紙を読み上げ終わると、王と手紙を運んできた侍女以外の全員の動きが止まった。

さっきまで震えていた王妃の震えも止まっている。そして、明るい声で笑ったのだった。


「あらあら、まあまあ。ディアナったら元気いっぱいなんだから。うふふ。」

 

母の声で我を取り戻した王子は、未だ机につっぷしている王を憐れみの目でみやった。

この事態に掛ける言葉が見つからない。相手国になんて言ったらいいものか。

そんな事を考えていると、王がバンッっと机に荒々しく両手を叩きつけた。


「逃げたいのは、わしの方じゃーーー!!

 この時期に家出など何を考えとるんじゃ!あんの、じゃじゃ馬がーーーー!!!

 はぁ・・・それに・・・。

 すまんのう。ティオナ。おぬしの娘のセレナを巻き込んでしまったようじゃ。

 ディアナもティーナも剣の腕前と魔法の才があるばかりに家出などしたのじゃろう。

 こんなことなら、護身のためなどに剣など学ばせなければよかったの。」


「・・・お兄様、よく見てください。手紙を書いたのはセレナのようです。

 結婚に悩む姫をそそのかしたのは、うちの子ですわ。

 あの子は昔から、やりたい放題でしたもの。

 それに、あの子たちは強いですから二人のことは心配してませんわ。

 心配しているのは婚儀のことです。どうしますの?」


 ティオナの問いかけに、一同の表情が曇る。

本当に、とんでもないことをしてくれたものである。

どんよりとした空気の中、うふふっと笑い声が部屋に響いた。

その方向に、一同が顔を向ければ王妃の笑顔が。


「ディアナが嫌がるなら破棄いたしましょう。

 女の子は好きな人と結ばれるべきですもの。

 相手のアルディスト国には、お断りの手紙を。」


「しかしですね、母上。

 相手は我が国とは比べることもできない大国ですよ。断ったりしたら何をされるか。」


 王子の声に、うんうんと王が頷く。じゃあ、こうしたらどうかしらと王妃が両手を打ちならした。


「ディアナは、剣の練習で公務を投げ出したことも少なくないし、外では相当な猫かぶりでしたわ。

 儚い姫君というのが国民の方々の印象でしょう?

 ですから体調を崩し起き上がれなくなったことにするの。

 あ!不治の病っていうのもいいかもしれないですわね。

 いつ死ぬかも分からない子を王妃にするわけにもいかないもの。お断りする立派な理由になりますわ。」


 ね、良い考えでしょ?と微笑む王妃に、その場の誰も答えることはできなかった。



はじめまして。今回、処女作となる泡沫の王女を投稿させて頂きましたシキです。

どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ