センチメンタル・カニバル
ンー、今日もあと一頑張り……と、そこに現れたるは。
あたしは夏子27才。いかにもsummerな名前だけど色白よ? 小麦色に憧れた時期もあったけどきょうび日焼けは悪とされがちだよね。だから良いんだ。ツインテールがトレードマークよ。自由度高い会社なんだ。
あ! アイツ、また来た。
「夏子ちゃーん。考えてくれた? 今度こそ、映画デート」
冬人28才は会社の同僚。建築職人よ。あ、あたしは建築会社の事務をしているの。
その日の現場を終え、月末なので経費の書類を事務所に持って来た冬人。
(冬人、チャラすぎなんだよな~。本気であたしのこと好きなのかな? 見た目はタイプではあるけど……カッコいいから)
冬人はバリバリにブリーチした白い程の金髪。センター分けのストレートヘアー。筋肉質でスマート。きりっとした切れ長の目。名前は冬だが色黒で素敵。
黙ってりゃイイ男なんだがな~。
「はい、これ、今月の分です」
手書きの書類を受け取るあたし。冬人はアナログ人間だもんね。
「了解です」
(バイバ-イ! デートなんて、遊びで言ってんなら帰った帰った)
即座に残業の続きに取り掛かるあたし。
「夏子ちゃん」
「なんですか」
「涼しいよ? 映画館」
「プ!」
吹き出しちゃった、あたし。冬人、真顔なんだもの。
エアコンの壊れた映画館なんか聞いたことないよ? まったく。
「オレ、可笑しい?」
「うん、可笑しい」
冬人が項垂れた。
「そうか」
え?
あたしはちょっぴりうろたえたけど、また顔をパソコンへ向け仕事の続きを始めた。
「春子ちゃんにもそう言われた」
なぬ?!
く、くぉっのお――――ッ、浮気男めが!
あたしにだけ言い寄ってたんじゃないのね! ガマン出来なくなった。
「ざけんじゃないわよ! あたしだけを好きと思ってるって信じてたのに。バカ、バカバカバカ! もう、冬人なんか大っ嫌いっ」
あたしは会社を飛び出していた。逃げるように走って、走って。暑い。夜なのに蝉鳴いてる。あたしと一緒に泣いている! 馬鹿野郎。
街中にあるスーパーへ逃げ込んだ。涼しくなりたいから。暑いの嫌だから。走り疲れたし。
マスカラもアイラインもウォータープルーフなのに取れちゃって、もう滅茶苦茶。
店内で桃ジュースを買い、スーパーの端にある椅子に座ってグイッとのどに流し込んだ。
視界がぼやけて来た。
あ、あたし……! 色男だからちょっと好き、とかじゃなかったんだ~。
あたし、冬人のこと相当好きだったんだ。
でもいけないわ。気の多い男なんて、ヤキモチ焼きのあたしが付き合えるわけないじゃん。
「うっう、ううう」
階段の所の人があんまり来ない、スーパーの壁沿いの長椅子よ。わかるでしょう。だから泣いたって良いんだ!
でも人、来た。
そして隣に腰掛けた。
「涼しい所は良いね。オレは冬が好きだ」
「あ……」
雪男かおまえは。冬人。
「ヒックヒック。うわ――――ん」
あたし、大泣き。
妙に落ち着いている雪男・冬好き、冬人。
でもなんか優しい。
「オレが夏子を惑わせてしまったんだね。ごめん」
「春子ちゃんにもモーションかけたの」
「『モーションかける』とか今言わないよ、夏子」
真面目な表情と穏やかなトーンで言う冬人。
ムカ!
「っるっさぃ」
今のタイミングで昭和言葉にこだわる? やっぱり冬人は寒いわ、プンプン。
「もう一人の事務員の春子ちゃんにはね『いまどきパソコンを使わないのがおかしい』と会話の流れで言われただけなの」
「あ」
「うん、夏子」
キュ!
思い切って、冬人の大きな手を握った。
「あたしも冬人が好きだよ」
冬人の熱いてのひらが湿り気を帯びている。
驚いた顔をする冬人。東京に初雪が降った時みたいに。でもすぐに向日葵みたいな笑顔をあたしへ向けた。
「オレ、デートのお誘いしかしてなかった。オレにも告白をさせて、夏子」
「うん」
瞳には満天の星だ。
「夏子……凍らせておきたいぐらい好きだよ」
ゾゾ、ゾゾゾゾゾ! え、こわ。
「怖、ふ、冬人?」
「うん。なーに、夏子」
その目は純朴で一点の曇りも見当たらなかった。
「そんなこと言ったら怖いよ? なんかホラーじゃん」
あたしのほっぺの涙の粒は西高東低、冬型の気圧配置によりすっかり乾燥した。
「そうか。オレ、悪いことしないよ?」
敢えて言う?
でも不思議。冬人の真っ直ぐな愛が伝わってきた。
派手な見た目に反して恋にはぶきっちょな冬人だったんだ。
あたしのドキドキサマー、今始まった。
らぶ! らぶ!




