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センチメンタル・カニバル

作者: 沙華やや子
掲載日:2026/05/22

ンー、今日もあと一頑張り……と、そこに現れたるは。

 

 あたしは夏子(なつこ)27才。いかにもsummerな名前だけど色白よ? 小麦色に憧れた時期もあったけどきょうび日焼けは()とされがちだよね。だから良いんだ。ツインテールがトレードマークよ。自由度高い会社なんだ。


 あ! アイツ、また来た。


「夏子ちゃーん。考えてくれた? 今度こそ、映画デート」


 冬人(ふゆと)28才は会社の同僚。建築職人よ。あ、あたしは建築会社の事務をしているの。


 その日の現場を終え、月末なので経費の書類を事務所に持って来た冬人。


(冬人、チャラすぎなんだよな~。本気であたしのこと好きなのかな? 見た目はタイプではあるけど……カッコいいから)


 冬人はバリバリにブリーチした白い程の金髪。センター分けのストレートヘアー。筋肉質でスマート。きりっとした切れ長の目。名前は冬だが色黒で素敵。


 黙ってりゃイイ男なんだがな~。


「はい、これ、今月の分です」

 手書きの書類を受け取るあたし。冬人はアナログ人間だもんね。


「了解です」

(バイバ-イ! デートなんて、遊びで言ってんなら帰った帰った)

 即座に残業の続きに取り掛かるあたし。


「夏子ちゃん」


「なんですか」


「涼しいよ? 映画館」


「プ!」

 吹き出しちゃった、あたし。冬人、真顔なんだもの。

 エアコンの壊れた映画館なんか聞いたことないよ? まったく。


「オレ、可笑しい?」


「うん、可笑しい」


 冬人が項垂れた。

「そうか」


 え?


 あたしはちょっぴりうろたえたけど、また顔をパソコンへ向け仕事の続きを始めた。


春子(はるこ)ちゃんにもそう言われた」


 なぬ?!

 く、くぉっのお――――ッ、浮気男めが!


 あたしにだけ言い寄ってたんじゃないのね! ガマン出来なくなった。


「ざけんじゃないわよ! あたしだけを好きと思ってるって信じてたのに。バカ、バカバカバカ! もう、冬人なんか大っ嫌いっ」


 あたしは会社を飛び出していた。逃げるように走って、走って。暑い。夜なのに蝉鳴いてる。あたしと一緒に泣いている! 馬鹿野郎。


 街中にあるスーパーへ逃げ込んだ。涼しくなりたいから。暑いの嫌だから。走り疲れたし。

 マスカラもアイラインもウォータープルーフなのに取れちゃって、もう滅茶苦茶。


 店内で桃ジュースを買い、スーパーの端にある椅子に座ってグイッとのどに流し込んだ。

 視界がぼやけて来た。


 あ、あたし……! 色男だからちょっと好き、とかじゃなかったんだ~。

 あたし、冬人のこと相当好きだったんだ。

 でもいけないわ。気の多い男なんて、ヤキモチ焼きのあたしが付き合えるわけないじゃん。


「うっう、ううう」

 階段の所の人があんまり来ない、スーパーの壁沿いの長椅子よ。わかるでしょう。だから泣いたって良いんだ!


 でも人、来た。

 そして隣に腰掛けた。


「涼しい所は良いね。オレは冬が好きだ」


「あ……」


 雪男(ゆきおとこ)かおまえは。冬人。


「ヒックヒック。うわ――――ん」

 あたし、大泣き。


 妙に落ち着いている雪男・冬好き、冬人。

 でもなんか優しい。


「オレが夏子を惑わせてしまったんだね。ごめん」


「春子ちゃんにもモーションかけたの」


「『モーションかける』とか今言わないよ、夏子」

 真面目な表情と穏やかなトーンで言う冬人。


 ムカ!

「っるっさぃ」

 今のタイミングで昭和言葉にこだわる? やっぱり冬人は寒いわ、プンプン。


「もう一人の事務員の春子ちゃんにはね『いまどきパソコンを使わないのがおかしい』と会話の流れで言われただけなの」


「あ」


「うん、夏子」


 キュ! 


 思い切って、冬人の大きな手を握った。


「あたしも冬人が好きだよ」

 

 冬人の熱いてのひらが湿り気を帯びている。


 驚いた顔をする冬人。東京に初雪が降った時みたいに。でもすぐに向日葵みたいな笑顔をあたしへ向けた。


「オレ、デートのお誘いしかしてなかった。オレにも告白をさせて、夏子」


「うん」

 瞳には満天の星だ。


「夏子……凍らせておきたいぐらい好きだよ」


 ゾゾ、ゾゾゾゾゾ! え、こわ。


()、ふ、冬人?」


「うん。なーに、夏子」


 その目は純朴で一点の曇りも見当たらなかった。


「そんなこと言ったら怖いよ? なんかホラーじゃん」


 あたしのほっぺの涙の粒は西高東低、冬型の気圧配置によりすっかり乾燥した。


「そうか。オレ、悪いことしないよ?」


 敢えて言う?


 でも不思議。冬人の真っ直ぐな愛が伝わってきた。

 派手な見た目に反して恋にはぶきっちょな冬人だったんだ。

 あたしのドキドキサマー、今始まった。




らぶ! らぶ!

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