転生したらオメガバース世界のアルファになっていた女性の話
※アルファ♀(主人公)×オメガ♂の話です。
※オメガバースを知っている前提の話です。
※ランク設定は捏造です。あしからず。
※ネタがネタなのでBL/GL/NLが前提の話。
オメガバースを主題としたBL漫画の世界に転生した私は、とても困惑していた。
テンプレ的展開で神様が好きな世界に転生させてくれるって言うから、女のままで平和に、そして自分の欲望に忠実にこの世界を選んだ。
そうしたら、サービスで余計なことをしてくださった。いや、多分、きっと善意なんだと思う。苦労の無い人生を、とか思ったのかな。
漫画の世界、というには少し語弊があり、漫画の世界をベースにはしているもののシナリオも強制力も何もない、きちんと人が生きている世界なので、私が違う行動をすれば漫画通りの展開にはならないという世界。
そして私はそんな世界に『アルファ・女性』として生まれた。
オメガバースの世界を知っている人ならば分かると思うが、アルファの女性は種の存続の意味では最強なのだ。
何せ男女問わず子供を産ませられるし産むこともできる。
誰を相手にしても問題ないのがアルファの女性なのだ。種の存続的な意味では。恐らくオメガ男性は子供を作る男の立場という生殖的な意味では弱いところがある。産むことはできても、だ。
なのでアルファの女性と言うだけで将来に困ることはない。
前世のわたしは平凡極まりない、この世界でいえばベータ女性だったのに、身体的にも頭脳的にも優れている性質がモロに出ている。
家もアルファ家系と呼ばれるアルファを代々産んでいるので、生まれながらの勝ち組というわけだ。
はっきり言ってやりすぎだよ、神様。
私は壁になって推しを眺めたいオタクなだけで、壁から飛び出て一個人として存在感をバリバリに出したいわけじゃなかったんだよ。
そんな私にはとても可愛い弟がいる。
アルファの父とオメガの母から生まれたアルファの私の弟は、オメガだった。
女性の平均身長を超える170cmの私よりも小柄な162cmの弟は、華奢で可愛い顔をしている。
しかしその中身は繊細とは程遠い男前で、そしてシスコンだった。
この世界でアルファとオメガなら兄弟姉妹で番うことがあるらしいけれど、私と弟はそんな関係ではない。お互いに「違う」というのが分かる。
それに、弟にはまだ現れていないが運命的なアルファが存在する。漫画の脇役にいるカップルのオメガが私の可愛い弟なので知っている。
BL漫画の中で女は早々出てこないし、脇役の家族なんてセリフで感じ取れるレベルだから中々気付けなかったのだ。
弟のシスコンぷりは尋常では無く、私に近づく有象無象を蹴散らす為ならば私のオメガになりきる位だ。
もちろん、私の周りの人間はそれを知っているので呆れながらも笑っているけれど、私を狙う者は性別を問わないものだから弟は野生のグリズリーのごとき気性の荒さを露わにする。
第二性と呼ばれるこのアルファとかオメガのような性別にはランクが存在している。それはフェロモンによる影響力で、アルファのフェロモンが支配に、オメガのフェロモンは誘惑に特化している。
この力にも強弱があり、アルファのハイランクはカリスマ性が高いとなるし、オメガのハイランクは魅力的になる。
そして、それは抵抗力にもなるのだ。
オメガの誘惑フェロモンにアルファは太刀打ち出来ないけれど、ハイランクのアルファとローランクのオメガなら案外抵抗出来る。
逆にローランクアルファはハイランクオメガに太刀打ち出来ない。
私と弟はどちらもハイランクなのだけれど、フェロモンの相性がとても悪いので過ちが起きることはない。打ち消し合うので私がラットを引き出されることは無いので、弟のヒートに冷静に対処して隔離部屋に放り込むことが出来る。
だからか、弟は私を安全地帯にしながら、私の周囲をうろつく有象無象を威嚇するのだ。
このまま弟の運命と出会った時にすんなりくっ付いてくれるのかお姉ちゃんは心配になってきたよ。
そんな私は出会いはあるものの、これと言った相手を作ることもないまま大学生になった。
高校までは弟がべったりと私にくっついていたけれど、進学を機に家を出て一人暮らしを始めた。
裕福な家と言うのはありがたい話で、セキュリティ抜群の高級マンションに一人暮らしをさせてもらえたのだ。そのマンションも所有物件なので家賃が不要だと言うから驚く。
弟は全力で反対したけれど、通学を考えると実家を出た方が良かったのだ。それに、弟は今年辺りに運命さんと出会うはずなのだ。……出会うよね?
私の存在のせいで変わっている可能性があるので何とも言えない。
姉至上主義過激派同担拒否の勢いの弟は果たしてちゃんと運命のアルファと出会ってくれるのか。出会ってくれ、頼む。
大学生活は楽しい。
前世の私は自分の成績に見合ったそこそこの大学に進学し、惰性で卒業して、なんとか内定を貰った会社に勤めていた。
今世は優秀な頭のおかげで難関大学に進学して講義がとても楽しい。
将来は父の会社の後継者として入社する事になっているけれどそれに不満はない。
ただ、弟という壁の無くなった私はとても無防備だった。
有象無象が近寄って来るのだ。
アルファの男女からすれば対等なアルファの女、ベータの男女からすれば逆玉の輿、オメガの男女からすれば魅力的な庇護者となるアルファ。
いや、勘弁してくれ。
私は推しを壁から眺めたいオタクなのだ。もしくは後方で推しを眺めて頷くだけのオタクでしかないのだ。
「椿原様♡差し入れです♡」
「ありがとう」
この子はベータだけど、第二性に詳しくて玉の輿を狙っている女の子。
私が後継者なのは確定しているから、伴侶になったら贅沢できるものね。
「椿原様、僕を貴方の番にしてください!」
「ごめんね、簡単に決められる問題じゃないよね?」
この子はオメガの男の子。ローランクだから少しでも条件が良いアルファと番いたいのだろうなぁ。
でも、フェロモンに魅力を感じない。
「怜奈、婚約の打診への返事は?」
「家から何も聞いてないよ」
こいつは同じアルファの男で家柄的にも釣り合うけれど、数人のオメガを囲っているのを知っている。
その上で正式な妻はアルファにしようっていうのが分かるから話にもならない。
父からも相手にしなくていいと言われているし。
と、まあ、落ち着いて勉強をさせて欲しいのだけれど、そうはいかないのだ。
椿原家は有名なアルファ家系で、しかもかなり力のある名家なものだから繋がりたい人が多すぎる。
弟は私を追ってこの大学に来たいようだけど、こんな猛獣の住処に入れて良いのか……いや、私の弟は野生のグリズリーだわ。蹴散らし威嚇しべったりくっついてくるに決まっている。
番が出来ても多分変わらない気がする。
そんなある日、私は出会ってしまった。
「え……」
構内を歩いている最中だった。
偶然にも一人になる機会が出来て、人目がない自由を味わいながら歩いている途中。
ふわりと心惹かれる匂いが届いて慌ててそちらを見た。
サラサラの色素の薄い茶色の髪の毛。日に焼けていない白い肌。線の細い体。眼鏡をかけて背中を丸めてひっそりと隠れるようにしているその男性。
抑制剤を飲んでいるのだろう、かなり抑えられているけれど微かに感じるフェロモンに私は心臓がばくばくとした。
背は私と同じ位だろうけれど、オメガだからかとても細い。
彼が私のオメガだ。本能で分かってしまい、ヒールの高い靴なのも忘れて駆け寄ってしまった。
「ねえ、あなた、お名前は?」
「え、あの……武藤涼です」
「可愛い……私のオメガ」
びくびくとさせてしまっているのは私だと分かっているけれど、彼は私のオメガだ。間違いない。
優しくて寄り添ってくるような可憐な花の匂い。誘惑しようとするものではないから私を発情させないけれど、心地良い匂いにうっとりしてしまう。
「私は法学部一年の椿原怜奈。お願いがあるの。少しだけお話がしたいの」
「は、はい」
流石に一人暮らしの家に引き込むのは早すぎるし、かと言ってこの場で話すと私を囲む有象無象に邪魔されそうなので、私は彼を連れて大学内にあるアルファとオメガ用の面談室を借りた。
ここならば監視カメラがあるので私が彼を襲ったりしないように監視して貰える。
一応、私は常にアルファ用の抑制剤を服用している。オメガのヒートテロ対策では必須だ。彼らも必死だけどこちらも望まない番にはなりたくないのだ。
武藤涼は私の一つ年上のオメガ。
文学部に通っていて、パートナーはいない。
ランクとしてはハイランクとミドルランクの中間で、ずっと強い抑制剤を服用してきたらしい。
番とまではいかないまでも付き合ったアルファは一人もいない、まっさらなオメガ。
「涼、って呼んでいい?」
「はい」
「私の事は怜奈と呼んで」
「怜奈、さん?」
「うん。ふふ、嬉しい」
アルファとして生まれて初めて、私は自分がアルファなのだと実感している。
涼に名前を呼ばれるだけで嬉しい。私の目の前で私を見てくれていることが嬉しい。
「抑制剤を飲んでいるのよね?でも、私からは貴方のとても可愛くて可憐な良い匂いがするの。甘いベリーとほんの少しのオレンジの香り。貴方は私のオメガだわ」
「え、そん、な。だって貴方は優れたアルファで、僕みたいなオメガじゃ」
「関係ないわ。こんなにも幸せを感じたのは初めてなの。薬のおかげで抑えられているけれど、生まれて初めてアルファとしての本能が疼いているの」
漫画で監禁したいとかあって、うわ、ヤバ、とか思っていたけれど、すごく気持ちが分かる。
こんなにも愛しくて可愛い私のオメガを他の誰かが見ているなんて許せない。それも番っていないフリーのオメガなのだ。
今すぐにでも涼を私の物にしたいと言う欲が出てくるけれど、それを抑える。そんな事をして怯えさせたくはない。
「貴方がフリーのオメガなのがとても不安なの。私以外にその首を噛まれたらと思うと怖い。でもね、今日初めて出会った私達だから、涼は怖いし困るよね?だからね、お友達から始めないかしら?」
「お友達、ですか?」
「そう。その首を噛むのは貴方が私を受け入れてくれるまで我慢する。でも、匂い付けはさせてね。貴方を奪われたら私は狂うわ」
オメガの育ち方は様々で、私の弟のように野生のグリズリーになるタイプもいれば、良くない環境で怯えながら生きる子もいる。
涼はきっと後者。そうでなければこんなにも怯えたりしない。私の弟が強すぎるだけかもしれないけれど。
「貴方のそのネックガードは高校生が配られるものよね?」
「はい……その、僕は、家を出て一人で生活していて……あまり、余裕がないから」
「……すぐに新しいのを買いに行きましょう」
やはり後者だったか。そうでなければオメガが一人暮らしなんて危ない状況にはならない。
私の一人暮らしのマンションには空き部屋があるからそこに来て欲しい。きっと今の生活は良くない。
近くで見ていれば、顔色は悪いし肌も荒れている。
「涼。薬代がかなり生活を圧迫してるんじゃないの?」
「……はい」
抑制剤は効果が高いほど価格も高くなる。しかも副作用も出やすくなる。
番がいないオメガが自分の身を守る為には仕方ない事とはいえ、長期の服用は好ましくない。
「ねえ、私の住んでいる部屋に引っ越して来ない?家賃は不要よ。一人暮らしなのに部屋が余っているの」
「え?ええ?」
「私の可愛いオメガを一人にしたくないの。そばにいて見えるところにいて欲しい。この大学に近いから通学も楽だと思うわ」
「それは、でも……」
なんとか断ろうとする涼を必至で説き伏せて、私は涼に引っ越すことを了承させた。
アルファは何人ものオメガを番に出来るけれど、オメガには一人のアルファしかいない。捨てられるかもしれないという恐怖から番うには慎重になる。
満足に食べることも出来ていなかったのでは無いのだろうか。こんなにも細くて折れそうな体。
沢山食べさせなきゃ。
それから私は涼を連れてアルファ御用達のオメガ用品を取り扱う店で仮のネックガードを購入。それとは別に、涼の為のフルオーダーのネックガードと番った後のチョーカーを注文した。
ただの首輪だとやりようによっては噛めてしまうから、項を完全に覆うタイプだけど、色は出来るだけ目立たないものにした。涼もあまり目立ちたくないようだったし。
髪の毛を伸ばしてくれていて本当に良かった。これならば上手く隠れるだろう。
そしてその足で涼の暮らしているアパートに行き、絶句した。
築何十年か分からないとても古くて家賃の安さだけが売りのアパートはセキュリティも何もありはしない。
父に即座に連絡し、業者を手配して彼の荷物を纏めさせ、アパートの解約などを委任した。
「だめよ、涼。あなたはこんなにも可愛いのに、こんな危ない所に住んでいたら」
「でも、安いし」
「今日からは私のところで暮らすのよ」
「はい」
私はこの世界て推しを見て満足しようと思っていたのだけれど、それどころではない。
私の運命のオメガが目の前にいるのに他によそ見など出来るものか。
眼鏡を外させた涼はとても綺麗な目をしていて、愛しさが爆増する。
涼は本当に良いのかと不安になっているようだから、そっと抱きつく。
せめて服にだけでも私の匂いを付けておかないと。涼は私だけのオメガなのだから。他の誰にも奪わせない。
「私が貴方を捨てることは無いわ。私は一人しか愛せないもの」
前世からの倫理観で、私には一人がいれば良い。誰でもいいわけではない。
出会いはきっかけでしかない。確かにフェロモンに心惹かれたけれど、オメガらしいオメガなら弟がそうだ。だけど中身はグリズリー。
涼は一般的なオメガよりは背が高いだろうけれど、中身は繊細で、この繊細さを弟は持つべきだと思うし、フェロモンの相性だって大事なのだと私は知っている。
その後、涼は私の元で生活をし、私がせっせと食育を施し惜しみない愛情を注いで少しずつ私に心を許して行った。
約束通りお友達から始めて恋人になり、涼から項を噛むことを許された時は盛大に泣いた。
ヒートの時に涼の項を噛んで私達は番になった。もう他のオメガのフェロモンを感じないし、涼のフェロモンを他のアルファは嗅ぎ取れない。
出会って二年。少しずつ変化して魅力的になっていく涼を狙うアルファ達を蹴散らし、威嚇フェロモンで近寄らせる事も許さなかった。
それに、私の隣を狙っていた輩どもによる涼へのイジメなどには徹底的に報復をした。
それは弟に対してもで、初めて私は弟にブチ切れた。
可愛い弟でも、私の涼をイジメて追い出す事は許さなかった。
どれだけギャン泣きして許しを乞うても、話を聞こうとしなかった私へ執り成しをしたのは涼だ。
涼が頼むから許したけれど、次があれば姉弟の縁を切ると宣言したところで弟は漸く反省した。
弟は漫画でくっ付いていたアルファと最近出会ったらしく、そのアルファは私に怒っていたけれど、ランクはこちらの方が上で実力でねじ伏せた。
己のオメガを守りたい気持ちが分かるなら、私が涼を守る気持ちだって分かるはずだ。
涼は一年早く社会に出る事になったけれど、彼が望むなら家にいてもいいと思っていた。
働いて稼ぐのは私がすればいい。それよりも、涼には自分のしたいことをして欲しい。
そう告げたところ、涼は小説を書くのが好きでこっそりと書いていたらしい。本好きなのは知っていたけれど、書いていたことまでは知らなかった。
ある程度は彼のことを把握しておきたいけれど、全部を知り尽くしてなければ満足出来ないなんてことはしない。
誰にだって大切にしたいプライベートな部分はある。
私の知るあるアルファは、全てを把握したいし監禁したいし誰にも会わせたくないと言っていた。
だけど、私は涼をある程度は自由にさせたい。彼が物語を書きたいのであれば余計に。閉ざされた世界で人の心を動かす話を書けるとは思えない。
「ねえ、涼。旅行に行きましょう?貴方の創作活動にきっと役に立つわ」
「いいの?怜奈さん、忙しいでしょう?」
「まだ余裕よ。それにね、子供のことを考えると今だからこそ自由に動けると思うの」
子供に関しても話をきちんとしている。
二人の時間を大事にしたいし、生活スタイルが確立して安定するまでは、と。
産むのは私ではないので、涼が大丈夫だと思うまでは待つつもりだ。
実家にもそう言っているので、焦らず新婚生活を満喫したい。
涼の卒業に合わせて私達は結婚した。私の苗字は変わらないので不便はない。
大学四年生は卒論や就活などがあるけれど、就活が無い私には時間がある。なので、この一年は涼を色々な所に連れて行くつもりだ。
彼は実家と縁を切った。あまり良くないと思っていた家は、とても良くない家で、涼を無断で売り払おうとしていたのだ。
しかし、その前に涼と私は番になったので意味は無い。
こちらに擦り寄ってきそうだったので、オメガの保護機関を介しての事実上の絶縁である。
私は神様にこの世界に転生させてもらったけれど、今はとても満足している。
私がアルファだから世界で一番愛している涼と出会えて番えたのだ。
推しカプは、出会ってすれ違ってくっ付いて別れたりしながら最終的にくっ付いたりしたらしいけれど、すっかりどうでも良くなっていた。
何故なら、私の最推しは私のオメガになったから。
アルファ女性とオメガ男性の組み合わせが割と好きなのです。
見た目はめちゃめちゃ可愛いのに中身は野生のグリズリーな弟の運命さんがどんな人かは決めてないです。




