第5話 魔族少女と、甘え上手な侵入者
昼下がりだった。
レンは畑の端で伸びをする。
「……平和だな」
作物は順調。
拠点もできた。
やることは、ほぼない。
「これが理想の生活か」
「手伝いは?」
リリアが横から言う。
「今日はいい」
レンは首を振る。
「たまには休む」
「……まあいいけど」
リリアは少しだけ不満そうだ。
⸻
「レン」
セリスが近づいてくる。
「周囲の警戒はしておくべきだ」
「真面目だなあ」
「当然だ」
セリスは真剣な顔だ。
「ここは安全とは言い切れない」
「昨日も言ってたな」
レンは苦笑する。
「でもまあ――」
そのときだった。
ガサッ、と草が揺れる。
「……ん?」
レンが振り向く。
次の瞬間。
「いたぁ……」
小さな声がした。
草むらの中から、ひょこっと顔が出る。
赤い瞳。
黒い髪。
そして――小さな角。
「……魔族?」
リリアが目を細める。
少女はびくっと体を震わせた。
「ち、違うの……!」
「角あるけど」
「これは、その……!」
しどろもどろだ。
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「……お腹すいた」
少女はぽつりと呟く。
そのまま、ふらっと倒れそうになる。
「おいおい」
レンは慌てて支える。
「大丈夫か?」
「……おなか、ぺこぺこ……」
完全に力が抜けている。
「またこのパターンか」
レンは苦笑する。
「はいこれ」
いつもの草を差し出す。
「食べるか?」
「……いいの?」
少女の目が、ぱっと輝く。
「毒じゃない?」
「それ昨日もやった」
「そっか!」
少女は迷いなく受け取る。
そして――
ぱくっ。
「……っ!!」
一瞬で表情が変わる。
「なにこれ!?おいしい!!」
「だろ?」
「すごいすごい!」
少女は勢いよく食べ始める。
「あ、待て、ゆっくり――」
「おかわり!!」
早い。
めちゃくちゃ早い。
「……元気だな」
リリアが呆れた顔をする。
⸻
「ふぅ……」
満足そうに息をつく少女。
さっきまでの弱々しさは完全に消えていた。
「生き返った……」
「大げさだな」
「ほんとだもん!」
少女は笑う。
距離が近い。
やたら近い。
「ねえねえ」
レンの腕に、ぎゅっと抱きついてくる。
「ありがとう!」
「近い近い」
「いいじゃん」
まったく遠慮がない。
⸻
「……名前は?」
レンが聞く。
「ミア!」
即答だった。
「ミアか。俺はレン」
「レン!」
ミアは嬉しそうに繰り返す。
「覚えた!」
「そりゃどうも」
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「……で」
リリアが口を開く。
「あなた、ここで何してたの?」
「逃げてた」
ミアはあっさり言う。
「魔王軍から」
「……は?」
セリスが固まる。
「どういうことだ」
「ちょっとミスって」
「軽いな」
レンは思わずツッコむ。
「で、追われてる」
「それ、かなりまずいのでは」
セリスの顔が引き締まる。
「敵を引き寄せる可能性がある」
「うーん」
ミアは首をかしげる。
「でもここ、いい感じ」
「は?」
「ごはん美味しいし」
ぎゅっと、また抱きつく。
「レンいるし」
「理由それだけか」
「うん!」
迷いがない。
⸻
「……帰る場所は?」
レンが聞く。
「ない」
これも即答だった。
「なら」
レンはあっさり言う。
「ここにいればいい」
「いいの!?」
ミアの目が輝く。
「まあ、増えても変わらんし」
「やった!」
ミアは勢いよく飛びつく。
「レン大好き!」
「早い早い」
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「……軽すぎる」
リリアが呆れる。
「だが……」
セリスは小さく息を吐く。
「放ってはおけないな」
「でしょ?」
レンは笑う。
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こうして――
レンの農園に、三人目の住人が加わった。
エルフ。
女騎士。
そして魔族少女。
「……一気に増えたな」
レンは空を見上げる。
「まあ、にぎやかでいいか」
⸻
レンのスローライフは――
さらに騒がしく、そして楽しくなっていく。




