表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第3話 女騎士と、初めての戦闘

 

 朝だった。


「……静かだな」


 レンは目を覚まし、空を見上げる。


 昨日と同じ、のんびりした空気。

 風も穏やかで、危険な気配はない。


「異世界ってもっと物騒かと思ってたけど……」


「それは場所による」


 横から声がした。


「うわっ」


 振り向くと、リリアが普通に立っていた。


「びっくりするからやめてくれ」


「気配に気づかない方が悪い」


「無茶言うな」


 リリアはくすっと笑う。


 昨日より、だいぶ表情が柔らかい。


「体はもう大丈夫なのか?」


「ええ。あの植物のおかげでね」


「そりゃよかった」


 レンは軽く伸びをする。


「さて、今日も適当に畑でも――」


 そのときだった。


 遠くから、何かが走ってくる音がした。


 ドドドドドッ――


「……なんだ?」


「……来る」


 リリアの表情が、一瞬で変わる。


 鋭い。


 完全に戦闘モードだ。


「人間……いや、違う」


 リリアは森の奥を睨む。


「追われてる」


「は?」


 次の瞬間――


「た、助けてくれ!」


 女性の声が響いた。


 森の中から飛び出してきたのは――


 銀色の鎧をまとった女騎士だった。


 しかし、その姿はボロボロだ。


 鎧は傷だらけ。

 呼吸も荒い。


「くっ……!」


 その背後から――


 巨大な影が現れる。


「……マジか」


 レンは思わず呟いた。


 現れたのは、三メートルはある魔物。


 牙を剥き、地面を踏みしめるたびに振動が伝わってくる。


「グオオオオオッ!!」


 咆哮。


 空気が震える。


「……無理だろ、あれ」


 レンは冷静に判断する。


「あんなの勝てるわけ――」


「来る!」


 リリアが叫ぶ。


 魔物が、一気に距離を詰めてきた。


 女騎士は足をもつらせ、転ぶ。


「くっ……ここまでか……!」


 完全に詰みだ。


「……はぁ」


 レンはため息をついた。


「のんびりする予定だったんだけどな」


 一歩、前に出る。


「レン!?」


 リリアが驚いた声を上げる。


「さすがに見捨てるのは後味悪いし」


 レンは足元の草を一本引き抜く。


 そして――


 口に入れた。


「……よし」


 体が軽くなる。


 力がみなぎる。


「どれくらい強くなってるか、試すか」


 魔物が迫る。


 巨大な爪が振り下ろされる――


 その瞬間。


「――遅い」


 レンは、軽く横に避けた。


「……は?」


 女騎士が目を見開く。


 自分でもわかる。


 明らかに、動きが違う。


「これ、いけるな」


 レンは地面を蹴る。


 一瞬で距離を詰める。


 そして――


「っと」


 軽く拳を振るった。


 ドンッ!!


 鈍い音。


 次の瞬間、魔物の体が吹き飛んだ。


「……え?」


 女騎士が固まる。


 魔物は地面を転がり、そのまま動かなくなった。


 沈黙。


「……終わりか?」


 レンは首をかしげる。


「思ったより弱かったな」


「いや強すぎでしょ」


 リリアが即ツッコミを入れた。


 ⸻


「……助かった」


 女騎士が、ゆっくりと立ち上がる。


 まだふらついている。


「気にすんな」


 レンは軽く手を振る。


「それより怪我、大丈夫か?」


「……問題ない、と言いたいが」


 女騎士は苦笑する。


「正直、限界だ」


 その場に膝をついた。


「あー、やっぱりか」


 レンはため息をつく。


「とりあえず、これ食っとけ」


 草を差し出す。


「……それは?」


「回復アイテムみたいなもん」


「……信用していいのか?」


「さっき助けたの俺なんだけど」


「……確かに」


 女騎士は少し迷ったあと、それを受け取る。


 そして、口に入れた。


「……っ!?」


 目を見開く。


「なんだ……これは……!」


「うまいだろ?」


「いや、それもだが……体が……!」


 傷がみるみる回復していく。


 呼吸も整う。


「信じられん……」


「便利だろ」


 レンは軽く笑う。


 ⸻


「……私はセリス」


 女騎士が名乗る。


「王国騎士団に所属していた」


「していた?」


「……今は違う」


 その表情が、少し曇る。


「冤罪で追放された」


「テンプレだな」


「てんぷれ?」


「気にすんな」


 レンは肩をすくめる。


「行くあては?」


「……ない」


 即答だった。


「なら」


 レンはあっさり言う。


「ここにいればいい」


「……は?」


 セリスが固まる。


「食い物あるし、寝る場所もなんとかなる」


「いや、しかし……」


「別に働けとか言わないし」


「……」


 セリスは黙る。


 そして――


「……本当に、いいのか?」


「いいよ」


 レンは軽く頷いた。


「俺ものんびりしたいだけだし」


 その言葉に、セリスは目を伏せる。


「……変な男だな」


「よく言われる」


「……少しだけ、世話になる」


「了解」


 ⸻


「増えたな」


 リリアがぽつりと呟く。


「そうだな」


 レンは苦笑する。


「まあ、にぎやかな方がいいだろ」


 ⸻


 こうして――


 レンのスローライフに、二人目の住人が加わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ