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第2話 エルフと、最初の食事

 目を覚ましたのは、夕方だった。


「……ん」


 小さく声がして、腕の中の少女がわずかに動く。


「起きたか」


 レンはその顔を覗き込んだ。


 長い金髪に透き通るような白い肌。

 やっぱりどう見てもエルフだ。


「……ここは」


 少女は警戒するように周囲を見渡し、すぐにレンへ視線を向けた。


 その目は鋭い。


「……あなたは誰?」


「通りすがりの農民」


「嘘」


 即答だった。


「いや、まだ農民じゃないけど……」


 レンは苦笑する。


「倒れてたから運んだだけだよ」


「……」


 少女は黙ったままレンを睨む。


 完全に警戒モードだ。


「まあいいや」


 レンは肩をすくめると近くに置いていた草を差し出した。


「とりあえず、これ食べるか?」


「……毒?」


「ひどいな」


「見知らぬ人間が差し出す食べ物なんて、疑うに決まってる」


 ごもっともだ。


「じゃあ、先に俺が食べるよ」


 レンは草を一本つまみ、そのまま口に入れた。


「ほら、大丈夫」


「……」


 少女は少しだけ迷ったあと、ゆっくりと草を受け取った。


 そして――


 恐る恐る、口に運ぶ。


「……え?」


 次の瞬間、目を見開いた。


「なに、これ……」


「うまいだろ?」


「……こんな味、初めて……」


 少女は信じられないという顔で、手に持った草を見つめる。


 そしてすぐに――


 もぐもぐ、と食べ始めた。


「あ」


 一瞬で食べきった。


「……もう、ないの?」


「あるある」


 レンは苦笑しながら、追加で渡す。


 少女はそれを受け取ると、今度は迷いなく口に入れた。


 そして――


「……っ」


 ぴたり、と動きが止まる。


「どうした?」


「……体が、軽い」


 やっぱりか。


「それ、食べると強くなるっぽい」


「……は?」


 少女はゆっくりと立ち上がる。


 さっきまでフラフラだったのが嘘みたいに、しっかりしている。


「嘘……こんなこと……」


「まあ、俺もびっくりしたけど」


 レンは肩をすくめる。


 少女は自分の手を見つめ、何度か握っては開く。


 そして――


「……本当、みたい」


 ぽつりと呟いた。


 ⸻


「で、名前は?」


 レンがそう聞くと、少女は一瞬だけ迷った。


「……リリア」


「リリアか。俺はレン」


「レン……」


 リリアはその名前を、確かめるように繰り返した。


「……さっきは助けてくれて、ありがとう」


「どういたしまして」


 ようやく、警戒が少しだけ解けたらしい。


「でも」


 リリアはすぐに表情を引き締める。


「私はここを離れる」


「そうか」


 あっさり返すと、リリアは少し驚いた顔をした。


「引き止めないの?」


「別に無理に引き止める理由もないしな」


「……そう」


 なぜか、少しだけ不満そうだった。


「ただ」


 レンは草を軽く掲げる。


「食料には困ると思うけど?」


「……」


 リリアの視線が、草に吸い寄せられる。


 わかりやすい。


「それに、この辺何もないぞ」


「……それは」


 図星らしい。


 しばらくの沈黙。


 そして――


「……少しだけ」


 リリアが小さく呟く。


「少しだけ、ここにいてもいい?」


「好きにすればいい」


 レンはあっさり答えた。


「……追い出さないの?」


「追い出す理由もないし」


「……変な人」


 くすっと、リリアが笑う。


 さっきまでの警戒が嘘みたいだった。


 ⸻


 その日の夜。


 焚き火を囲みながら、リリアはぽつりと言った。


「……ここ、居心地いい」


「そりゃよかった」


「……もう少し、いてもいい?」


「だから好きにしろって」


「……うん」


 リリアは小さく頷いた。


 ⸻


 こうして――


 レンのスローライフに、最初の住人が加わった。


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