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第5話 覚悟の一撃

 真っ暗な空間にただ落ちていく。そんな感覚だけが、今のルンに意識があるということだけを教えてくれる。


「いきなりなんでこんな目に⋯⋯」


 ルンは無意識に愚痴をこぼした。シャオックに酷い目に遭わされそうになり、気絶して丸一日寝ていたら、目覚めた途端に変なところに飛ばされる。正直今のルンは疲れていた。


 校長が先程言っていた"試練"がどのようなものか、自身が抱えている"矛盾"とはなんなのか。ヒントすらない状態にも、苦しめられていた。


 だが、いちいち分からないものを考えては仕方がない。


「とりあえず、この空間から出る方法がないか調べてみるか」


 ――――――いや待て⋯⋯どうやって調べるんだ?


 完全に詰み。そう思ったその時、空間が揺れた気がした。


「⋯⋯っ!?」


 空間の揺れの後、異変はすぐに起きた。真っ白な綿のような物体が、青い空にぷかぷかと浮いている。ルンはその白い綿のすぐ横にいた。為す術なく落ちていくのが分かる。空気が薄い。息が苦しい。ルンは、今自分がいる場所がどこなのかが分かった。


「空!?」

 

 ルンは宙を回っていた状態から体勢を整え、恐る恐る真下を目を細めて見た。どうやら地上は草原のようで、辺り一面が真緑に染まっていた。ただ、色々と状況が混乱しているためか、不思議と恐怖はそこまでなかった。


「ちょ⋯⋯これどうすれば⋯⋯」


 ――――――あーあーあー⋯⋯聞こえとるかのぉ?

 

 打開策を考えようとした時、脳に直接声が聞こえた。この声は、ザックのものだった。


「こ⋯⋯校長先生! 一体これは⋯⋯どういうことですか!?」


 届くのかも分からないが、届くことを祈ってルンは怒鳴るように声を上げた。


 ――――――聞こえとった聞こえとった!


「先生! とにかくこの状況を説明してくださいよ!」


 ――――――断る。


「なぜですか!?」


 ――――――それじゃあ試練にはならんじゃろう? いいか、ルンよ。今のお主ならこの状況を打開する力を持っておるはずじゃ。


「はぁ!? そんなの僕が――――――」


 ――――――なぜ、お主はシャオックに勝てた?


 ザックの言葉が、耳鳴りのようにルンの脳に響き渡った。


「⋯⋯それは⋯⋯」


 言葉が詰まる。だが、もう既に答えは目の前にある。ルンはそれを分かっている。身体の奥から溢れ出てきた不思議な力だ。だが、それが本当に自分の"力"なのか、未だに信じられていなかった。


 ――――――ルンよ、お主はもう既に気づいておるのではないか?


 ザックの静かな声が、静かに響き渡った。


 ――――――お主はもう、ただの落ちぶれた少年ではないことに⋯⋯


 力が不思議と湧き上がってくるのを、ルンは感じた。シャオックの時と同じ、不思議な"違和感"だ。


 信じていいのかもしれない――――――そんな考えが、ルンの脳裏によぎった。自分を信じていいのなら、やることは一つだけだ。


 ――――――"無魔のルン"ではないことに!


 ルンは目を見開いた。それと同時に、湧き上がる不思議な力を――――――魔力を拳に篭めた。意識を一瞬でも散らせば、すぐにでも拳に篭めた魔力が霧散するような雑な魔力操作。それでもルンはブレなかった。


「僕は⋯⋯」


 ――――――やーい!落ちこぼれの"無魔のルン"!


 そうだ。僕は落ちこぼれだ。魔力を持たないで生まれて、それなのに高望みして魔法学校に志望した。だけど、今は違う。


「ただの⋯⋯!」


 右の拳に更に力を入れる。それと共に、ルンは着々と近づきつつある緑色の地面に視線を移す。地面に着く"その時"を、ルンは待つ。


 一瞬の遅れが命取りになる。もちろん、早すぎても命取りになる状況の中、ルンは"その時"を正確に感じ取った。


「ルン・ボルドリーだぁぁぁぁぁっ!!!」


 ――――――ドゴォォォン!!!


 地面にルンの拳が突き刺さる。それと同時に、鈍い衝撃音と振動が地面に伝わった。地面と拳の衝撃で生じた突風は、緑に染められた地面から土の色を顕にさせた。


 これまでの人生を――――――"無魔のルン"だった頃の自分から変わる覚悟を乗せた拳は、地面に巨大なクレーターを生み出していた。


「はぁっ⋯⋯はぁっ⋯⋯」


 砕けたかと思ったルンの右腕は、確かにそこにあった。ジンジンとした痛みはあるものの、形はしっかりと保っている。ルンは安心して気が抜けた。その時、ルンの視界が歪んだ。


「あぁ⋯⋯思い出し⋯⋯た⋯⋯」


 ドサッ――――――


 倒れたルンの意識の糸は、もう既にぷっつりとちぎれていた。


 

 ☆☆☆



「フムフム⋯⋯あれがルンの魔力に宿った能力⋯⋯か」


 白い壁に囲まれた病室の中、ザックはどこからか取り出したバスケットボール大の大きさの水晶を覗き込んでいた。そこには、力の全てを使い果たし、気絶したルンが写っていた。


「憶測じゃが⋯⋯魔力を力に変える能力⋯⋯そういったところじゃろうかの⋯⋯?」


 ザックはその場から立ち上がり、部屋を後にするべく真っ白な引き戸に手をかけた。


「ルンよ。お主に課せられた試練は"まだ"始まってすらおらぬぞ?」


 届かないのは承知の上。ザックは一言言い残し、病室になっている空間を後にした。

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