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第4話 目覚め⋯⋯そして試練

「――――――はっ!?」


 ルンは飛び起きた。が、その拍子に身体中に感じたことの無い激痛が走るのを感じた。


「ぐっ⋯⋯!?」


 痛む身体に苦しみながらも、ルンは自身の身体へと視線を移した。あまりに酷い激痛だったことから、全身が痛々しい状態なのではないかと覚悟していたが、全体的に見れば、普段とあまりに変わっていなかった。ただ、右腕だけは、包帯でぐるぐる巻きに固定され、動かせない状態になっていた。


 ルンが覚えている限りでは、ナイフで左目を刺そうとしてきたシャオックを、このぐるぐる巻きになっている右手で殴り飛ばしたところまでだ。そこからのことは、上手く思い出せない。(その直後に倒れた気がするが)


「⋯⋯とりあえず⋯⋯ここがどこなのかを聞いてみよう⋯⋯」


 白い壁に清潔感のあるベッド。おまけに治療用の魔道具まで揃っている。そうなるとここは病院なのだろう。それならば、医療魔法に長けた者や看護師もいるかもしれない。そう思い、ルンは痛む身体を無理やり起こそうとした。


 その時だった。


「おいおい、無理に動くでないぞ?」


 誰もこの病室にいないと思っていたため、突然の声にルンは心臓が止まるかと思うほど驚いた。ルンは声のした方を見た。だが、そこには真っ白な引き戸とベッドの近くにひっそりと置いてある小さい椅子以外は何も無い。


「誰もいない⋯⋯? 幻聴か⋯⋯?」


 ボロボロの身体である以上、その可能性も十分あるだろう。ルンはそう結論付け、再び起き上がろうとした。


「おいおい、さっきも言ったが無理に動くでないぞ?」


 ルンは上半身を起こした時、先程の誰もいなかった場所に、人の姿があるのを目の端で捉えた。もう一度その方向を向くと、そこには黒いシルクハットを被った長い白い髭が特徴の老人が、誰もいなかったはずの小さな椅子にちょこんと座っていた。


「フォッフォッフォ⋯⋯いやぁ、やっと目覚めたわい」


「えっと⋯⋯いつの間にいらしてたんですか? というか、誰?」


 ルンは目の前にいる老人とは全く面識がなかった。もしかしたら自分は既に死んでいて、目の前にいる老人はあの世の案内人か、はたまた自身と血の繋がったご先祖さまのような人なのだろうか――――――そんな冗談のような考えが、ルンの頭に一瞬だけよぎった。


「ウーム⋯⋯まぁ、気づかんのは当たり前か。隠密魔法使っておったし」


「あぁ⋯⋯隠密魔法ならたしかに魔力の無い僕じゃ分かりませんね」


 ルンが独り言のようにボソリと口からこぼれた言葉を老人が聞いた時、意表を突かれたような顔をして少し黙った。


「⋯⋯⋯⋯さて、君のもうひとつの質問じゃが⋯⋯ワシはザック・トゥール。時代に置いていかれたただの老人じゃ」


「あれ⋯⋯その名前、どこかで聞いたような⋯⋯?」


 どこかで聞いたことがある名前だった。ルンはその事が気になり、思い出そうとしたが、老人はそれを阻むかのようにルンに話しかけた。


「それよりお主、何日の間この病室に寝込んどったと思う?」


「え? そこまで長くないと思いますが⋯⋯」


 シャオックとの一件は朝に起きている。そしてまだ日が暮れていないこと。右手以外は大して大きな怪我をしていないことから、ルンはせいぜい2・3時間。長くても5時間くらいだと思っていた。


「フムフムそうか、お主はそこまで時間が経っていないと⋯⋯」


「ええ」


「じゃあいいことを教えてやろう。お主は丸二日寝とった」


「ふ⋯⋯二日!?」


 ルンはあまりの驚きに、キリキリと痛む身体を勢いよく起こしてしまった。苦痛に歪むルンの顔を見て、老人は慌てて言葉を訂正した。


「冗談じゃよ、冗談! ホントは一日じゃ!」


 必死に詫びる老人をなだめながら、それでもかなり時間が経っていたことにルンは内心驚いていた。


「あの⋯⋯質問が多くて申し訳ないのですが⋯⋯ここはどこなのでしょうか? それと、あなたは一体――――――?」


「フム。まぁ、たしかに気になるじゃろうな」


 そう言った直後、老人はさっきまでの穏やかな表情から一変、真面目な顔になった。老人のその顔から発せられるプレッシャーは、なんとなくではあるものの、目の前にいる老人は只者では無いということをルンは感じた。


「まず、ここはお主の通ってる魔法学校――――――マジアックのとある仮想空間じゃ。ワシの魔力で、この仮想空間を病室に仕立てあげてる訳じゃな――――――この時点で、ワシが誰だか、察してきたんじゃないかの?」


 ルンは目の前の老人の話を聞いて思い出した。


 かつて魔王が世界を掌握しかけた時代、ある強き魔法使いたちが魔王に抗い、世界を危機から救った――――――という伝説がある。その伝説の魔法使いの内の一人が、ザック・トゥールだった。そしてその伝説の魔法使いは――――――


「あなたは伝説の魔法使い――――――そして、マジアック校の⋯⋯校長先生!?」


 信じられなかった。が、もし目の前にいる老人があの伝説の魔法使いであるザック・トゥールであり、本当の校長であるならば、ルンは一つだけ、どうしても聞かなければならないことがあった。


「こ⋯⋯校長。僕からの最後の質問⋯⋯よろしいでしょうか?」


「いいとも」


「先生は⋯⋯僕が魔力をほぼ持っていないことを知っていたはずです」


「あぁ、書類で確認してたとも」


「ならなぜ! 僕はマジアック校に合格にしたのですか?」


 ルンは質問した時、聞くのは間違いだったのではないかと後悔した。ザックの目が、今までの穏やかさや真面目さから、今まで見たことの無い鋭い眼光を帯びた目になっていたからだ。


「その質問に答えるには、ルン――――――お主がお主の魂と向き合わなければならぬ」


「? それってどういう――――――」


 ルンの言葉はプツリと切れた。瞬きをした一瞬だった。目の前の真っ白な壁に囲まれた病室から一転、真っ暗な空間へと放り出されたからだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ルンは何も無い暗闇へ落ちていった。その時、響くようなザックの声が聞こえた。


 ――――――強き若人よ、この試練を乗り越えてみせよ! そして、お主の抱える矛盾を取り除いてみせよ!

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