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第2話 助けて

 ルンは目を覚ました。まだ頭がぼんやりとしている。辺り一面には、長い年月をかけて成長したであろう大きな木々に囲まれていた。太陽の光はほとんど届かず、湿った空気が気持ち悪い。


 ここで、ルンの意識がはっきりとした。


「⋯⋯ここは⋯⋯?」


 左目を瞼越しに触ってみる。しっかりとそこには目があるし、見える。先程まで、シャオックに左目を潰されそうになっていたはずだ。


 ――――――俺様の能力で、綺麗さっぱり治してやっからよ!!!


 そう。シャオックにそう言われ、ナイフを振り下ろされたはずだ。その後が、思い出せない。というより、そこからここに来たはずだ。


 見慣れない森林。こんな場所は、ルンの通っている魔法学校には無いはずだ。転移でもされたのかと思ったが、他人だけを転移させる魔法は、かなりの高位の魔法使いでない限り不可能だ。


 ならここは一体――――――?


 疑問がルンの中を駆け巡ったその時だった。


「やっと見つけたぞ!」


 突然、背後から男の声が聞こえた。


 ルンは驚いて振り返った。そこには、綺麗な緑色のローブを纏う男が立っていた。肩ほどまでに伸びた黒髪が風に揺られている。顔を見ようとするが、まるでそこだけが濃い霧がかかっているかのようにぼやけてしまい、見えなかった。


「こんな所で何をしてたんだ? グレイ」


 知らない人の名前だ。人違いでもしたのだろうか。そう思い、ルンは自分はグレイという人ではないということを言おうとする。その時、ルンは違和感に気づいた。


 口を開こうとしても、顎が動かなかったのだ。体の方も、指を動かしたり瞬きすることはできても、歩いたり腕を上げたりする動作が出来なかった。


 ルンは焦りを覚えたが、目の前の男は言葉を続けた。


「また、いじめられたのか?」


 しばらくの間があった後、男は再び口を開いた。


「そうか、やっぱりお前は弱虫だな」


 男はルンを見て笑った(ように見えた)。ただ、その笑いは、クラスメイトたちのような負の感情が籠ったようなものではないものだということが、なんとなくわかった。


「俺も⋯⋯同じだよ」


 男は地べたに寝転がり、宙に挙げた拳を見ていた。


「結局何も、救えなかった。仲間も、親友も⋯⋯恋人も――――――」


 男は小さく笑った。男自身への嘲笑だ。


「いきなり召喚されて、勇者だのなんだの言われて、調子に乗った俺がバカだったんだ」


 男は宙に挙げていた拳を広げ、顔を覆った。


「気づけば全部失ってた。俺は所詮、ただのガキだったんだよ」


 男は立ち上がり、ルンの方へと視線を向けた。


「グレイ、お前はきっと自分自身を弱くてみっともなくて、魔力が全てのこの世界で生きている価値すらないと思っているだろう?」


 ルンはこの時、グレイという人は自分と似た境遇なのではないかと悟った。男がそれに気づいてなのか、はたまた偶然か、ルンがぼんやりと理解したと同時に、男はルンの方へと歩み寄ってきた。


「グレイ。お前はたしかに弱い」


 責めるような声ではなかった。


「泣き虫で、臆病で、おまけにケンカも弱い⋯⋯だがな――――――」


 男は、右の人差し指をルンの心臓の真上に向け、話を続けた。


「――――――人一倍強い正義感を持つお前が⋯⋯未知の可能性を秘めたお前が、正しい道を進むことを――――――俺の悲願を叶えてくれることを信じてる!」


 ――――――ドクンッ!


 心臓が強く跳ね上がる。シャオックに刃を突き立てられた時よりも強く。


 その瞬間、世界がゆがみ始めた。森は雪崩のように崩れ、空は真っ暗な闇に覆われていく。その中、ルンはたしかに聞いた。


 ――――――俺の能力だ。お前はもう――――――


 男の見えない口が短く動くのが見えた。だが、その最後の言葉だけは、聞こえなかった。


 ルンは、今まで感じたことの無い、自身にまとわりつく違和感を感じながら、底知れぬ闇の中に落ちていった。


 

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