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第1話 頂点と底辺

 薄暗い石造りの廊下に、無数の笑い声が響いていた。その笑い声は、面白いものを見ての笑いではなく、侮蔑や嘲笑の類であることは、誰が見ても明白だった。


 ここ――――――魔法学校は、魔法が全てを言う世界の中で、最も価値あるものを学ぶ場であった。


 圧倒的な魔力量と魔力に宿る能力。

 生まれながらに持つ揺るがぬ才能。

 不平等であり、不公平な血筋。


 それらを持つ者はこの世界の頂点へと立ち、持たぬ者は理不尽とも呼べる立場に落とされる――――――そんな世界でもある。


 そしてその昔ながらの理不尽な構造は、次世代を担う子供たちが集まる場所でも、例外ではなかった。


「おいおい、また来たぞ! "無魔(むま)のルン"だ!」


「ふっ⋯⋯あんな無様でみっともない、魔法も魔力に宿る能力も開花していないヤツが、なんでこの魔法を学ぶ学校に来てるんだろうな?」


「ははは! 笑わせんなよ、そもそもあいつに魔力はほぼねぇんだ。能力なんざ、絶対に開花しねぇっつぅの!」


 金持ちの親が買ったのであろう、高級感溢れるローブを身に纏う生徒たちの嘲笑は、黒髪の少年ルン・ボルドリーに向けられていた。


 わざと聞こえるような声量で言っているのであろう。ルンは、生徒たちの侮蔑の声を聞こえないふりをして、何も言わずに自らの席に座っていた。理不尽な侮蔑。もちろん、ルンはそんな事をされるのは望んでいないし、叶うのならやめて欲しかった。だが、能力以前に魔力もほぼ無い。魔力が無ければ魔法の才能も無い。そして、魔力のない子供と見限られ、両親に捨てられたことで血筋は不明だ。(どの道いい血筋では無いとルンは思っているが)


 この世界では、個人差はあれど4歳頃から微量ではあるものの、魔力を練ることが出来るようになる。そして、ほんのひと握りの者だけが、15歳を迎えると魔力が特殊能力に覚醒する。


 魔力に宿った特殊能力を使えれば、この世界のカーストの上位に君臨できる。魔力を使って一般的な魔法を使えるだけでも、少なくとも人間として扱われる。


 だが――――――ルンには、それがなかった。4歳をすぎても魔力に目覚めず、15歳をすぎた今でも、魔力には目覚めていなかった。


 それ故に付いたあだ名は"無魔のルン"だったのだ。


 教室内では、いまだルンを笑う声で満たされていた。そんな中、ルンに近づく人影が3つあった。


「よぉ、ルン。今日も俺様の実験に付き合ってくれよ」


 声の主は、赤いローブを身にまとった金髪の少年――――――シャオック・サーザバンだった。シャオックは、ルンのクラスの中で一二を争う程の魔力量を持つ生徒であり、このクラスで唯一特殊能力を開眼させた生徒であった。シャオックに話しかけられたルンが身構える様子を見て、後ろの2人の取り巻きがニヤニヤとした表情でルンを見ていた。


「⋯⋯何?」


「くはっ! ビビんなよ、ルン。さっきも言った通り、俺様の実験に付き合って欲しいだけだよ。いつもみたいに、俺様の魔法のサンドバッグになって、俺様の能力の実験台になる。いつも通りじゃないか――――――と、言ってやりたいんだが――――――」


 シャオックは、懐から1本のナイフを取り出した。仕掛けや仕込み魔法などが一切無さそうな、ただのナイフに見える。


「今回はこれで実験しよう!」


 磨かれた銀の刃が、ランタンの光を鈍く反射させる。ルンは恐怖で息を呑んだ。助けを求めてルンは周囲を見回すが、生徒たちはニヤニヤとした顔で眺めるだけだった。


 逃げようと席から立とうとするが、取り巻き2人がルンが身動き出来ないよう、腕をガッシリと掴んだ。


「逃げようとすんじゃねぇよ、ルン」


 シャオックはナイフの先端をゆっくりとルンの左目に向けた。


「魔力が能力に目覚めるには、絶体絶命の大ピンチってやつがいいって聞いたことがあってなぁ?」


 銀色の刃が、少しずつ左目に向かって進んでいく。ルンは恐怖で息を荒らげることしか出来なかった。


「もちろん迷信だ。だが、俺様は優しいんだ。魔力も無ければ才能もない。才能もなければ血筋もダメダメ。そんなお前のために、迷信だろうとお前が強くなるのを手伝ってやるよ」


 狂気に包まれた笑み。取り巻きの生徒の快楽に満たされた笑み。周囲のクラスメイトの興奮に満ちたコール。


 ルンにとって、それらが全てストレスでしか無かった。


「心配すんなって――――――」


 シャオックは笑ったまま続けた。


「――――――俺様の能力で、綺麗さっぱり治してやっからよ!!!」


 ナイフを引き、その刃をルンの左目へ向け、シャオックはナイフを振りかぶった。


 左目に銀色の刃が届くまでは一瞬のはずだった。だが、ルンにとって、その時間は驚く程に長く感じていた。


 心臓が跳ね上がったのを感じた。


 なぜ自分だけが、このような理不尽な仕打ちを受けねばならないのかという疑問が混じる怒り。これから起きるであろうことへの恐怖。悪魔のような笑みでニタニタと笑うクラスメイトへの嫌悪。


 ――――――なぜ、こんなにも世界は残酷なのだろうか?


 ゆっくりと進んでいたナイフの刃は、もう既に数センチほどの距離になっていた。


 ――――――ドクンッ!


 再び跳ね上がった心臓。その鼓動と同時に、ルンの意識が一瞬だけ途切れた。

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