第3話・侵食するのは黒き澱~接触したのは闇の端~
第2章 悪意の種が芽吹く時
第3話・侵食するのは黒き澱~接触したのは闇の端~
途中、一度馬を休ませ。
……馬力のある駿馬といえど、大人の男を二人も乗せて駆け通しは無理……
最速で皇都に戻ったステールは、インスが僅かに意識を取り戻した際に言い残したように皇宮ではなく主神殿に向かう。
たどり着いた主神殿で要件を告げようとしたが、その前に外殿の奥に連れていかれ、すぐに医務殿へと移された。
「……は……?」
案内された医務殿で、意識を失ったままのインスを前に医呪神官長のシリウム=ゾナールが言葉を失っている。
当然だろう。ほんの、五日前に退院したばかりのインスが、再び負傷して担ぎ込まれているのだ。
「ゾナール神官長。お気持ちはわかりますが、先に診察を」
インスを抱いたステールを案内してきたレイニアに言われ、シリウムは溜め息と共にインスの容体を見る。
左の肩と、右の足。二か所の刺傷と魔力切れでの意識不明。
止血は正しくされていて、馬で駆けてきたせいか疲労は多少ありそうだが、先日よりはずいぶんとマシ。
これなら意識を取り戻せば魔法による治療ができそうだ。
「……で? 何があったんだ?」
ぎろりと睨むようにステールを見たシリウムは、ふと、眉を潜める。
「……おい。お前、服に下に何を隠している?」
「は?」
ひたすら小さくなっていたステールは、いきなりの言葉に戸惑って、目を丸くした。
「ベルン護衛官。お渡しした護符は?」
「……あ……!」
レイニアに言われて思い出したステールは、服の下に押し込んであった護符の紐を引っ張って外に出す。
「……っ……!?」
出して、驚いた。
「な……これは……」
「触れないでください」
「触るな」
思わず護符に触れようとしたステールを鋭い声で神官長たちが止める。
ぴたりと手を止めたステールは、真っ黒になった護符と、神官長たちの顔を見比べた。
レイニアが銀のトレーをシリウムから借りて、そこに護符を置くように指示し、素直に従ったステールはトレーの上に外した護符を置く。
手を放した途端、グラリと、世界が揺れた。
いや。正確に言えば揺れたのは世界ではなくステール自身。
酷い眩暈に思わず額を押さえ、顔を顰める。
レイニアが呪文を唱えて、魔法をかけた。
白い光が、太くて平たい……包帯のような光となってその手からあふれ、ステールの全身を包み込む。
白かったそれがステールの体に触れると黒く染まってぼろりと崩れ、空気に溶けるように消えていく。
それが何度も繰り返されて、黒くならなくなったころには眩暈も治まっていた。
「……今のは、いったい……?」
「悪意の籠った魔力。ですね……護符である程度は防げていたようですが、どこかで強く浴びましたか?」
「……悪意の籠った魔力……?」
問うとはなしに呟いたステールにレイニアが答え、その言葉をステールは考え込むようにして繰り返す。
悪意が籠っていたかどうかはわからないが、少なくとも同じ護符を持っていたインスが体調不良を起こすほどの魔力があったのであろうことは確か。
その辺りのことを話すと、一体全体そこで何が起こったのかを洗いざらい喋らされる。
途中、またも具合が悪くなって魔法をかけて貰ったり、インスも意識を取り戻して会話に参加してきたりで少し時間はかかったが、本当に一から十まで全部喋らされてしまう。
「……お前ら、何やってるんだよ……?」
意識を取り戻したインスに回復魔法をかけながら呆れた様子でシリウムが言う。
「仕方ありませんよ……。私も予測しきれませんでしたし……それに、念のために用意して頂いた護符のおかげで、こうして生きて帰って来れていますし」
痛みに顔を顰めつつ、あっさりと言うインスをちらりと見ながら、ステール自身もレイニアからまた魔法をかけてもらい、この不快感と言うか、何というか……
気を抜くと襲い掛かりそうな嫌な気持ちを徐々に薄れさせていってもらう。
「お前なぁ……」
インスの言い様に呆れかえるシリウムの近くで、ステールに魔法をかけるレイニアは苦笑を漏らすだけ。
そうは言っても、呪師を殺せるだけの能力がある護衛官が、何かに操られて呪師に襲い掛かり、殺そうとした。だなどと、到底看過できることではない。
実際、事前にもしもの場合を考えて護符を用意していたこと。
さらに、操っている悪意の籠った魔力を跳ねのけることができるだけの魔力を込められること。
この二つが揃っていたからインスは生きて戻って来られたが、どちらか片方でも欠けていたら助からなかっただろう。
操られたステールがインスを殺した後に自由に動けるようになったかも分からないし、もし自由を取り戻せなかったら、皇宮で他の呪師に襲い掛かっていたかもしれない。
「とにかく、この件は皇宮側に持ち帰って報告すべき内容で、神殿側が口を出せるものでもないでしょう?」
インスの言う通りではあるのだが、この問題は神殿側にも関係してくる。
「その結果、神殿側に負担がかかりすぎるなら当然抗議は入れるぞ?」
悪意の籠った魔力の浄化は白魔法でしか行えないので、もし操られる者が出たらその対処に神官呪師が駆り出される。
それも、呪師を殺せるだけの実力者である護衛官相手に、殺そうと襲い掛かられながら浄化していかなければならなくなるかもしれない。
「そこは当然でしょう。ただ、私にできるのが皇宮側への報告と言うだけです」
にこりと笑って言うインスに顔を顰める。
こんな報告を入れられた日には皇宮側の呪師はしばらく機能不全に陥るだろう。
近づかなければ大丈夫。と誰が保証できるというのか。
「こいつ……」
口の中だけで吐き捨てるが、別にすぐ神殿側に負担がかかるわけでもない。
精々なぜかどこからか呪師殿内に情報が流れ、皇宮呪師と皇宮護衛官の間にピリピリとした緊張感が横たわり、ひそかに皇宮呪師長のキプラに対しての不満が囁かれるだけ。
しかもキプラ自身はそんな不満など一切気にする人物でもないのはシリウムもレイニアも……言っている張本人であるインスも、もちろんステールも知っている。
繰り返し浄化を受けるステールも何度も繰り返される体調不良に疲れてぐったりしてきているし、回復魔法で怪我の治療をしたインスも、体力を使い果たしてぐったりとしている。
「とりあえず。二人共今日は神殿側で待機だ。皇宮には伝令しておく」
溜め息を一つ。
報告に関してはインスの好きにさせることにし、二人には一晩の入院を命じた。
第2章第3話をお読みいただきありがとうございます。
満身創痍で担ぎ込まれたインスを見て言葉を失うシリウム。
読者の皆様も「またインスか!」と思わずツッコミたくなったのではないでしょうか。
命からがら主神殿へと戻った二人。
そこで明らかになったのは、ステールの護符を真っ黒に染め上げた「悪意の魔力」の正体でした。
インスの機転がなければ、二人は今ごろ……。
呪師が護衛官に「理由もなく殺されかける」という前代未聞の事態。
これが皇宮に報告されたとき、どんな波紋を呼ぶのか。
ステールを操った「悪意」の恐ろしさもさることながら、そんな状況でも「皇宮側への報告」という政治的な次の一手を忘れないインスの逞しさが光る回でした。
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
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【第2弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




