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第2話・最短ルートで効率的に~捧げた祈りとその代償~

第2章 悪意の種が芽吹く時



      第2話・最短ルートで効率的に~捧げた祈りとその代償~



 ステールが再び剣を振り上げる。



「っ!」



 咄嗟にインスは池の水をひっかけてステールの視界を遮り、その場を離脱する。



 だが……



「……っ!?」



 立ち上がり、走り出しかけた右足。ふくらはぎの下辺りに走った激痛に悲鳴を上げる。



 足をもつれさせるようにしてその場に転倒し、痛みを堪えて見れば、ステールが投げた小型のナイフが刺さっていた。



「……っく……っ!」



 腕の力だけで起き上がるが、すぐに距離を詰めたステールに無造作に掴まれ、仰向けの態勢で地面に押さえ込まれてしまう。



「……ス……テー、ル……さ……っ」



 首を押さえつけられてしまったせいでまともに声も出せない。



 押さえ込む手を掻き毟り、必死に抵抗しながら見上げたステールは、何かに抗うように唇を噛み、体を震わせている。



 けれど、その手は握った剣を振り上げ、インスの肩を貫き、地面に縫い留めた。



「……っぁ……っ!!」



 びくりとインスの体が跳ね、唇からは再び悲鳴が上がる。



 グッと、力を入れるステールの唇の端に朱が滲む。



「……ぃ……んす……っ!」



 体を震わせて、絞り出すような声がする。



「……に、げろ……っ!!」



 言いながら、ステールは自分で自分の体を押さえ込んだ。



 ――――――――――――――――――

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 インスが塔の中を覗き込み、体調不良を起こして池際で蹲って少し。



 背を撫で、様子を見ていたステールは不意に体の自由が利かなくなったことに驚いた。



 視線は動かせる。けれど話そうとしても声は出ない。



 ハクハクと、意味もなく開いたり閉じたりするのが限界で、音が全く出てこなくなっていた。



 気づけば、肩を抱き、背を撫でていた手が離れ、いつの間にか剣を抜いている。



 具合を悪くしているインスはこちらの様子に気付くこともなく、勝手に動く身体も違和感に気付かれない程度にまで気配を潜めていた。



 そうして、多少回復したらしいインスが振り向く気配を見せたと同時に剣を振り下ろしてしまう。



 驚きながらも即座に躱してくれたおかげで無事で済んだが、体は全くいうことを利かない。



 止めようと力を入れるが、微かに震えるだけ。



 再び剣を振り上げたのを見たインスが池の水を顔に引っ掛けてきたが、視界を遮られただけでは何の意味もない。



 むしろ、ステール自身では視認できなくなった途端に、懐から取り出した刃物を投げていて、上がった悲鳴に何が起きたのかを理解する。



 目に入った水を払うと、右脚に先ほど投げたナイフを刺したインスが転んでいて、起き上がろうとしていたその腕を掴み、地面に押し付ける。



 よりにもよって仰向けにして、喉を押さえ込んでしまっていては声を出すどころか息もできないだろう。



 それでも、必死に抵抗して、呼び掛けてくるインスに、これ以上の危害を加えないようにと体に力を入れ、止めようとする。



 そんなステールの抵抗をあざ笑うかのように、振り上げた剣の切っ先はインスの左肩を貫いて地面に縫い留めてしまう。



 再び上がった悲鳴と、びくりと跳ねた体の動きに、唇を噛んだ。



 錆びた苦みが口内に広がる。



「……ぃ……んす……っ!」



 ようやっと、唇から音が漏れた。



 同時に、僅かに体の主導権を取り戻し、自分で自分の体を押さえ込む。



「……に、げろ……っ!!」



 押さえ込みながら声を絞り出すが、我ながら無茶なことを言っているとも思う。



 何しろ、最初に足を傷つけて逃げられなくし、続いて肩を貫いて地面に縫い付けているのだ。



 逃げようと思ったら、少なくとも地面に縫い留める剣を抜かなければいけないだろう。



 喉をつぶさんばかりに押さえ込んでいた手は放せたが、咳き込んで、苦し気に息をするインスが動けるとは到底思えない。


 ではどうするかと言われても、こちら側はこれ以上危害を加えないように、何とか自分の体を押さえておくことしかできない。



 苦しげに咳き込むインスが、ぐぐと、右手を伸ばしてステールに向ける。



「……っ!?」



 魔法を使う気か?



 そう思った瞬間、体がまた勝手に動いた。



「っ!! インスっ!!」



 声は、出た。



 けれどそれだけ。



 体を止められない。



 膝で胸部を押さえ込み、両手がその、男にしては細い首に絡みつく。



(っ! まずいっ!!)



 指が、勝手に食い込む。



「……っ。弾け!!」



 締め上げる。その直前に、インスが叫んだ。



 膨大な量の魔力が、ステールが首にかけて服の下に押し込んでいた護符に流し込まれる。



「っ!?」



 途端にバチリと何かが弾ける音がして、一瞬の痺れの後、体の自由を取り戻す。



 できるだけ遠ざかろうとしていた意識に引っ張られて、後ろに倒れかかる。



「……っ!!」



 みっともなく尻もちをついてしまったが、間違いなく体は自由に動いた。



「インス!」



 素早く立ち上がり、ぐったりと横たわるインスの様子を確認する。



 荒く息を吐き、青ざめた顔で瞼を閉じてしまってはいるが、生きている。



 それを確認すると、素早く止血を施す。



 左の肩と、右脚に刺した刃物は慎重に抜き去り、強く圧迫して出血を押さえた。



 そのまま、インスの体を横抱きにして急いでその場から離れる。



「……ぅ……っ」



 抱き上げた途端に小さく呻き声(いき)を漏らしたインスがうっすらと目を開いた。



「っ! インス!」


「……しゅ、神殿……に……」



 ハッと呼びかけると掠れた声を絞り出し、それだけ告げる。



 再びがくりと意識を失ってしまったのを見て、背筋が凍った。



「……っ……!」



 なぜわざわざ主神殿なのかまでは分からなかったが、考えている暇はない。



 ステールは急ぎ馬の元に戻ると、最速で皇都まで駆け抜けた。


第2章第2話をお読みいただきありがとうございます。


旧都に充満する「魔力の残滓」は、ただ不快なだけでなく、人の自由を奪うほどの悪意に満ちていました。


身体の自由を奪われたステールと、地面に縫い留められたインス。


自分の意志に反して、守るべき相手を、自らの手で傷つけてしまったステールの絶望と、窮地の中で機転を利かせたインスの判断も、彼らしい強さだったのではないでしょうか。


深手を負ったインスが、意識を失い際に遺した「主神殿へ」という言葉の真意とは?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第2弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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