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第1話・渦巻く魔力《いろ》の重圧と~残る痕跡《ちから》に充てられる~

第2章 悪意の種が芽吹く時



      第1話・渦巻く魔力いろの重圧と~残る痕跡ちからに充てられる~



 休憩を終えた二人は一頭の馬に同乗して旧道を駆け、旧都に到着した。



 旧都に近づくにつれ、道は荒れ、旧都内の古い石畳の路も障害物が多く散乱している。


 だが、流石は聖皇国最強との呼び声高い騎兵団を有する辺境伯家に属する寄子家の出身なだけあって、ステールの乗馬技術はそれらをものともしない。



 やがて、廃宮殿の敷地に入ると、そこで一旦馬を止め、門柱の跡に繋いで休ませる。



 近くに転がっていた朽ちかけた桶にインスが魔法で水を入れ、馬が近くに生えている草を勝手に食むに任せた。



 二人も一息入れて、それぞれに確認を済ませると問題の西の塔へと向かう。



「……ぅわぁ~……」



 塔のある小島が見えた瞬間、インスは足を止め、顔を顰めた。



 足を止めたインスの様子に、ステールは無言でどうするかを問う。



 しばらく様子を見ていたインスは、溜め息を一つ吐くと胸の前で十字を切った。



 一度大きく。続けて、その上に小さく。



 複十字ディエルじゅうじを作って、口の中で小さく祈りの文言を唱える。



 神官呪師ではないインスは白魔法で使う神語は知らない。



 だから、祈りの言葉は普通に人々が使うのと同じもの。



 隣でステールも同じように十字を切って、祈りの言葉を唱える。



(神様。お願いします。インスが全魔力突っ込んで魔法を暴走させたら、流石に無理です。止められません。こいつが全魔力突っ込んだら、最下級の魔法でも辺りが灰燼に帰します。しかも最下級じゃ詠唱も一瞬過ぎて間に合いません。どうか暴走させないでください……)



「……いつまで祈ってるんですか……?」



 手を組んで、ひたすらぶつぶつと祈るステールを暫く待っていたインスが、何やら不服そうな顔で声をかける。



「お前が暴走しないように祈ってる」


「失礼な……」



 真面目に返してきたステールの言葉に、ますます不服そうな顔をしたインスは、行きますよと先を促す。



 西の塔がある小島に渡って、ぐるりと辺りを見回して……周囲の魔力を感じ取って、状況を確認していく。



 魔力と言うのは、通常は目に見えるものではない。



 けれど、魔力を感じ取ることができなければ魔法は使えない。



 だから呪師は、見えはしなくても魔力を感じ取ることができる。



 さらに、魔力の違いを、より詳細に、そして繊細に感じ取り、自分が望む結果をもたらす魔力を呼び集め、形を取らせることで魔法を使う。



 神官呪師が使う白魔法は神の奇跡ともいわれる光の魔力。



 皇宮呪師が使う黒魔法は魔族の力さえも利用する闇の魔力。



 そして、どちらの呪師でも使うことが可能になる精霊魔法は、自然界に存在している精霊に働きかけて、現象を起こす精霊の魔力。



 白魔法は神語で、黒魔法は魔性語で、そして精霊魔法は精霊語で呪文を唱え、望む形を作らせる。



「……………」



 この、西の塔がある小島には、自然界に存在する自然魔力……多くは精霊の魔力……以外に、のしかかるような濃密な魔力が入り混じって存在していた。



「……これを感知していて、無防備に近づいた? 馬鹿ですか?」



 冷ややかな声が、思わず零れる。



 ゆっくりと、インスが塔に近づいていく。



「……………」



 その後を、少しだけ距離を置いてステールも続く。



 先の調査隊に同行した、討伐隊から派遣された呪師たちが発狂した地点で、インスは手を上げ、ステールを止める。



 足を止めたステールは、そのままインスが慎重に崩れた壁から塔の中を覗き込むのを見守った。



 その手が、腰に下げた剣にかかっていて、異変があれば即座に抜ける構え。



 緊張しながら様子を見守るステールの視線を感じながらも、インスはゆっくりと、塔の中を見た。



「……っ」



 ぶわりと、吹き付けるような魔力の重圧と焦げて錆びた臭いを感じ、微かに顔を顰める。



 そして、息を飲んだ。



 床一面を染める黒ずんだ色。



 それから、焼け焦げた跡。



 流石に、誘拐されて犠牲になった子供たちの遺体は回収されたのか見当たらないが、惨劇の痕跡を色濃く残している。



 何より……



(……これ、は……)



 いくつもの、強い力が入り混じり、塔の中で今なお蠢いていた。



 ジワリと冷たい汗が浮かぶ。



 それは、光の神剣の力の残滓であり、風の神剣の力の残滓であり、火の神剣の力の残滓であり、地の神剣の力は……残滓の域を超えた痕跡。



 他にも、魔族・アーグが使った力の痕跡なのだろう。濃密な闇の魔力と……



 一瞬。視界が暗転する。



 眩暈を起こし、酷い吐き気と頭痛を感じて、一歩、後ろに下がる。



「っ! インス!」



 すぐにステールが声をかけるが、手で合図して大丈夫であることを伝えた。



 そのまま、更に一歩、二歩と下がって、塔から離れる。



「大丈夫か?」



 離れたのを見て取ったステールが駆け寄ってくるが、池の端で蹲ってしまったインスは真っ青。



 微かに頷くことで応えるが、口に出して返事ができるまでの余裕はない。



 肩を支え、背を撫でてくるステールにされるがまま、しばらく必死に吐き気を堪えて慎重に深呼吸を繰り返す。



 忘れられた旧都の、朽ちかけた廃宮殿の西端の塔とは言え、小島が浮かぶ池の水は清涼で、精霊の力も清らかに保たれている。



 おかげで、あまりにも濃密な魔力がまじりあって存在するこの場で、唯一と言っていいほど魔力に充てられることなく心身の不調を整えられた。



「……すみません……もう、大丈夫です……っ!?」



 しばらくして、漸く不調が治まってきたインスは顔を上げ、ステールを見る。



 青い顔でステールを見て、すぐさま身を下げた。



 その体の前を、抜身の剣が通り抜ける。



 手が当たって、ぱちゃりと池の水が跳ねた。



「え……?」



 いきなりのことに驚いたインスがステールを見上げる。



「……………っ」



 ステールは必死に歯を食いしばり、体を震わせていた。

第2章第1話をお読みいただきありがとうございます。


インスの暴走を本気で心配して祈り倒すステール。


そんな彼を「失礼な」と一蹴するインス。


二人の信頼関係(?)が見える道中でしたが、塔に到着してからは一転して息苦しい展開になりました。


ついに足を踏み入れた旧都・西の塔。


呪師であるインスですら体調を崩すほどの濃密な「魔力の残滓」は、あの日ここで起きた惨劇の凄まじさを物語っているようです。


そしてラスト、インスを支えていたはずのステールが剣を抜いた真意とは?


魔力に「充てられる」恐怖が、二人を飲み込もうとしています。


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第2弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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