第1話・解ける遺恨の片鱗と~解けない本音を知らぬまま~
第3章 外堀埋める大人たちの思惑
第1話・解ける遺恨の片鱗と~解けない本音を知らぬまま~
何やら神殿と呪師長がもめているらしい。
そんな噂がちらりと聞こえてきた翌日。
呪師寮のインスの部屋を三人の皇宮呪師が訪ねてきた。
彼らは、廃離宮への一回目の調査に同行した討伐隊所属の呪師たち。
見た目の年齢は三人とも三十代ほど。
しかし、実際にはもっとずっと上。
インスが呪師学校を卒業し……
正確に言うなら、呪師学校に在学中から……
討伐を含む各種の任務に駆り出されるようになるずっと前から、彼らは討伐隊の一員として多くの功績を上げてきた。
それが、いつごろからか若干腐ったような言動が増えていて……
先日の調査任務への同行時もそのせいか失言や傲慢な態度ばかりを取って、最後には魔力に充てられて魔法を暴走させてしまった。
当然その結果、火消しされた時には魔力切れを起こして意識を失っており、復調するまでの数日間を皇宮内神殿の医務殿で過ごし、先日退院してきたばかり。
「……ええと……」
話があると押しかけて来られて……
何やら深刻そうな表情をしていたものだから仕方なく……
部屋に通したインスは、一応お茶を振舞って話し出すのを待っているのだが、一向に口を開かない。
流石に、このまま無言で顔を見合わせていても意味がないので、少し困ったように首を傾げて促す。
「……あ~。その……」
ちらちらと何やら目で言い合って、一人が漸く口を開く。
三人の中でもリーダーシップが強く、基本的には彼が残りの二人を引っ張っていくような立場にいるので、最初に話し始める役目も担うことにしたのだろう。
「……悪かったな……」
「……は?」
ぼそりと、視線を逸らして呟かれて、インスはますます首を傾げた。
一体、いきなり何を言い出したのか全く分からない。
本気で訳が分からない様子なのを見て取ったのか、それとも口火を切ったおかげか、続きを話し出す。
「や……。色々と、その、手間をかけたな。と思って……俺たちが油断して、と言うよりうぬぼれて馬鹿な真似したせいで調査隊の奴らや、他にも色々と迷惑かけたから……お前にも、その、後始末押し付けるみたいになっちまったから……」
「……ええと。調査隊の方や、救援に行かれた方に関しては私に言われても……それに、私も後始末と言えるようなことはできていませんし……」
説明と言うか何というかを聞かされても、インスには何とも言えない。
実際に、彼らと同行した調査隊の呪師たちや皇宮護衛官。
それに、救援として派遣された他の呪師たちに関しては、そちらに直接謝罪なりなんなりを伝えて貰わなければ意味がないだろう。
自分に言われても、できるとしたら彼らの代わりに伝えることだけ。
それで双方の間のわだかまりのようなものが消えるわけではないだろうし、むしろ逆にこじれる可能性も高い。
「ああ! 違う違う! そっちにはとっくに謝罪してある。……まあ、それで許されるとも思わないけど、けじめくらいはつけておこうと思ってな」
慌てて言う一人と同時に、残りの二人も口々に頷き、別にインスに何かをして欲しいわけではないと伝える。
「……そうじゃなくて……あ~。悪い。うまく言えないけど、と言うか、ここまで来てもアレなんだが……お前に対しての色々を謝りに来たんだよ」
「……はい……?」
ポリポリと頭を掻きながら言いにくそうに言われてインスは目をしばたたかせた。
「俺たち、態度悪かっただろ?」
「いい年してみっともないことしてたな……と思ってな……」
「マジ老害って感じだった……」
口々に言って、真っ直ぐにインスを見る。
彼らは別に無能と言う訳ではない。
むしろ、ある一定以上の実力を持っているからこそ彼ら自身と、インスとの差がよく分かる。
呪師学校入学後、十五歳で討伐訓練に参加した当初は、どんな魔物でも、場合によっては魔族が現れたとしても倒せると本気で思っていた。
そのくらいの才能も、実力もある。と……
けれど、本当の戦場はそんな子供の薄っぺらな自尊心などあっという間に粉々にした。
一瞬の判断ミスで、自分も、仲間も命を落とす。
自分一人で倒せる相手などたかが知れている。と思い知らされ、実力が近かった他の二人とつるむようになり、三人でなら何とかなる場面が増えた。
そうやって、呪師学校卒業後に正式な皇宮呪師となり、討伐隊に所属して、何度も、何度も生死を分かつような戦いに身を投じ……協力し合って生き抜いてきたのに……
本物の天才が現れた。
まるで、幼いころに思い描いていた理想そのものといえる、本物の天才。才能の塊。
自分たちが力を合わせて漸く切り抜けてきたような現場で、まだ呪師学校在学中の、十五歳になったばかりのインスが一人で魔物を一掃させるのを見せつけられて……
そこからだ。彼らが腐り始めたのは。
別に、インスが彼らを馬鹿にするような態度を取ったことなど一度もない。
少なくとも、この目で見たことはないし、実際に「彼ら自身」を馬鹿にしたことはなかった。
もちろん、彼らが馬鹿なマネをした時には、流石にその行為を咎める言葉を漏らすことはあったが、それも「行為」を咎めているだけ。
それなのに、勝手に馬鹿にされていると思い込み、嫌味な態度を取ってきた。
自分がいれば、他の者などはいらない。とでも言わんばかりで生意気だ。と、ありもしない妄想を、あたかも真実であるかのように。
そうして、口先だけでもインスを下げなければ彼ら自身のプライドを守れなかった。
今になって思えば、たいしたプライドでもないのに、いい年してみっともない真似をしていたな……と遠い目をしてしまう。
先ほど一人が言っていたが、マジ老害。
そう気づいて、羞恥でもんどりうった。
年齢が上であることだけ、その分経験がある事だけが自慢で、誇りで……そんなくだらないもののために守るべき仲間を危険に晒した馬鹿だ。
「いえ、そんなことは……」
「「「すまなかった」」」
困惑するインスに、三人は改めて、頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
「っ!? ちょ……!!」
驚いて、声をひっくり返したインスに、顔を上げた三人はちらりと目を見合わせて苦笑を浮かべる。
「今後は俺たちも態度を改めるよ」
「手が必要なら、いつでも声かけてくれ」
「精一杯、協力するからさ」
「……………」
ニッと笑う三人に、インスは言葉を失う。
「何なら、いまだにいろいろ言ってる奴らを黙らせてこようか?」
「ま、お前は気にしてないようだけど……」
「その気になったら言ってくれ」
そこまで言って、三人は席を立つ。
しばらく訓練ができていなかったから、これから訓練をしてくる。
今後はもっと訓練も真剣にやって、油断しないように気を付ける。
そんなようなことを告げて、部屋を出て行った。
若干困ったように、困惑した様子で見送ったインスは……
「……私が、一人でできる事なんて、たかが知れているんですけど、ね……」
彼らが座っていた椅子を見るとはなしに見つめて呟いた。
第3章第1話をお読みいただきありがとうございます。
かつては嫌味な態度を取っていた討伐隊の先輩たちが、まさかの謝罪。
インスへの嫉妬や自分たちの限界を認めるのは、大人にとって一番難しいことかもしれません。
しかし、彼らの謝罪の裏で進む「神殿と呪師長のもめ事」が気になります。
インスが望まぬところで、大人たちの采配が着々と進んでいる予感が……。
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
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【第2弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




